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夢の続き

都会の人混みを、女が車椅子を押している。


車椅子には小柄で病弱そうな、この国の主な人種のそれとは異なる髪と肌の色をした少女が座っていた。


風景について一通り説明を終えた女が、少女に語りかける。


「夢の続きについて考えたことがあるかしら?」


「…突然何の話だ?」


「例えば夢の中で、『これは夢だ』って気づくことがあるじゃない?」


「まぁ…そうだな。それがどうかしたのか?」


「そういうときって、普段出来ないことをやってみようって考えるのが一般的じゃないかしら?」


「たしかに、そういうこともある」


「美味しいものを食べるとか、大声で叫んでみるとか」


「あぁ…空を飛んだりとかな」


「自分の足で歩いてみたりとか」


「…嫌みか? 車椅子を押してくれて感謝はしているぞ?」


「ふふ。それほど大変ではないから気にしなくていいのよ。それからあとは…『人を殺してみたり』とか」


「な!? ……それは一般的か?」


「うふふ。まぁ殺さないにしろ、犯罪行為は候補に上がるんじゃないかしらねぇ?」


「うーん…夢だからこそってことか」


「そういうことね。夢はたんなる夢でしかない。目が覚めればそれでおしまい。すべてはなかったことになる」


「でも…本当にそうかしら?」


「?」


「夢は本当に現実ではない? そう解釈しているだけで、現実の出来事だとしたら?」


「夢は夢だろう? 記憶の整理のために脳が作り出した幻想でしかない」


「そうね。だけど、その考えが事実じゃなかったとしたら?」


「……」


「全部の夢が現実ではなかったとしても、何回かに一回は現実だとしたらどうかしら。ちょっとは考えやすくなる?」


「むぅ…だとしても、現実とは思えないことが起こるのはおかしいだろう? そういった夢は幻想で、現実のような夢についてのみ言っているのか?」


「そうねぇ。突飛な内容だったとしても、現実的だったとしても、夢の中では自分が別人になっていたり、見知らぬ土地でさも当然のように暮らしてることもあるわね」


「そのわりには登場人物は身近な人間だったりするだろう? 現実の記憶が適当に繋ぎ合わされればこそなんじゃないのか?」


「まぁ、そういう解釈もできるわねぇ…でも、こう考えたらどうかしら?」


「夢は『パラレルワールドの自分』との入れ替り現象だ、って」


「」


「ふふふ。そう解釈すればつじつまが合わないかしら? 見ず知らずの場所で違和感がないのも、その世界の自分はそこで暮らしているのだから当然だし、登場人物も近似した世界であればそうなってもおかしくないのだし」


「……むぅ…そうとも考えられなくもないが……」


「うふふ、本気にしなくてもいいのよ? 狂人の妄想話だと思ってくれて構わないわ」


「どこの馬の骨かわからない人間に言われればそうも思うが、自分の世界を作った神に言われれば混乱もするだろう……本当にそうなのか?」


「ふふ、さぁ? そうだったら面白いと思ってるだけよ。…それで、もし夢が異世界での出来事だったとして、夢の続きはどうなるのかしら?」


「うーむ…もしそれが異世界として存在してるなら、そのあとも存在し続けるだろうな」


「そうね…どうせ夢だからと思いきった行動をしたあとにも、その世界は続いていくんでしょうねぇ」


「うむ…それで? 何が言いたい?」


「その続く世界の自分は、ずっとその世界で生き続けるのでしょうね。自分ではない自分に、どうせ夢だからと引っ掻き回された人生を」


「それは……」


「人生が続くならいい方で、無茶をした結果死んだりしたら大変よねぇ。異世界の自分とはいえ、他人に自分の人生の行く末を決められたうえ、その当人は夢から目覚めてへらへら自分の人生つづけてるんだから」


「う、うーん…」


「現実でもたまに頭がおかしくなった人間が変な行動したりするけど、それってその人自身の意思なのかしらね」


「……こちら側も乗っ取られる可能性はあると?」


「ふふ、乗っ取りっていうのは良いわね。まぁ異世界の自分といえども他人には違いないのだし」


「防ぐ方法はないのか?」


「そうねぇ。自分の意思をちゃんと持てばいいんじゃないかしら? ふわふわしてたほうが無防備そうだし」


「はぁ…適当すぎないかそれは」


「うふふ。まぁ、せいぜい異世界の自分を信じることだわね。神頼みより荒唐無稽だけど」


「全くだ…」


「それで、そろそろ帰る?」


「ん、そうだな。そろそろ約束の時間だ」


「時間? …あぁ、病院の外出時間の話かしら?」


「違うのか?」


「えぇ。私が言ってるのはもとの世界に戻るって話よ」


「は? ……! まさか、ここは……」


「そう、ここは現実よ。あなたが暮らしてた世界とは時間も場所も大きく違うけど」


「そんな……いや、神なら不可能はないと、そういうことか…」


「ふふ、まぁ、苦手なことはあるけどこういうのは得意なのよ。それでどうするの? 戻る? もう少し観光する?」


「ん、戻ろう。…いや、待て!」


「ん? どうかした?」


「ここで私たちが戻ったら、『ここにいる私たち』はどうなる? 消えるのか? それとも…」


「さぁ……それは『ここ』にいる私たちにしかわからないことだわね」

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