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第8話 私、すくすくと成長しています! 【前編】

投稿遅れて申し訳ないです。

朝、目が覚めると大抵メイドさんが寝室にいる。今日はアリスがいた。

「ありす、おはようー」

「スカーレット様、おはようございます」


 眠い目をこすりながら体を起こすと、アリスが私の身支度を手伝ってくれる。フリフリの子供服に着替え終えると、私はアリスを連れ添って部屋から出る。


 アリスとつないだ手を、ぶんぶんと振りながら私は歩く。

 食堂へ行くとエレンお母様がいた。

「おはよー」

「ふふ。おはよう、スカーレット」

「おかあさまー、好き!」

「あらあら」

とてとてとお母さまのところまで歩いて行って、ぎゅうっと抱き着く。朝のスキンシップだ。

授乳の時期は終わっても、お母さまとはよく顔を合わせていた。例えば朝食と夕食は一緒に食べている。

しかしお母さまも忙しいみたいで、四六時中いっしょにいられるわけでもなかった。



ご飯を食べた後、自室に戻ってアリスと遊ぶ。午前の時間は自由時間だった。

アリスが、今日は絵本を読んでくれた。


「これははるか昔のお話です」


アリスの体に背中をもたげながら、静かに彼女の声を聴く。アリスは私を後ろから抱くような姿勢で絵本を前に置き、私にも絵や文字が見えるように読み聞かせてくれていた。


「みんなが一つの場所で、助けあっていきていました。そこは幸せな笑顔に包まれていて、何一つとして不和はありません」

 

 絵本の読み聞かせは、文字を覚える練習にもなってありがたいのだが、私はあいにくもうすでにほとんど覚えてしまっている。

アリスにずっと抱き着いてるだけでも満足と言えば満足だが、しかし一方で退屈と言えば退屈だ。

ただ、暇をつぶす方法ならばある。

「しかしある時、あくの魔王が誕生してしまいました」


アリスの、絵本を読み上げる声だけが響く。


 私は目を絵本から外すと、自分の体を見た。モヤモヤとしたもの――魔力という名らしいそれが、身体から薄く漂っていた。


 魔力を出したらだめだとは確かに言われた。しかし、そもそも自発的に出そうとしなくても勝手に身体の周りに漂っているのだ。もちろん、はじめはちゃんと引っ込めていたのだが、途中からそれも面倒になった。だから、ある程度の量になったら引っ込めるが、少ない量のモヤモヤに関してはほっといてもいいのではないかと判断する事にした。


 怒られたときも、いっぱいだしたからだしね。それにカフルもメイド長も何も言ってこない時点で、恐らく大丈夫なのだろう。


 さて、このモヤモヤ、名は魔力と言うらしいが、うまく使えば魔法になるらしい。しかしそれは危ない事らしいのでやらない。というかやり方も知らない。だかr、私にできるのは魔力を操ることだけ。

だけれども、これを動かして粘土みたいに遊ぶのは、だいぶ楽しい。


「魔王は邪悪な配下を従え、人々に恐怖を陥れていきました。彼らは摩訶不思議な力を操ります。火を操り、嵐をを巻き起こし、大地を荒廃させ、世を混沌のものにします」


 絵本を読み聞かせるアリスの澄んだ声を聴きながら、魔力を操る。

 

 体から切り離し、宙に漂わせる。薄く引き伸ばしてみる。モヤモヤの煙みたいな魔力が円盤形になった。


 さらにそれを可能な限り薄く引き伸ばしてみた。えいっと念じてみると、ピザ生地みたいにぐにゃあと伸びる。


「絶望に陥った人々。しかし、そのなかで立ち上がったものがいました。神からの力を授かりしその男は、人々の願いを背負い、魔王に戦いを挑みます」


 薄く伸びたそれを今度はそれを一か所に集めた。丸くなった魔力を、より球の形に近くなるように成形する。ふわふわとして、うまく形作るの難しいので時間がかかる。


 ある程度球形になったところで、それを動かしてみる。上へ下へ、左へ右へ。順応無尽に飛び回らせる。どんどんどんどん速度を上げていく。


「男は神から受けた力を振るい、火を消して、嵐を鎮め、大地を癒し、世に平和をとりもどしました。魔王の配下である魔族や魔物、初めは一人で立ち向かいましたが、やがて森の民エルフや山の住人ドワーフ、各地の獣人や天空の旅人が男に力を貸しました」


 しかし、ある程度の速度を過ぎたところで、速さに天井を迎える。目で追える限界ギリギリの速度までしかだせなかった。どうしてだろうか。


「さて、ついに魔王との戦いです。男達は果敢に戦いましたが、魔王はとても強く、苦戦を強いられます」


 ボールの形をいったん解く。魔力がモヤモヤと広がった。今度はそれを、小さな単位で、たくさんの数に分離しはじめた。できる限りたくさんの数を創ろうと頑張ると、十ほどの数にもなった。


 十ほどの魔力の球を、それぞれ独立した軌道で動かす。


「しかし、そこに神があらわれます。神は男達に味方し、ともに魔王と戦います。魔王は強く厳しい戦いを強いられましたが、三日三晩の戦いの末、ついに男達は勝利しました。凱旋する彼らを人々は讃えます」


幾つかの球が、視界の端でとまった。それはそれ以上進めようと思っても動かない。だが、また逆の方向へ動かそうとすると、それは容易にうまくいった。


  

「彼らは、神とともに国を作りあげました。そして手を取り合って国を発展させ続け、国はどんどん豊かになっていきます。しかしやがて彼らも寿命を迎えます。男たちの死後、残された神は男との間にもうけた子を王座につけ、後を追う様に自身も天へと昇っていきました」


 もしかすると目でとらえられる範囲でしか、魔力というものは動かせないのではないだろうか。

 だから、動体視力の範囲内でしか魔力は速度をもって移動させられないし、視界の内でした魔力を動かせない。

 

「男の名前はエヴォーリカ。それは、彼らが打ち立てた国の名前にもなりました。おしまい」

そこで、アリスが絵本を読み終わったようだ。いったん魔力へ向けていた集中をとく。


目の前にある絵本に眼をむけた。大きな絵が描かれた右上に、文字が配置されている。

ついで顔をあげて、アリスを見上げる。アリスもこちらを見下ろし、目が合った。私は笑顔をうかべる。


「ありす、おもしろかったよ。ありがとぉ」


「いえいえ。どういたしまして」


にっこりと笑うアリスの頭の上では、猫耳がピコピコと動いている。かわいい。


……触ってみたいなぁ。


おそるおそる手を伸ばす。そして、そっとアリスの猫耳に触れた。もふもふとした毛並みに手が当たる。本当に猫の耳みたいだ。触っていて、とても気持ちいい。

指で挟むようにして、弱い力できゅっと挟んでみた。


「ひゃうんっ」


「うにゃっ!」


アリスが、声をあげて身をすくめる。私は慌てて耳から手を放す。


「ご、ごめんね、ありす。さわっちゃだめだった?」


「い、いえ。そういうわけじゃないんですけど。……………………ただ、ちょっと敏感なので」


後半の部分をゴニョゴニョとした声でアリスは言う。顔がほんのり赤くなっていた。

何だかいけないことを聞いてしまったみたいだ。こういう質問を幼い子共にされたら困るよね。

「もう、さわらいでおくね」

「え、いや、その。スカーレット様になら、その、別に……」

「んー?」

「な、なんでもないですよぅ」


そんなこんなで、お昼の時間になるまで私はアリスとじゃれ合っていた。


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