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閑話 メイドさんたちの隙間話

前半でいっぱい出てくる名前は適当に読み飛ばしてもらって大丈夫です。


 ヴァルムフォード侯爵家は、神聖王国エヴォーリカの屋台骨を担う大貴族の内の一つである。


 南部に広大な領地を保持しており、現当主のルーカスの采配によってその領地は非常に潤っている。それでいて過度な税収を科すこともなく、領主ルーカスは領民から高い支持をうけていた。

ルーカスは非常に人徳に篤く、真面目な人物で国王や宰相をはじめとした中央貴族からの覚えも非常に良かった。


 ルーカスの父にして前当主ハルクスは中央の財務大臣を務めており、中枢の政界にも侯爵家は絶大な影響力がある。他にもヴァルムフォードの名を持つ多くの親類が中央の政界に大きな影響力を持って食い込んでいた。


 ルーカスは二人の妻を持つ。正室はもう一つの侯爵家クロードオハラ家より迎えられたソフィーカ。もう一人は、側室としてシャロン伯爵家より迎え入れられたエレンという女性。


 ソフィーカは貴族院時代より恋仲であった女性で、学院をでてまもなく婚姻関係を結んでいた。

エレンは領主に在任して三年がたってより、中央の政治闘争の結果、シャロン家を助ける形で輿入れさせた妻であった。


 しかしルーカスは二人の妻に扱いに区別をできるだけ与えないように接していた。生来的な不器用さと愚直さをもって、二人の妻を深く愛した。

 また、二人の妻も争うことなく共に協力しヴァルウフォード家に尽くしていた。侯爵家は外のドロドロした権力闘争では華麗に立ち回りながらも、家内では平和に互いに愛情を尽くして生活していた。


 ところで、ソフィーカは現在、ルーカスとの三人の子をもうけていた。長兄のジェラルドとは中央の学院に六年在籍した後、領地に戻り、領主教育を受けているところである。長女ユリーカは学院で華やかな社交に勤しみ、次兄ハロニカは領地のお屋敷ですくすくと成長しているところであった。


 一方エレンはルーカスと婚姻関係を結んでより十年、いまだに子に恵まれなかった。シャロン伯爵家は古のエルフの血統であり、その血を引くエレンは体質として子を宿しにくかったためである。


 ルーカスは気にしないと言っていたが、とうのエレンは優れた魔術師の血統をヴァルムフォード家に残すことは、妻としての義務であると考えており、長年の子に恵まれない状態をひどく気に病んでいた。ルーカスやソフィーカも、エレンの落ち込む様子はしばしば気にかけており、エレンが子をもうけられることを強く望んでいた

 

 そして一昨年、ついにエレンは懐妊を果たした。第二妻エレン・ヴァルムフォードの一人目の子であるその赤子はスカーレットと名付けられた。


 エレンの妊娠は家じゅうで祝われた。ルーカスもソフィーカも、ジェラルドも、使用人のメイドも執事も、皆がもろ手をあげて喜んだ。


 そういうわけで、スカーレット様は特に大事に育てられていた。貴族のしきたりとして父ルーカスとは四歳の誕生日を迎えるまでは顔を合わせることができないが、たくさんの使用人によって過剰ともいえる愛を受けて育っていた。


 そして、スカーレットはまもなく、三歳になろうとしていた。



「それにしてもスカーレット様ってほんとう甘えん坊さんですよねー」


「ハロニカ様も寂しがりやだったけど、スカーレット様はそれ以上よね。まあかわいいから全然いいんだけど」


「お嬢さま、とっても可愛い。私、虜になっちゃいそう」


 ここは使用人用に与えられている休憩室。そこでは現在、三人のメイド達が楽しく談笑していた。この三人はスカーレットの養育役を主として担うメイドであり、会話の内容もスカーレットについてになることが多くなっていた。


 三人のメイドの名は、それぞれアリス、シアン、カフル。


 アリスは猫の獣人で、この中ではもっとも後輩に当たる14歳の新人メイドであった。元気さと愛想が取り柄で、先輩に可愛がられていた。しかし、仕事面においてもそれなりに優れていて、スカーレットの養育係の一人として抜擢されることになった。


 シアンは兎の獣人で、アリスの直属の先輩にあたる17歳の先輩メイドである。次兄ハロニカの養育経験もあり、それなりに経験をつんだ使用人歴八年のメイドさん。子供が何よりも大好きで、今回の養育も率先して買って出た。


 カフルは犬の獣人である。無口でぶっきらぼうな彼女だが、仕事ぶりは非常にすぐれている。それも当然、彼女はメイド長直々に教育を受けたスーパーエリートメイドであるのだ。


 また、カフルはそれと同時に、微弱だが魔法使いの素質も持っていた。三大魔法家として名高いシャロン伯爵家の血を引くスカーレットに対するの保険として、万が一に学院へ行くまでに魔力に目覚めた際の安全弁の一つとして、彼女はスカーレットのお世話担当になっていた。しかし一瞬にして非常に愛らしい赤子の虜になり、今ではこの役割を楽しんでいる。


 三人は雑談をしながらも長机でおのおの何かしらに没頭していた。アリスとシアンは編み物を、カフルは読書を。

メイドとしての習性からか、使用人たちは手持ち無沙汰の時は、こうして何かに勤しんでいるのであった。


「でも、不思議なことに私たちがお仕事しているときは静かですよね」

 新人猫耳メイドのアリスが、ぽつりとつぶやく。


「そうそう! 甘えん坊なのにあんまり手がかからないのよね」

 兎の耳を持つ、先輩メイドのシアンが、一度編み物の手を止め、同調したように大きな声を出した。


「それに全然泣かない。スカーレット様が泣いてるのを見たの、私は殆どない」

 同じく先輩メイドのカフルが本に眼を落しながら続けていう。


「賢いですよね。流石ルーカス様とエレン様の子供です」


「成長も早いわよね。もう会話もできるんでしょう?」


「歩いたり立ったりするのも早かったと思う」


「そういえば、はじめて歩いた時も立った時もエレン様がいらっしゃいましたよね。スカーレット様も、やっぱりママに一番に見てもらいたいんですかねぇ」


 アリスはそう言うと、当時のスカーレットの様子を頭に浮かべ、へにゃあとだらしなく頬を緩めた。


 シアンは、しっかりなさいとでも言うように軽く彼女の頭をたたいた。アリスはおどけた調子で「いたー」と言って机に突っ伏す。だがやがて顔をあげると、首を傾げて二人に尋ねた。


「ふと気になったんですけど。いまって、スカーレット様は誰がみてるんですか?」

「メイド長のばばあ」

 カフルは本を閉じると机に置いた。本には『魔法学初級』という表題がつけられているのが、二人の目に見えた。


「ばっ……メイド長様にそんな言い方は良くないですよ!」

 アリスは慌てふためく。あわわと言いながら、カフルを見た。しかしカフルはそんな事どこ吹く風と言わんばかりの無表情を保ち続けている。


「メイド長が、でもどうしてかしら?」

 シアンは疑問を口にする。確かに生まれてすぐのころはメイド長も面倒を看ていたが、最近は身の回りの世話に関しては自分たちに一任しているはずだったからである。


「なんでも、お嬢さまの部屋から感じたらしい」


「何を?」シアンは先を促す。

「魔力」カフルがぼそりといった。


 この返答には、尋ねたシアンも、会話をきいていたアリスも驚いて目を白黒させた。


「え、え、えー! 魔力って、いくら何でもはやすぎませんか!?」


「そうよ。稀代の天才と言われてる魔法伯様でも魔力に目覚めたのは八歳からじゃないの! いくら何でもおかしいわ!」


「私もばばあにそう言った。私は半人前だから微弱な魔力はかんじれないけど、ばばあは感度がいいから、勘違いかもしれないけど一応みとくって。暴走したら大変だしって」


「はへー。でももし、本当に魔力にめざめていらっしゃっるのなら、スカーレット様はとんでもない天才ですねぇ」


 アリスはしみじみとした声を出した。





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