是減
(……僕は何故、こんなことを……?)
今いるのはレバーとボタン(と途方もない努力や才能その他)で神になれる世界。……要はゲームをしている。
ゲームをすること自体はなんでもない。むしろそこそこ詳しい程度にはやっていたくらだ。だが、だが……。
(どうして女学院の寮で……)
女学院だよ? お嬢様系の。しかもその寮、あり得ないでしょ。規律とかもだし絵的なのも含めて。こんなことになったの原因はやはりというか……隣に佇むお姉さまにある。
以前はお約束というか当然というか、寮内にゲームなんてもってのほか。それどころかパソコンや携帯電話だって不可。とはいえ今の生活はネットワークに繋がっているのが前提になりがち。な中でパソコンや携帯電話ナシなんてナンセンスとの主張で規則を変えてしまったそうだ。
……にしてもゲームはないだろって思うよね。僕も思った。でも彼女らしいというか、それらの機器とネットワークがあればゲームを遮断するのは現実的でないとかで、黙認というかあんまり良くはないけれどプレイ自体は認められているらしい。
「……さすがにゲーム機本体はダメだったのよねぇ……」と残念そうに説明してくれた。……模範となるべき大天使様ですよね? 貴女。ここをゲーミングなお嬢様学院にするつもりなんだろうか……。
(多分このスティックは彼女なりの抵抗なんだろうなぁ……)
女学院の寮には不釣り合いの、ずっしりでがっしりな本格的なコントローラー(しかも使い込まれてる)。見たときはゲーム好きとしての感動より正直ちょっと引いた感覚のが上だった。
ただ、意外だったのは……女学院の寮でゲームの時点で意外なんだが……お姉さまが用意したソフトはシューティングゲームだったことだ。僕はてっきり対戦格闘、それもその……金的攻撃を持つキャラが出てくるのだとばかり予想していた。
そして僕のプレイをただ眺める。……というわけだ。ちなみに僕の腕前は上手くもなく下手でもなく……だと思う。
しかし、彼女が何の考えもなしにゲームをやらせるとも考えにくい。
「動体視力とかを測るため……ですか?」
沈黙のままというのも辛いのもあり訊ねてみる。
「……それもあるし……もっと大事なものが見えると思ってね」
なんともぼんやりとした返事。だが逆に、目的があるのは定かなようだ。
「もうすぐボスね。弱点は中央のコア」
――
……倒せませんでした。
「気にしないで、上手い下手をみたいわけじゃなかったから」
ますます狙いの見当が付かなくなる。能力でないならなんだって……?
「貴方、躊躇なく金的を蹴ることできる?」
「えぇ!? ……ぇと……できません」
「男の人ってそうよね。本能的なものか、それとも卑怯とか反則と教えられてきたものか……どっちにしても返答としては一般的でしょうね」
あの痛みを想像すると敵だとしても迷いが生じる。……それに仕返しされる恐怖だってある。
しかし話が読めない。シューティングゲームと関係は?? 金的攻撃の話したいならやっぱり格闘ゲームだよね?
「ねぇ、女が男に勝てると思う? あぁ、頭脳や心理戦、病気への耐性とかじゃなくて単純な殴る蹴るで」
「それは……」
どう答えるべきなんだろう。なにせ目の前にいるのはスーパー忍者な完璧星人だ。
「私は例外。結論を言えば女は男に勝てない」
ひ弱とはいえ一応男な僕の口からは言いにくい言葉をお姉さまは言い放った。
「瑞祈は格闘ゲームはやるかしら? 考えてみて、パワー、リーチ、体力。どれも自キャラを上回ってる相手を」
……妙な説得力があった。そんなキャラがいては対戦バランスが崩壊する。……いや、それだけだと単に鈍重な可能性も……――。
「女キャラがスピードに優れるなんてゲームの話。実際はスピードだって男性の方が速いわよ」
やはりエスパーなのか先回りしてぴしゃり。
「……私だって同じだけの才能を持った男性がもしいたらきっと勝てない」
自分の強さはプレイヤーの強さであってキャラ性能によるものではないと。
……あくまでたとえだよね、この人絶対にキャラ性能もおかしい。将軍なのに尖兵な極悪性能のボスキャラクターかってくらい。……そういえばあのゲームはCOMの強さも異常なんだよね。あまりに高い難易度に、メーカーから「難易度は最低にするように」なんてちょっとあり得ない通達が店側に送られたくらい。
「そんな男女差を覆せるのが急所攻撃。代表が目突き……そして金的。ねぇ瑞祈、女からすれば男性の身体はシューティングゲームのボスみたいなものなの。圧倒的大火力と耐久力。……だけど唯一むき出しの急所を持ってる……」
上手い言葉が浮かばず「はあ」とかそんな返事をした。ただ、自然と腿がきゅっと締まった。……外付けの演算装置がきっとはたらいたのだろう……。
その後はお姉さまと協力プレイ。……もっとも、彼女のスーパープレイを眺めるに等しい状態。
……僕はといえば、ボスへの撃ち込みに躊躇いが生じてしまっていた。