第1章 2 “元十傑”
チャイムと同時に教室に滑り込んだ青年は教室中の視線を集める。
「おい!ジギリタス 始業式から遅刻とはいい度胸だな!!」
そう怒鳴っているのは担任であろうか。
威勢のいい文言ではあったがそのひょろっとした体から放たれる細い声が威厳を完璧に打ち消していた。
青年はそんな担任を内心笑いながらそそくさと空いている席に座る。
そこからは新年度の通例行事の連続であった。
始業式を行い、教室で先生の長い話が続く。
その長い話も終わろうとするとき先生は青年に話を振る。
「みんなは中等部からの長い付き合いだと思うがジギリタスはずっと来ていなかったから知らない奴もいるだろう。
ジギリタス、自己紹介をしてくれ。」
先生は青年を教卓へ誘いつつ自分は横へとはけていった。
「え~っと…… サルビア・マンサク・ジギリタスです……よろしく。」
それだけ言うと「サルビア」と名乗った青年は気だるげに空いている自分の席に戻る。
「おい ジギリタスってあの……。」
「あぁ 元十傑 忘却のジギリタスだろうな。」
「Ⅱ科に突如現れた元十傑、今度のお手並みはいかがなものかねぇ。」
「おいおい、冗談キツイぜ。落ちこぼれのⅡ科にくるやつだぜ。どうせろくでもないさ。」
“Ⅱ科”それはアルマスニ魔法学校の戦闘科、つまりは最前線における戦闘指揮、及び実行する者を育成する科の生徒を成績上位から並べた下位半分のこと。つまりは、科内の劣等生であった。
しかし、サルビアが引っ掛かったのはそこではなかった。
--“元”十傑
聞きなれた響きだった。
彼の家--ジギリタス家は魔法の名家でありそのなかでも十家のみが選ばれる十傑の一員であった。
だが、8年前 サルビアの父マンサク・ギリア・ジギリタスが殺されて以来、十傑からも外され廃れていた。
サルビアがまるで転校生のような扱いを受けているのは彼が15歳になる今まで不登校を続けてきたからだ。故に彼を見知った者はここにはいない。
だが、今年は学校を休むわけにもいかなかった。
それは別にカトレアがどうこう言ってきたからではない。 いや それも全てはこれのせいであった。
「みんな、 今年が何の年か分かるな。」
誰も答えようとはしなかった。
「もう 実戦なのか……ずっと未来の話だと思ってた……。でも、お国のためだもんな。」
いくつかの生徒は自分に暗示をかけるようにそうこぼした。
「分かっているとは思うが一応言っておく。」
そう前置きすると教師は真剣な面持ちで続ける。
「この国では15になる年から戦争に徴兵される。
お国のため、憎きナゥーカ帝国を倒すため、今まで訓練してきたことを生かし皆にはセーヴィルに勝利をもたらして欲しい。」
教室は絶望とも諦めともとれるような暗い雰囲気に呑み込まれていた。
「そこで 、今年度はより実戦を重視した訓練を行う。
そのために各クラスに中隊長一人とそれを補佐する小隊長を複数任命し、訓練を行う。
各隊長は前の紙に掲示してある。全員確認するように。
では、以上解散!」
「(さて、マシな奴の部下になれればいいが。)」
楽をすることしか考えていないサルビアはそんな風に思う。
彼は混雑が嫌いなのであえて掲示を見に行かず待つ。
すると、真っ先に掲示を見に行った少女が何故かこちらへ向かってくる。
「中隊長さん。第4小隊長のアイリス・パコパ・コジュリンって言います。よろしくお願いします。」
「……はぁぁぁぁぁぁぁ!?」