第1章 始まりの朝
北方歴1582年 ラシャン大陸東端 カムチャートカ半島 アルマスニ
ここは反乱の発足地であり、独立を宣言してからはセーヴィル国首都アルマスニとなっている。
発展し成長し、そして破壊し続ける科学に反発して反乱が起きたのはもう100年以上も前。戦線は既に前進し、半島と大陸の繋ぎ目までいったため戦争中と言いつつもここでは兵が忙しく往来する以外は平穏であった。
そんなアルマスニの端っこ、みすぼらしくボロボロな一軒家で青年が気持ち良さそうに眠っている。
「坊っちゃま!坊っちゃま !!」
「うぅん なんだよ カトレア まだ朝じゃないか。」
熟睡していた青年は叩き起こされて不満そうに重い瞼をあけながら答える。
「ジギリタス家の子ともあろうお方が アルマスニ魔法高等学校始業式に寝坊などあってはならぬことです!!
さぁ 起きて支度をするのです!。」
カトレア と呼ばれたメイド服の老婆はそれだけ言うととスタスタと階段を降りて朝食の準備に向かう。
坊っちゃま と呼ばれた青年の顔には明らかな不満の表情が見えた。
「(とはいえ 逆らえないか。)」
老婆の名はカトレア・リンドウ・ペチュニア。
ただの老婆である彼女を青年が恐れるのは「鬼泣かせ」の異名であった。
誰が何をもってつけたのか全くわからないその異名だが彼女の威厳をかくあるものとし、近所でも彼女に歯向かう者はいなかった。
「(仕方ない。)」
青年は重い足取りで階段を降りていった。
食卓にはカトレアが朝食を並べて待っていた。
気は乗らないが逆らう訳にもいかない。
青年はゆっくりと朝食を口に運ぶ。
「学校なんて行かなくてもいいじゃないか。カトレア。」
「坊っちゃま、面倒でもこういうのには順序があるのですよ。」
諭すようにカトレアは答える
どうしてこう世界は面倒なのだろう と思いながら朝食を済ませた青年はカトレアが準備した鞄を持って家を出る。
「早く行かないと遅刻しますよ!!!」
全てを見透かしたかのようなカトレアの声が彼を無理くりにでも走らせた。
今朝をよく晴れた気持ちのいい朝 と多くは言うだろう 。
だがそれは青年にとっては長く苦しい日々の始まりを告げる 重く暗い朝日であった。