1日目・視察準備だ、俺
よーやっと外にでます。
食休みも終わり、いよいよ村に繰り出す。
と思っていたらばぁやに衣装室に連れられた。
外に出るにあたって室内着から領主として可笑しくない服に着替えるらしい。
「このままでよくないか?見て回るだけなのだし・・・。」
「よくありませんわ、ウィリアム様。昨日は馬車の中からのお披露目でしたが今日は馬なのですよ!しゃんとした格好をしなければ示しがつきませんわ。」
そういわれ、メイド持って来た服に着替えさせられる。
薄茶色のベストに白いシャツと黒のパンツと革靴というラフな格好から、仕立ての確りしたものに変わる。
薄く黄みがかった上着に赤茶のベストに白いシャツ、白いパンツに膝下まである黒いブーツ。
首には先ほどしていた青いリボンではなく、白く幅の広いタイ、アスコットタイの様な物をまかれる。
暗い赤のマントは足首近くまである。
何と言うかまさに貴族といった風体だ。実際に貴族だけど。
「さぁ出来ましたわ。とてもご立派ですわ、ウィリアム様!」
うんうんと頷きながら、出来映えに満足しているらしいばぁやが告げる。
「白は汚しそうで嫌なんだけど・・・。」
「汚れる様な事は使用人にやらせるのですよ?ご自分ではなさらないようにして下さいまし。」
「分かってるけどさぁ・・・。」
分かって入るけれど、白は汚れが目立つため前世でも滅多に着なかった。
色が深いものを中心に着ていたので落ち着かない。
そんな俺の表情に気付いたのか、ばぁやに困った様に言われる。
「この格好も本日だけですわ。馬での初めてのお披露目ですから。次からは普段の服装ですから我慢してくださいませ。」
「わかった。」
子供の様な駄駄だとは分かっているが慣れない物は慣れない。
この服装が今回限りだと知って少し安心する。
前世と違い、漂白剤なんてこの世界にはない。
汚したらもう白い服は終わりなのだ。
色々店を見て回るつもりだったが使用人にまかせ、馬の上で大人しくしていようと決めた。
「ウィリアム様、馬の準備が出来ました。」
「今行くよ。」
コンコンとノックの後に執事の声が聞こえる。
衣装室から出て執事とばぁやと歩く。
三階の衣装室から玄関ホールまでに地図にあった店を思い出す。
村の中央に立ち並ぶ店は、八百屋から魔法具屋まで幅広い。
小さい村でもその大半を冒険者達が使用しているので需要があるのだ。
(魔法具屋・・・みたいよなぁ。)
やっぱり夢がある。
記憶での魔法具は火種をつける物でも3万はするとわかっていても、夢がある。
攻撃する様なものなら最低10万はすると分かっていても欲しいと思ってしまう。
(買い物できるかな・・・。)
貴族と言えど裕福ではない事は分かってはいるが、異世界でテンションが上がってしまう俺にはどうしても欲しくなってしまう。
元々買い物がそんなに好きではないが、異世界なら別腹というやつだろうか。
ありがたいことにこの国の勘定は分かりやすい。
大金貨、金貨、大銀貨と続き、銅貨の下には銭貨があり、全部で七種類ある。
したから1、10、100と上がっていくのでとても分かりやすい。
某魔法使いの児童書はとても分かりにくかったのでありがたかった。
七種類のうち、見た事があるのは金貨までだ。
大金貨は100万であり男爵家では使う事がなかったからだ。
このルヒルがある国、エルプシオンの国章がはいっており魔法がかかっているため偽造があればすぐに分かるらしい。
(実家にいた時は銀貨までしか使った事がないけど、これからは金貨あたりまでは使える様になったりしないかなぁ・・・。書類上では大金貨動かしてるし。)
たぶん金貨一枚くらいならいける・・・。などと考えながら魔法具に思いをはせる。
ついたホールには使用人と護衛が立っていた。
「ウィリアム様、本日は視察のおりお供させて頂きます。」
そう言ったのが使用人でありばぁやの孫のフーゴ。
「護衛は任せて、堂々としてればいいですよ。坊ちゃん。」
そう言ったのが護衛のアルベルト。
「坊ちゃんは辞めてくれよ。」
「おぉ、そうでしたね。ウィリアム様?」
「そうですよー。ウィリアム様はもう領主としてお仕事しているんですから。」
俺の声に楽しそうに答える護衛は、実家からついて来た一人だ。
前世の俺と変わらない年のせいか、親近感がわく。
使用人はおっとりとした口調だが眼差しはしっかりしている。
「ウィリアム様、金銭はフーゴに持たせましたのでご自分で払うのではなくフーゴに払わせるのですよ。それから何かございましたらまずフーゴに見に行かせるのです。今日は馬から下りずに過ごして下さいまし。危ないことはせずにアルベルトに頼るのです。アルベルトから離れずにお過ごし下さいね。それともし何か口になさる場合はまずフーゴに食べさせ、安全を確認してからですわ。武器等を見るのでしたらアルベルト越しに見てくださいませ。それからーーー」
玄関を出て、馬番が連れた馬に乗るまで、乗っても暫くの間ばぁやからの注意や心配の言葉がとぶ。
馬での初お披露目はばぁやにとって結構重要なようだ。
いや重要なのは領主の初視察と言う事で理解出来るがそこまで心配される程だろうか?
”僕”は落馬せず走ったり遠出したりできる程度には馬にのれたと思うんだが。
「分かったよ。大丈夫。馬から下りないし、危ないことはしない。フーゴとアルベルトに任せるから。」
そう俺が言うとばぁやは一つ頷いて言葉を続けた。
「ーーーそれから、この小さく大きいルヒル村を、ウィリアム様の領地を、存分にお楽しみ下さいませ。」
「・・・うん。楽しんでくる。」
ばぁやに言葉を返し、馬の腹を蹴る。
ゆったりと馬が歩き出し、脇に護衛と使用人がつく。
「「「「いってらっしゃいませ、ウィリアム様!」」」」
うしろから使用人一同の声がする。
その声を聞きながら馬を進める。
(あぁ楽しみだ。楽しみで仕方がない!)
逸る鼓動を感じながら、俺と護衛達は屋敷の門をくぐったのであった。
村までいけなかった・・・。
どうでも良いんですが「〜ですわ」と打つ度にすわが諏訪になって鬱陶しいです。




