Episode 86
でも待って!ハンター達は張の居所を突き止めたって?
張は昼過ぎにいつも何処に居る?
ここ1週間アイツラはあそこに!
いやいや……。そんなハズは無い。
だって全員に警告したのにまた次の日に集まる?
『私とアミちゃんは連絡手段を持ってないの。私達の状況を知らない律儀なあの子は明日も来てしまうかもしれないわ。』
彼女の言葉を思い出す。
そんな……まさか……。
「ねぇ!!!昼過ぎから風俗街の周辺で名屋亜美……いや日本人の女性を見掛けなかった!!?」
「え?日本人ですか……?えぇっと…………。」
「あ~みんさんがどうしたんですか!!?」
突然ドアが開き、アンジュがそこに立っていた。
「アンジュ!?どうしたの?部屋に居てって……。」
「ごめんなさい……でもミディアさんの"音"が1回聞こえたのに、その後何も音沙汰が無いので心配になって。」
音?
ワタシ何か大きな音でも出したかネ??
3階にも聞こえる様な???
「心配掛けてごめんネ……。でもまだ少し立て込んでて、もう少し部屋で待っててくれる?」
「はい……でもあ~みんさんの名前が聞こえたのですが……。」
「あ~みん…………。」
そうだったネ。
焦って忘れてたけど2人は友人同士。
しかも互いにこの場所に居る事を知らない。
「あ~みんさんは私を捜していると聞きました。そのせいで何かに巻き込まれる可能性もあると……。もしかしてあ~みんさんに何かあったんですか?」
知っていたのネ。
「アンジュ良く聞いて。今少し良くない事が起こってる。でもワタシ達も状況を掴めてないのヨ……。確かにそれに名屋亜美も巻き込まれてるかもしれない。それを今から確認しに行くつもりだヨ。だからもう少し待っていて貰えないかネ?必ずアンジュにも報告するから。」
「…………。」
アンジュの顔は少し曇っている。
「ミディアさんは危なくないんですか?」
「え?」
「良くない事が起こって、それを確かめに行くなんて危なくないんですか?」
「まぁ危険もあるかもしれないけどネ。でもワタシはそういう事に慣れているから。」
「慣れているからって何故ミディアさんが危険な目に遭わなければならないのですか?」
「そんな大袈裟だヨ。様子を見に行くだけだから。それに友達が心配じゃないの?」
「確かにあ~みんさんは心配ですが、だからと言って何故ミディアさんが危険な目に遭わなければならないのですか?」
初めて見るアンジュの真剣な顔。
可愛い顔からは想像も出来無いくらい気迫がある。
「シカさんもそうでした。いつも自分だけ悲惨な目に遭っていたみたいで……私には何も言ってくれなくて……。私は友達ももちろんですが、同じくらいミディアさんもシカさんも大切なんです!誰も傷ついて欲しくない……。」
優しい子だネ。まだ会って2日のワタシを大切だと言ってくれる。
ここ数年はずっと頼られてばかりで、ワタシの事を本気で心配してくれた者は何人居ただろう?
ガルディアン……アンジュ……まぁユージーンも入れといてやるかネ。
「アンジュ……大丈夫。ワタシは絶対何事も無く戻って来るヨ!だから約束。今晩も一緒にディナーを食べようネ!」
「ミディアさん……やはり行かなければならないのですか?」
「あぁ。それがワタシの仕事でもあるからネ。ワタシ達はこの場所を……自分達の居場所を守っているんだヨ。」
「…………分かりました。約束です。私いくらお腹が空いても、ミディアさんが戻るまで絶対何も食べずに待っていますから。」
「アンジュを餓死させるワケにはいかないヨ!だから心配しないで部屋で待っててネ!」
「ありがとうございます。本当にお気をつけて下さい。」
何とかアンジュを納得させ、部屋へと戻した。
バーテンにも今日は自宅に戻る様にと伝えた。
さて…………。
「ガルディアン。」
「はい姐さん。」
「今すぐ用意できる武器は何かネ?」
「ハンドガンの弾薬ならストックはあります。」
「銃があるなら充分だネ。ワタシとオマエで行くヨ!」
「パラダイムにですか?」
「気付いていたかネ?なら話は早い。まだハンターが居た場合間違いなく戦闘になるヨ。覚悟しておいてネ。」
「はい!兄さんには引けを取りません。姐さんは自分が守ります!」
「ありがとうネ……。じゃ行くヨ!!!」
「はい!!!」
ウチに手を出し、あの娘の顔を曇らせた事を後悔させてやる!
陽はすっかり周りの建物に陰り、人気も無いストリートはどこか世界の終わりの前触れを感じさせる。
皆無事で居て!ミーナも張も、そして亜美も。
パラダイムの前に到着する。
入口の陰から中の様子を伺うが、人の気配は無い。
「どう思う?」
「誰も居ない様に感じますが……しかしこの臭いは……。」
そう中からは生臭さと排泄物の混ざった、まるで下水の様な臭いが漂って来る。
この時ワタシは既に分かっていた。
漂う異常な臭気は何も起こってない筈が無いと。
2人共銃を抜き、警戒を怠る事無くゆっくりと中へと入る。
電気は消えており、殆ど暗闇のロビーを手探りで進んだ。
そこを抜けるとすぐ右手にある部屋。パラダイムのオフィス。
視界が悪くても覚えている。
「ここだネ。」
ガルディアンとハンドサインで会話をする。
「えぇ。間違いないです。」
ドアの前に立ち感じるこの臭いの発生源。
間違いなくオフィスから漏れ出ている。
ガルディアンがドアノブに手を掛け、突入するタイミングに合わせ2人で呼吸を整える。
中にハンターが居る場合は奇襲により一気にカタを付ける作戦。
こんな本格的な実践は久々だヨ。
きっと彼もだ……。額から冷や汗が出ているネ……。
身体中に緊張の電気信号が走り、心臓の鼓動ははち切れんばかりに踊っている。
そしてワタシ達は3カウントの合図でドアを思いっ切り開け、中へと踏み込んだ。