Episode 80
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ユージーン……オマエが去った後のこのメインホールはヤケに広く感じ、アンジュと2人じゃ少し寂しく感じてしまうヨ。
「シカさん……大丈夫でしょうか?私なんかにどうしようも出来ないのは分かっているのですが、それでも私のせいでシカさんが危ない目に遭って欲しくは無いです。」
「大丈夫だヨ!見た目通りしぶとい奴だからネ!それよりも今は自分の事を考えなヨ。」
「でも私何をしたら良いのか……。」
「とにかく今は様子を見る事しか出来ないネ。だからゆっくりしてて良いヨ。」
「はぁ……そうですか。でも私はいつも何もする事が出来なくて。私自身の問題なのに良いんでしょうか?」
「アンジュにもやって貰う事があったら遠慮無く言うから、今は気にしないで!」
「分かりました。ありがとうございます!ミディアさんには何から何までお世話になって……。」
「アンジュみたいな可愛い娘の世話なら大歓迎ヨ!もっと大きな子供の世話焼きもしてたからネ…………。あっ!!」
「何でしょう?」
「いや何でも無いヨ……。」
しまった!後2時間もしたら名屋亜美が来る時間だった。
今2人を会わせるのは良い判断じゃないネ……。
「アンジュ。悪いけどワタシは少し仕事があるから部屋で休んでて貰えるかネ?」
「あっごめんなさい!私の事なんて気にしないでお仕事優先して下さい。」
「悪いネ。部屋には何も無いけど……。」
「大丈夫です!私はシカさんから貰ったタブレットを持ってますのでw 時間はいくらでも潰せます!!」
頭上高らかにタブレット端末を掲げるアンジュ。
そう言えばこんなポーズを日本のゲームで見た事あったネ。
何だったっけ?ガルディアンが昔少しプレイしていたけど……。
「それは良かった。部屋にルーターがあるからネ。Wi-Fiのパスはそこに書いてあるヨ。」
「ありがとうございます!!使わせて頂きます!」
「じゃ終わったら声掛けるヨ。ディナーは一緒に食べようネ!」
「良いんですかぁ!?是非お願いします!!!」
「決まりだネ!また後で!」
「はぁい!」
元気良くお礼を言って階段を駆け上がって行く。
本当にエナジェティックな娘だネ。こっちまで元気になるヨ。
さぁて……。久々に歴とした仕事をしないとネ。
ユージーンだけには任せておけない。ワタシのテリトリーはワタシが守るヨ!
「ガルディアン!」
「はい姐さん!ここに!」
「事が落ち着くまで住人には目立った行動は控える様に通達して!」
「分かりました。」
「それからストリートの休業出来る店はなるべく休む様に。情報屋達には春鳥興業、鏑木会、堀井梨香、それと特にシカリウスの情報については探らないように自主規制を呼び掛けて!」
「仰せのままに。」
「監視カメラのモニターも24時間体制で強化するヨ!見た事ない人間の動向を逐一チェック。割ける人員は居るかネ?」
「それならばキュラソーと言うバーのバーテンダーに、南米や中国系の裏社会に詳しく、機械関係にも強い適任の人材が居ます。」
「良いネ!報酬は弾むから必ず雇って!」
「今すぐに連絡を取ります。」
「これからもっと忙しくなるヨ!覚悟しておいてネ?」
「任せて下さい姐さん!こんな時の為に自分が居るのですから。」
「オマエには本当に助けられるヨ……。」
「気にしないで下さい。もう死んでもおかしくない時に、自分達を家族だと助けてくれたのは姐さんですから。この命尽きるまで姐さんに捧げる所存です。」
「ありがとう。でも本当に死なないでネ?」
「姐さん残しては死にません。安心して下さい。」
「頼んだヨ…………。じゃワタシも各方面に手を回すからガルディアンはそっちでお願いネ!」
「分かりました。」
「あぁそれと。亜美が来たら、事態が変わったからこの件から離れた方が良い旨を伝えて貰えるかネ?」
「はい伝えます。」
「よろしくネ!」
近隣の事はディアンに任せ、ワタシは自分のオフィスへと向かった。
デスクへと座るとすぐに受話器に手を掛ける。
協力を仰げるのはドコかネ……。
政府関係は事が起こってからでないと動けない。
非公式の組織か個人的に協力して貰える人間。そこを当たるしか無いネ。
まずは…………。
真っ先に思い付いたナンバーをプッシュする。
数回のコール音の後、相手が応答した。
「Hello?」
「Hi! This is Media. It's been a while! How are you?」
「Oh Media!! How's your business going?」
「It's all right! I'm sorry to get straight to my subject.」
「What's happened?」
「Actually...」
相手は在日外国人の支援団体の顔役。
表向きは聞こえの良い組織だけど、裏社会とも繋がりがある少しグレーな存在。
無法者のハンター達にどこまで対抗出来るか分からないけど、彼等が介入してくれれば多少は相手の動きを鈍らせる事が出来ると思う。
あぁ全くもどかしいネ!!
いくら強大な力の保護下にあると言っても、そんな抑止力の通用しない奴等が相手だと、こちらから出来る事は少ない。
改めて実感するヨ。
そう……別にワタシ達自身が強いワケじゃ無いんだヨ…………。
思い付く限りの人物や組織に連絡を取った。
でも今すぐにでも動いてくれる所は1割にも満たないだろう。
あそこにも行くかネ……。
時刻は夕方になっていた。
オフィスから出るとガルディアンと出会す。
「チョット出て来るヨ!」
「何方へ?」
「ヴィジランテ共に会いに行く。」
「本気ですか!?こんな時間にワザワザ姐さんが足を運ばなくても自分が……。」
「ワタシが直接行かないと動いてくれる様な連中じゃないからネ。」
「それでもアイツ等が"外"の事に興味を示すとは思えませんが。」
「今回はユージーンが関わってる。きっと興味を持つ筈だヨ。」
「兄さんの名前なんて出したら余計に意固地になるんじゃ……?」
「それでも何もしないよりかマシだヨ。とにかく行って来る。」
「せめて護衛を……。」
「他の従業員を巻き込むワケにはいかないヨ。誰かボディガードを探すにも時間が無いしネ。」
「…………分かりました。お気を付けて。絶対に日が落ちる前にはお戻り下さい。」
「もちろんだヨ。」
既に静まり返った斡旋所のロビーを通る。
もうこちら側は店仕舞いをしていた。
裏口を出てそのまま蛇唆路へと踏み込むと、誰かに常に見られてる様な独特の気配に包まれる。