Episode 77
1時間位経過しただろうか。漸く2人がこちらに向かって来る声が聞こえる。
女って奴は何でも時間を掛けるのが好きだな。
「え!!?シカさん居るんですか???ちょっと恥ずかしいですぅ。変じゃないですか?」
「何言ってるのヨ。そんなに綺麗なのに!」
「そうですか?こんな変身をしたのは初めてで……。」
「大丈夫。リカは何したって可愛いヨ。」
「えぇー!?本当ですかー??ありがとうございます!!!」
ドアは開けられリビングルームへと入って来る。
「じゃーん!!どう?ユージーン?」
ミディアが先頭でリカを迎え入れる形でお披露目される。
その姿は…………。
服はミディアの物だろうか?リカが好んで着ていたカラフルでフリフリ付きなどでは無く、シックな色のパンツスタイル。
大人びて見える。いや……実際は歳相応なのだが……。
それより注目すべきは首から上。それは大きな変身を遂げていた。
まず髪の毛は黒髪ロングのストレートから、薄い茶色が入りウェーブも掛かっている。後ろ髪は髪留めによるハーフアップ。綺麗にまとまっている。
そして顔には化粧がバッチリ施され、リカの幼い顔からは想像も出来ないくらいキリッとした印象を与える。
出会った時以来殆ど化粧っ気の無かったリカだが、ここまで変わるものなのか……。
確かに言われればリカだと分かるが、パッと見は別人と間違えてもおかしくは無い。
「あぁ……何と言ったら良いのか……。」
「全く……気の利いた事も言えないのかネ!?まぁこれならヘンテコな変装しなくても充分だヨ!」
「恥ずかしいです……///」
「恥ずかしがらないでヨ!凄く綺麗なんだから!ネ!?ユージーン?」
「そうだな…………。」
「ハァ……この男は…………。」
「今までお化粧も撮影用の簡単なモノしかした事無くて……」
モジモジしている。21歳で経験が乏し過ぎないか?
この娘は本当に成人しているのだろうか?
精神年齢は間違いなく子供だと思うが……。
「さぁて……。何にせよこれで"外見"の改造が終わったネ!後は"中身"だけど……。」
「何だそこまでやるのか?」
「当たり前じゃない!"あそこ"で生きていくのに本物の身分なんて使えない!これから暫くは別人として生きるんだヨ?」
「???」
蚊帳の外のリカ。
「そうか……しかし昨日の今日でいきなりは……。」
「いやもう実は手配出来てるんだヨ。」
「は?早過ぎだろ!!」
「だってぇーリカの為だからネ!」
呆れた奴だ。客なら時間も金もえらくふんだくってるクセに。
お気に入りが相手なら半日で熟すのか。
「後は名前さえ決まれば発行出来るんだけどネ……。それは本人の意向もあるだろうからネ。」
「名前か…………。」
「あのぉ……お二方何の話をされているのでしょう?」
「え!?知らなかったの?ごめんネ!リカの新しい身分の話だヨ。」
「???」
「お前は説明が下手だな!それだけじゃあ分からないだろ?」
「と言うか何でリカは知らないんだヨ!」
「ごめんなさい。」
「リカのせいじゃ無いヨ。このバカが……。」
「良いから!!ちょっと俺が説明する!このボラカイは偽造身分を発行する商売もしているんだ。しかも様々な国の政府とも繋がりのあるここは、偽物ではなく正式にその国から認められた"本物"の身分を作れる。勿論リカのもだ。」
「ちょ……ちょっと待って下さい!理解が追い付いてないです。」
「簡単に言うと、堀井梨香ではない新しい身分の話だ。」
「???」
「ワタシの説明と何が違うのヨ!!!」
「うるさいなぁ!ちょっと黙ってろよ。お前が何も知らせないまま勝手に話を進めてるからこういう事態になったんだろ?」
「だって!ウチに来たからにはそういう話になってると思ってたんだヨ!」
「つまり私は架空の人物に成り済ますと言う事ですね?」
「そう言う事だな。身を隠す為に必要な事だとさ。」
「流石ワタシのリカは物分りが良いネ!」
いつからお前の物になったんだよ?
「それで名前を決めるんですね?」
「あらやだ。ウチの子天才だヨ!」
何歳児を相手にしとるつもりだ!
「へへへー!どんなもんだーい!ドヤァ」
21歳児だったぁ……。
「大丈夫かリカ?これは今までの自分を捨てるって意味なんだぞ?」
「う~ん……。難しくて良く分からないですけど、皆さんがしてくださる事なんですから、きっと私にとって必要な事だと思いますので!」
重大さを全然分かってない。
「良いじゃないのヨ!リカの場合、元の身分に戻れない訳じゃないんだし。」
「なるようになりますよ!w」
コイツ等は……。
しかしこのポジティブさは見習うべきか。
「それで何か好きな名前ある?」
「えーっと……そうですねぇ……。」
「待て待て!設定も無しに決めるのか?まず今回は何人でいくんだよ?」
「あぁそうだったネ。今回は台湾からの協力を得たヨ。台湾人留学生と言う肩書きだネ。」
「それなら漢字も使えて馴染みやすいな。希望の名前あるか?リカ。」
「う~ん……えと……いきなりだと思い付かないですねw シカさん何か良いのあります?」
「そう……だな……。」
リカに合いそうな名前…………。
「ダメダメ!こんなデリカシーの無い男に決めさせたら変な名前になるヨ!」
「…………アンジュ。」
「え?」
咄嗟にこの名前が浮かんだ。
「ハハァン……。ユージーン……その由来って…………。」
「いや!!!何でも無い!忘れてくれ!!」
「何でですか!?私凄く良いと思います!アンジュか……。」
「リカは気に入ったみたいだヨ。ネ?ユージーン?」
しまった……。ミディアがニヤついている。
何でそんな事を言ってしまったんだろう。
「アンジュにしましょう!」
「でも良いの?こんな男が発案の名前だヨ?」
「いえ!シカさんに付けて頂いたのですからとても光栄です!」
出来れば止めてくれ…………。
「まぁ自分がしっくり来るなら問題無いネ。それに決定するヨ。」
「やったぁ~!ありがとうございます!」
自分の身分を投げ出す事を喜ぶなよ…………。
「じゃ後は苗字と名前の漢字を適当にアテて……。」
ミディアが紙に名前を書き始める。
「"桑杏珠"でどうかネ?」
「おぉぉぉ!!!パチパチパチ!良いですねぇ!!シカさん!決まりました私の名前!!!」
「あぁ……そうか……良かったな。」
良かったのか……?
しかしこの姓……ミディアの奴、やはり分かってやってるな。
「シカさんが私の名付け親ですね!w」
「ハハハ…………。」
とんでもない名前を付けてしまった。
この事でずっとミディアからイジられるだろう。
「じゃワタシは発行手続きをしてくるヨ!今日中には完成するからネ。」
「何が完成するんですか?」
「パスポートだヨ。世界で通用するリカ……いやアンジュの身分証だからネ。しかも国から発給される本物だヨ。」
「凄いですねぇ!!何かアニメや映画の世界みたいです!w」
「実際この近辺ではそんな事が日常茶飯事に起こっている。」
「改めて凄い方々とお知り合いになれたなーっと。あれ?でもシカさんはどうするんですか?変わるんですか?」
「ソイツはこの世界に戸籍なんてもう存在しないからどうでも良いんだヨ。身分を変えるも何も元から只の幽霊だネ。」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
今日も元気にリアクションがうるさい娘だ……。
「シカさん……本当にアニメに出て来そうなキャラ設定だったんですね!!!」
キャラ設定とはなんだ!
俺は創作物じゃあないぞ!
「とにかくワタシは手続きして来るから。好きな様に寛いでてヨ。でもユージーンは奥に入ったら殺すヨ?」
「ハイハイ。」
「分かりましたぁ!ありがとうございます!」
ミディアが部屋を出る。
2人だけがこの殺風景な部屋に取り残された。