Episode 75
「何が不憫なんですか??」
「いや何でも無い。しかしリカは本当に大丈夫なのか?」
「お酒ですか??う~ん……特に体に異変は感じないので大丈夫ではないでしょうかw」
「まぁ何事も無くて良かった。ミディアの奴、無茶させるから。」
「でもお優しい方だと思いましたよ?シカさんの事を凄く気に掛けていらっしゃると感じました。最初はまぁ……少し怖かったですけどw」
少し?俺は今でもこの世で1番怖いが。
「リカは酒もイケるクチなんだな。」
「そうみたいですね!今日初めて飲んだので知らなかったのですが。」
「それなら少し俺にも付き合ってくれないか?」
そう言って目の前の空瓶の中から未開封のボトルビールを見つけ栓を開けた。
「是非お願いします!!と言っても苦いのは苦手なので、ビールなど飲めない物も多いですが……。その点このお酒は甘くてとても飲みやすいです!」
リカの目の前に置かれているボトルに目をやる。
ディサローノ・アマレット!!?
確かに甘くて有名な酒だが、アルコール度数も28°と中々強力である。
それをストレートでクイクイ飲んでるとは。
普通はカクテルとかにする酒なんですがそれ……。
「暫くはミディア達の世話になると思う。リカにとっては外国に来た様に感じるかもしれんが、我慢してくれ。」
「お世話になる身で我慢なんてとんでも無い!ミディアさんとも知り合えてとても嬉しいです!」
「このエリアの事はミディアから聞いたか?」
「ちょこっっとお聞きしました。シカさんもここの出身だとか……。」
「正確に言うと少し住んでいただけだが。兎に角ここにはマッテオ達も易々と手を出せない。変に逃げ回っているよりかは安全だと思う。」
「へぇ~凄い場所なんですねぇ!!」
「すまない……。俺がもっと早くここに来る決断をしていれば……。大森麻衣だって…………。」
「シカさん……。もう起こってしまった事をいつまでも悔いるのは止めましょう。きっとこれが最善を尽くした結果なのです。私はそう思う事にしました。それにシカさんにとって都合の悪い決断をして頂いたのに……。私は感謝の言葉しか出て来ませんよ!」
本当にリカからは相手を気遣う言葉しか出て来ない。
いっその事罵ってでもしてくれた方が、俺の気持ちもスッキリするのだが……。
「ずっと前だけ……ってワケにもいかないでしょうけど、後ろを見ているせいで立ち止まってしまわない様に常に前向きでありたいですねw」
あぁ……リカはずっと前向きだったさ。
俺と違って…………。
「姐さんを運んで来ました。」
ディアンが戻る。
「兄さんに梨香さん。今日はもう遅いので2階でお休みになって下さい。従業員用の仮眠室で申し訳ないですが、ベッドの準備を済ませてありますので。」
「とんでもないです!ありがとうございます!」
「あぁサンキューディアン。」
「でも……ここの皆さんはどうしましょう……。」
今も彼方此方に従業員が転がっている。
「彼等は仕方無いですね。全員を収容出来る部屋もありませんし、起こしても起きないのでこのままここで寝て貰うしか……。」
「う~ん……。それは流石に申し訳ないです。私が原因を作ってしまったのに。」
「気にしないで下さい。原因を作ったのは寧ろ姐さんです。それに皆こんな事には慣れている連中ですから。」
「…………じゃせめて掛ける物は無いでしょうか?」
「お客用のブランケットはそこそこ数はありますが……。」
「それだ!!!それを貸して貰えますか?」
「勿論良いですけど……ここで寝てる全員に掛けるんですか!?数が数ですし、倉庫から持って来るのも大変ですよ?」
「大丈夫ですよ!シカさんとやればすぐに終わります!ね!!!シカさん!?」
「俺もやるのか!?」
「やりましょう!お世話になるお礼もありますし!」
「いやいや兄さんと梨香さんにそんな事やらせる訳にはいかないです。」
「気にしないで下さい。私達はやらせて頂きたいんです!ね!!!シカさん!?」
「お……おう。」
「お気遣い感謝します。では倉庫に取りに行きましょう!」
「行きましょー!!」
結局30分程掛けて、俺達3人でブランケットを全員に被せて回った。
「ふぅ~!寝る前に一仕事熟すと気持ちが良いですね!w」
「ありがとうございました!後の片付けは自分がやりますので、どうかお二方はお休みになって下さい。」
「そんな!最後まで手伝いますよ!」
「流石にそこまで手伝って頂く訳にはいきません。これ以上は明日姐さんに自分がシバかれてしまいます。」
「でも…………。」
「リカ……過度の親切はお節介になる。ディアンにも彼の立場があるんだ。そこは受け入れよう。」
「そうですか?それならば……ディアンさん!色々ありがとうございます!明日からもよろしくお願いします!!」
「はい。こちらこそよろしくお願いします。」
深々とお辞儀をしたリカは、そのまま2階に向かう廊下へと走り出す。
無尽蔵な体力だな……しかし。
「本当に良い娘だと思います。」
「あぁ……そうだな。」
「でも危うい……。純粋過ぎてこんな世界に居たらいつか壊れてしまいそうです。」
「そう思うか?」
「えぇ。だから兄さんが守ってあげて下さい。壊れない様に……。きっと梨香さんみたいな存在もこの世界には必要だと思います。」
俺も同じ様な事を考えた時があったな。
「それに!」
「何だ?」
「兄さんが梨香さんに構っていれば、自分が姐さんの心の隙間に入り込む余地が出来ますから。」
コイツ…………。
涼しい顔して意外と強かな事を考えているんだな。
「俺とミディアは只の腐れ縁だぞ?お前が気にする事は無い。」
「そう思っているのは兄さんだけですよ。だから姐さんに甲斐性無しなんて言われるんです。」
「今日はヤケに攻撃的な物言いだな。」
「いえ……口が過ぎました。自分は姐さんと同じくらい兄さんも尊敬していますので。」
「本当かねぇ…………。」
「シカさぁぁぁん!行かないんですかぁ???」
いつまで経っても動こうとしない俺をリカが呼びに来た。
「ほら兄さん!あなたの天使が呼んでいますよ?」
「何て!?」
「天使の様な娘じゃないですか。そう思いません?」
「…………。」
「シカさぁぁぁん!!?」
隣でニヤけるディアンと廊下から手を振るリカ。
「早く行ってあげて下さい。」
「…………ハァ。やれやれだ。」