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Episode 70

やはり無理にでもリカを連れて逃げるべきだったか……。


「でも彼はもうこの場を去りました。あなた達が来た事に勘付いた様です。」


フゥ…………。

全く冷や汗が出る。


「……おい!周辺の見張りに連絡してくれ。警戒を強める様にと。」

「了解。」


仲間が応える。


「それで何を話した?」

「彼は私について聞いてきただけです。恐らく味方を探しているだけかと……。」


良いぞ!

真実を織り交ぜて話せば動揺も少なくなる。


「それで奴は何処に行ったんだ?」

「分かりません……。トムさん達が来た事で私に嵌められたと思ったらしく、すぐに出て行きました。」

「…………そうか。まぁ良い。」


少しの間沈黙する。

トムと呼ばれた男が部屋をゆっくりと歩き回っている気配がする。


「さて……。これが核心の話なのだが……。"何故シカリウスは大森麻衣と接触したか"これは重要なポイントとなる。」

「ど……どういう事でしょう?」

「確かにコンタクトを取ったのは君の方からだ。しかしシカリウスは2日前にも"檜原"と言う男に接触している。君が言った通り『味方を探している』それは正しいかもしれない。しかしそこに共通する物がある。そうだ……"堀井梨香"だ。」

「!!!」

「君達は揃って堀井梨香君に関係がある。何故殺した相手の関係者を敢えて味方に付けようと思ったか。私はこう考えているんだ……"実は堀井梨香は生きている"と。」


コイツ…………。


「今までも堀井梨香君の生死は不明で両論あったが、掃除屋達が死体を確認している事から、死んでいると言うのが最有力だった。しかし全てがシカリウスの偽装だったら?そうすれば色々辻褄が合う。」

「で……でも彼には梨香さんを生かす理由が無いんじゃ…………。」

「それについては私も分からない。しかし我々が雇っていた追跡者からも1つ気になる情報があった。6月29日に我々がシカリウスの隠れ家を襲撃した際に、一緒に逃げた者が居るらしい。それは誰か…………。」


当たり前の結論だ。

リカを殺してない証拠は、探そうとすればいくらでも出てくる。


「ドンがこの事について何を考えているか分からない。しかし私は生きていると確信している。そして君はその事をシカリウスから聞いている。違うか?」

「!!!!!」

「君は嘘が下手だからな。私が堀井梨香君の話をする度に顔色が変わる。何かを知っている証拠だ。」

「私は……何も聞いてませんし知りません…………。」

「素直に白状した方が身の為じゃないか?君はまだ生爪を剥がされる痛みを知らないだろう?」

「うっ…………。」


これはもうダメか……?


グリップを改めて強く握り直した。

リカは心配そうな顔で俺を見上げている。

俺は苦い顔をする事しか出来なかった。


「さぁ話してくれ。これは脅しではない。」

「…………。」

「話す気は無いか……。私は若い女性を甚振(いたぶ)る趣味は無いが仕方無い。」


今にも叫び出しそうなリカの口を押さえる。

可哀想だがここは我慢してくれ。


パァン!


しかし次の瞬間には予想外な音が耳を(つんざ)いた。

銃声だ……。何が起こった!?


「あ……うぅぅぅぅぅぅ!」


そして大森麻衣の苦しむ声が響き渡る。


「ぁぁッ……ぁぁッ……ぁぁッ…………。」

「あらら……やってしまったな。」


彼女が放つ倒懸(とうけん)声音(こわね)にリカの全身が強張った。


「ハァ……ハァ……ハァ……ぅぅぅぅぅ…………。」

「撃たなくても良かったんじゃないか?」

「しかしこの女が妙なマネを……。」


リカは俺の拘束から逃れようとするが、俺は必死にそれを抑えた。口を押さえている手も思わず力が入る。


んふぅーッ!んふぅーッ!


口呼吸が出来ないリカの荒い息遣いが手に伝わる。


「どうせこの女には人を撃つ勇気など無かったさ。まぁ良い……。さて……大森君。君は少々危険な女性だった様だね。何処で手に入れたんだ?」


何かを蹴る音と金属物が床を滑る音が響く。


「あぅ…………。あぁ…………ケホッ!ケホッ!」

「答える力も無いか?まぁどうせGearsのクソジジイの所だろう。しかし使う相手を間違えた様だな。"それ"を撃つ気で向けたら躊躇(ちゅうちょ)せずに撃たないと撃ち返されるぞ。」


大森麻衣の苦悶の唸り声は今だ続いている。

リカの目からは涙が溢れ、俺が力を抜けばすぐにでも飛び出して行ってしまいそうな勢いだった。


大森麻衣は恐らく撃たれた。それも雰囲気から察するに重症だ。

親しい人が死に掛けている。助けに行きたいだろう。

しかし行かせる訳にはいかない。出て行った所で事態は悪化するだけだ。


身体の自由を奪われ、声も出す事が出来ないリカは、必死に俺への抵抗を目で訴えている。

気持ちは分かるが抑えて貰うより他は無い。

俺は只その目を真剣な眼差しで見つめ返してやる事で応える。


「もし…………。」

「何だ?喋れるのか?」

「もし何か知っていたとしても。……うぅ……ハァハァ…………。あなた達には教えません。」

「何ぃ?」

「うぅ…………。ぁ……あなた達が私に……梨香さんに何をしたか…………。わ……私は絶対に許せないッ!」

「そうか…………。」


パァン!


今一度銃声が響く。


「あぁぁぁぁぁ…………!」


激痛を訴える大森麻衣の叫びにリカの身体は小刻みに震え始めた。

しかし俺を腕を掴んでいる手にはより一層の力が入り、肉が千切れそうな痛みが走る。

俺はこの痛みに耐えてあげる事しか出来ない。リカが堪えている限り。


「あ~あ……私もやっってしまったな。ドンに怒られる……。折角のエサを台無しにしたんだからな。お前等も報酬無しくらい覚悟しておけよ?」

「何故だ!?それでは契約が違う!」

「最初に撃ったのはお前だ。」

「ターゲットの生死は基本的に不問の筈だが?」

「大森君はターゲットではない。それにもし文句があるならドンに直談判すれば良い。通用する相手ではないと思うがな。」

「…………分かった。」

「さてと……。このまま死体を置いておくのはマズイな。大森君を運び出して出直すぞ。それとシカリウスが周囲の網に掛かってないか確認してくれ。」

「了解。」


どうやら大森麻衣を運び出す様だ。


「うぅ……うぅ…………。」


時折彼女の苦痛の吐息が漏れるのが聞こえる。

まだ生きてはいる様だが……。


「シカリウス……。これだけ接近してもなお尻尾を掴ませないな。ドンの言う通り手強い奴だ。」


連中が部屋を出て行く気配がする。

取りあえず山場は過ぎたが、俺もリカも暫くクローゼットの中から動く事が出来なかった。

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