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Episode 66

「お帰りなさい!おじいさんとは会えましたか?」

「あぁ……。」


郊外のホテルに戻った俺は、ドアを自ら開ける前にリカの出迎えを受けた。

俺の足音は完全に把握されている。


「何かありました……か?」

「いや……。」


溜息を漏らしソファーにもたれ掛かる俺の表情は、またしても何かを勘付かせてしまった。


「何かあった訳では無いが、リカは大森麻衣と言う女性は知っているよな?」

「大森さんですか!?はい!もちろんです!私の歌手としてのマネージャーさんですから。とても良い方です!」


マネージャーか……やはりな。


「どんな女性だ?」

「そうですねぇ……付き合いは長くはないんですが、いつも一生懸命で仕事に一途で。約2ヶ月の間でしたが、アーティスト堀井梨香のプロジェクトにも真剣に取り組んで下さって、そのチーム中でも常に中心になって動いて頂いてました。大森さんだけでなく、チームの皆さんどなたも良い人ばかりでした!」

「リカは今でも信用してるのか?」

「はい!!大森さんとは出来ればまたお会いしたいです!」

「彼女が春鳥の人間でもか?」


リカは少し困った様な苦笑いを見せる。


「はい……それは分かってます。」

「リカへのあの計画はかなり用意周到に準備された物だ。恐らくはリカの曲を作っている時にだって計画は進んでいた。大森麻衣もそのプロジェクトチームもマッテオとグルの可能性はあるんじゃあないか?」

「それは…………そんな事が有るなんて考えたくも無いです。作詞家さんには私の思いを歌詞に入れて貰ったり、作曲家や編曲者さんには好きな音程や楽器を入れて貰ったり、私がそう言ったワガママを言う度に皆さんで寝る間も惜しんで会議して頂いて。そのまとめ役は大森さんでした。皆んなで笑い合って時にはぶつかって、チーム一丸となって作って来ました。それが嘘だったなんて思いたくありません。」

「リカの気持ちも分からなくも無いが、実際あの日にリカの所まで俺を案内したのは大森麻衣だ。」

「!!!」


流石にショックだったか……。

だが俺も大森麻衣が完全にクロだと決めつけた訳じゃあない。

気になるのはあの日の彼女の不審な言動や行動。何か有るのは分かっている。

見極めなければならない。


敵か味方か…………。


「それはきっと何か理由があったんだと思います。でなければ大森さんが……まさか……。」

「そんな事実を知ってもまだリカは大森麻衣を信用したいのか?」

「大森さんは……大森さんは……私と仕事出来る事を『嬉しい』と言って下さいました。あの時の言葉に嘘は無かったと確信しています。だから私は大森さんを信じます!」

「そうか…………。」


彼女と会った時、嘘が下手な奴だと思った。

さっきの電話でも声色からは嘘は感じられなかった。

リカと過ごした時間も含め、全て偽りならとんでもない演技派だ。マネージャーじゃなくてそのままスペタコロで女優をやったら良い。


彼女が罠である確率は…………。


「実は大森麻衣から接触があった。」

「えぇぇぇぇ!!?」


両手を大きく広げ、今日も相変わらずのオーバーリアクションだ。


「でもそれって……?」

「リカを保護したいと言っている。」

「私を……ですか?大森さんが?」

「あぁ。芸能界を巻き込んで、春鳥の悪事を公表すると言っていた。それにはリカの存在が力になると。」

「それで……シカさんは何と??」

「明日会ってくれと言われたから、考えておくとだけ。特にリカの生死については言及しなかった。罠の可能性も有る以上、まだ曖昧にしておいた方が良い。」

「どうするつもりですか?」

「俺は会いに行くつもりだ。先ずは俺が行って、彼女が敵か味方か判断しようと思っている。」

「もしシカさんの御眼鏡に適えば私を預けるのですか?」

「そうなるな。そっちの方がリカも安全になる筈だ。俺なんかと一緒に居るよりかはな。」

「そうですか…………。」


何故か浮かない顔をしているリカ。


「あのぉ……。」


何かモジモジしている。


「もし良ければですが……明日私も一緒に行って大丈夫ですか?」

「…………。」


突然何を言い出したかと思ったら。


「ダメでしょうか……?」

「ダメも何も、これは罠かもしれない事を分かっているのか?」

「分かっています。」

「いや分かってない!もし襲われたら俺はリカを助ける余裕なんて無いぞ?」

「大丈夫です!自分の身は自分で守ります!」

「どうやって?」

「このシカさんから貰ったリップスティックで!!!」


俺が渡したリップスティック型スタンガンを誇らしげに掲げる。


「……あのなぁ。確かにそれを渡したのは俺だが、それは気休め程度の物だ。使い捨てで、1人に使ったらもう終わりなんだよ。」

「えぇぇぇぇ!?」


またしても両手を挙げ、驚きを表現している。

しかし次の瞬間にはいつもの屈託の無い笑顔に変わり、穏やかな口調で話し始めた。


「でも大丈夫です!私は大森さんを信用していますし、もし万が一それが罠で私が捕まってしまう事があっても、仕方が無いと思いますので。」

「仕方が無い?何でだ?」

「大森さんには私のワガママに沢山付き合わせてしまいました。ですから今回私を捕まえる事が大森さんにとって必要な事なら、それはそれで本望です。」


また何を言っているのか……この娘は。


「もし何か合ったら私を置いて行って下さい。だからお願いしますぅ!!大森さんに会いたいんですぅ!!!」

「…………もう好きにしてくれ。」

「良いんですか!?やったぁー!!よしよしよしよし!」


リカの言葉には相手を黙らせてしまう言い知れぬ力がある。

プロの言霊は侮れない。


いざという時に俺はリカを守れる余裕はあるのか?

それともこの娘の言う通り守る必要など無いのか……。


もう一々懸念を抱えるのが面倒臭い。

俺1人ならこうした悩みも考える事も無いのに……。


こんなにも俺の心はドロドロしている。

常に相手の事を優先して考えるリカと、己の気持ちが1番の俺。この娘と一緒にいると自分の心の醜さに嫌気が差す。


これ以上耐えられるだろうか……。

俺にとってリカは眩し過ぎる。

そう。この娘の存在はまるで…………。

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