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Episode 65

その日の夕方、俺はGearsに顔を出していた。

キムラの事を報告するついでに弾の補充を兼ねている。

彼の事が有り、ジイさんが少し心配になったのも確かだ。


「そうか…………。あやつも危険な仕事に手を出していたからの~。お前さんの所為でも誰の所為でも無い。気を落とすな。ワシ等誰でもそうなる危険を孕んでいる。」

「今回は俺への見せしめに感じたが……。」

「考え過ぎだ。キムラの性格じゃ遅かれ早かれ春鳥とトラブルは起こしていただろうて。」

「ジイさんは平気なのか?連中には俺と取引してる事も知られているんだろ?」

「何だ?心配してくれてるのか?こりゃたまげた……お前さんの様な天邪鬼が…………。」

「うるせぇ!」

「心配せんでも今のワシには後ろ盾が付いている。ボラカイ程強大では無いが、奴等が簡単に手出し出来る様にはなっとらん。」

「何か聞いて損した気分だぜ。」

「まぁ気遣い有難く受け取っておくぞ。それより今日はあの生物は一緒ではないのか?」

「あぁ……。」


東京に戻った俺達は郊外のホテルを取った。

しかし天気は予報通り雨へと変わり、バイクでの移動は困難となった為、ここへは俺1人で来ている。


「これはワシには安全を保証しかねん話なんだが……。」

「何だ?急に。」

「一昨日の事なんだが、いきなり"大森麻衣"と名乗る女性が現れてな。見た感じは堅気の人間だったが、裏口の合図も合言葉も知っとった。」


大森麻衣???何処か聞いた事の有るような無いような……。


「それでな。良く話を聞いてみると、どうやら春鳥の関係者だったらしいんだよ。しかしもう足を洗い、堀井梨香なる人物を探していると。」

「!!!」


思い出した。

リカの口から(たま)に大森と言う名前を聞く事があった。


「お前さんがここに出入りしてる事も知っていて、もし来たら渡してくれと連絡先を置いていった。」

「春鳥の元関係者で、リカを探していて、俺に会いたいと……。普通に考えれば怪しすぎるな。」

「そうなんだが……。その女性は酷く(やつ)れていてな。何か只事ではない雰囲気だった。まぁ一応連絡先は渡しておくが、罠の可能性も大いに有る。連絡するしないはお前さんの好きにせい。」


渡されたのは俺も愛用のSNSのIDだった。

これを使っている事を知っているとなると益々怪しい。


「そろそろ時間だ。」

「あぁ色々すまない。」

「気にするな。それよりもうこの店に来ない方が良い。流石に奴等もこの店周辺に見張りを置くだろうて。何か欲しければ都合を付けて何処かで落ち合おう。」

「良いのか?」

「見す見す上客を逃す手はあるまい?」


ジイさんはニンマリとした笑顔を見せた。


「サンキュー!それと最後にそこにある弾なんだが……。」

「何だ試作の9mmゴム弾か?以前にお前さんが『殺せない弾に興味は無い!』と言っとったが??」

「量産は出来るのか?」

「大量購入してくれるなら出来なくは無いが……まさか使う気か!?」

「試しにな…………。」

「一体どういう風の吹き回しだ?雪でも降るんじゃないか?」

「ほっとけ!!」


相変わらず腹の立つ顔しやがるな。


「現在も1ロットは持っとるが?」

「そうしたら今日はそっちを貰っても良いか?」

「……こんな非常時に何があったか知らんがまぁ良い。ワシは金さえ払ってくれるなら文句は言わん。」

「サンキュー!」


ジイさんが奥に消え、すぐにゴム弾を持って来る。


「ゴムだからと言って殺傷能力はそれなりにある。当たり所が悪ければ人間など簡単に死ぬぞ?」

「あぁ覚えておく。」

「じゃ気を付けてな!」

「ジイさんもな。」

Good(頑張) luck(れよ)!」


そう言って右手の親指を立てるジイさんの元を去りタクシーを捕まえた。

ホテルに向かいながら貰った連絡先を見つめる。


大森麻衣…………。

リカは信頼を寄せていた様だ。今までの話からもそれは分かる。

釣り針はデカイが、今の俺にはどんな小さな望みでも賭けてみたい気持ちがあった。


さて彼女は俺達の希望となるか……。

将又(はたまた)破滅へと導く案内人か……。


俺は携帯のアプリを開くと、書いてあるIDを入力し、そのままその相手にメッセージを残す。

雨の降り続く7月4日。今日は夕焼けも見えること無く空は暗闇へと変わって行く。


そう言えば今日は米国の独立記念日だ。

そして忌々しい日…………。


タクシーを降りた頃に返信が来た。音声通話で。

一瞬迷ったがそれは受ける事にした。


「もしもし……シカリウムさんですよね?」


こいつは……俺はこいつを知っている!


「…………そうだ。」

「単刀直入に聞きますが、梨香さんは生きてますよね?」

「それをアンタが知ってどーするんだ?」

「私はあの娘の無事を自分で確認したい。そしてもし無事なら私が保護したいと思ってます。」

「アンタはマッテオ側の人間だろ?そんな奴に易々と情報を渡すとでも?」

「私は……もうスペタコロは辞めました。彼等との関係も切らせて貰いました。」

「口では何とでも言えるよな。」

「信じて貰えないのは当たり前です。それを証明する事も出来ません。ですが私は本気であの娘の身を案じています。」

「…………。」

「確かに私には力は有りません。ですが芸能界には多少顔が効きます。なので業界の大物を何とか味方に付け、全てを公表するつもりでいます。スペタコロと春鳥興業の関係や、彼等が梨香さんに何をしようとしたか。それが上手く行けばあの娘をきっと安全に保護出来ます。常に狙われているあなたよりは……。」

「そんな簡単に行くとは思えない。それにアンタも春鳥からしたら裏切り者になるぜ?マッテオはアンタを殺すだろう。」

「危険は承知の上です。何も行動を起こさなければ、脅されていたとは言えあんな事をしてしまった私自身を許せません。」

「生きている事は保証出来ないが?」

「もし死なせてしまったのなら、一端を担った私は一生悔いて生きるでしょう。それにもしそうなら余計に会社の悪事を公表しなければあの娘が浮かばれません。」


この女は……。


「明日、私は都内のホテルにてあなたを待ちます。勿論来て頂かなくても構いません。でももし来て貰えるなら是非梨香さんを連れて来て頂きたいです。本当にあの娘を殺してないと言うなら……本人が出て来てくれるなら、味方を得るのに大きな力となります。なのでどうか……よろしくお願いします。」

「…………考えておく。」


そう言って電話を切った。

暫くするとホテルのアドレスが送られてくる。


全く……頼むから俺を振り回すのはもう止めてくれ。

そう心でボヤいていつもの様に溜息を吐いた。

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