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Episode 5

「どうやらここまでのようだな。」


なぜか彼の挫折の言葉に、失望に似た気持ちを感じながら、次の瞬間にはその意味を理解する。

彼の後方遠くにマッテオの部下が見える。ついに追いついてきたのだ。

このペースだともし俺を素通りできたとしても、彼らには捕まるだろう。


「やはりあんたに1つお願いをしたい!自分からの最初で最後のお願いだ!」

「…………お前からの仕事は受けないと言ったはずだが……?」

「依頼じゃないさ。言っただろ?"お願い"だ。」

「同じ事だ。金を貰わなければ俺は動かないぞ?」

「それならそれで仕方ない。強制は出来ない。」


エドアルドは苦笑いを浮かべる。


「……ハァ…………。取りあえずその"お願い"とやらを聞いてやろうか。」

「マジか!?本当に良い奴だな!」

「やるとは言ってない!いいから早く言え!!」

「ドンが言っていた……。自分が潰そうとした計画がまだ続いている。春鳥は今後、大手のヤクザとの提携で大きく動くことになる。その時に"ある人"を保護して欲しい。」


コイツがやろうとしていた事っつーのはその事か。保護する人物とやらが、コイツを裏切らせる行為に走らせた原因らしいな。一体どんな大物なんだ……?


「その人の名は……………。」


名前を言い掛けた瞬間、乾いた銃声と共に、彼の胸の辺りから血が吹き出す。と同時に俺の右肩にチリチリとした痛みを運んで来た。

力のない右足から前のめりに倒れ込み、すぐに地面に血の絨毯を織り始める。当たりどころは最悪らしい。


あいつ正気か!?延長線上には俺も居るってのに!ふざけんな!!!

肩の痛みを確認すると、三角筋の外側辺りから一直線に血が出ている。

貫通した弾丸は勢い止まらず、更に俺を掠めたらしい。


直ぐ様エドアルドに駆け寄り、仰向けにして傷の具合を確かめる。

まだ何かを喋ろうと口をパクパクさせるエドアルドの胸からは、その度にコポッコポッという音と共に血泡が吹き出る。


「肺とその近くの大動脈を一緒にやられたか……。」


最後の力を振り絞るように左肩を掴まれる。


「…………ホォォ…………………リ…………カ……………………。」


上手く呼吸が出来ないせいで、声になっていない。


「……………………ダ………ノ………ヴ…………。」

「頼む!?何をだ???ハッキリ喋ってくれ!!」

「ゲフッッッ!!!!!」


咳き込むのと同時に大量の血を吐き出す。大動脈から漏れ出した血液は、胸の穴だけでは足りず、出やすい穴から外へと飛び出していく。

もうダメなのか……?


必死に呼吸を試みている様だが、その度に空気は血と共に体外へ流れ出る。

肩にあった右手はもう掴む力を無くし、その場を離れる。

失血のせいか、はたまた窒息のせいか、末端部分から小刻みに痙攣を始めている。視線は完全に空を捉え、意識の混濁を物語る。

無駄だと分かっていながら、呼びかけてみる。


「おい!まだ生きてるか?」

「…………ゥッ!…………ヵッ!」


僅かに反応する。苦悶の表情を浮かべる彼は、今だに窒息という地獄の中に居る様だ。


これはもう助からない……。

1つ決心した俺は彼の額に銃口を押し付けた。

彼も理解したのか右手の親指を立てる。"やってくれ"と、そう言わんばかりに……。


Ave() atque() vale(でな)!」


躊躇(ちゅうちょ)せずに弾丸を頭に打ち込む。射出時の閃光とブローバックの金属音だけが木霊する。

脊髄反射に身を震わせた後、手足の痙攣も止まり、只の屍へと成り果てた。

最後に目を閉じてやると、彼はあろうことか笑っていた。もう表情を変える術を持たないまま……。


間髪を入れず、先程撃った張本人が傍までたどり着き、膝をついている俺の額に銃口を突きつける。


「お前ら何を話していたンだァ?エドが逃げたンは計画かァ?」

「…………テメェ!!何しやがった!?生け捕りの手筈だろうが!!」

「ハァ~!?今殺したンはお前だろうが。」


しまった……。後の言い訳を考えていなかった……。

確かに止めを刺したのは俺だ。これは分が悪い。


「しかも傍から見てもお前らが共謀してンのはバ~レバレだって!目的はドンの命かァ?」

「勘違いするなよ!お前の一撃でもう瀕死だった。俺は介錯してやったんだ。」

「おい!そンな言い訳が通用するか!」


ダメだ!この状況じゃあ何を言っても無駄だ……。

俺がコイツでもきっと疑う。


その時タイミング良く残りの3人が追いつく。更に少し遅れて黒ずくめも到着する。

状況を見た1人が俺ではなく、俺が見上げる男に銃を構えて制止を促す。


「どういう状況か分からんが、取りあえず銃を下ろせ。」

「お~いおい仲間に銃を向けるとは酷いンじゃねぇかァ?」

「お前が先に仲間に銃を向けているようにしか見えん!それにエドを撃ったのはお前か?」

「チッ!…………仲間じゃねぇ。殺し屋だか知らンが、こいつら結託してなンかやろうとしてやがったンだ!エドを最初に撃ったンはオレだ。でも殺したンはこいつだ!口封じでもしたンじゃないかァ?」

「結託してた根拠はあるのか?」

「遠くから見てても分かったぜ!こいつはエドを捕まえるフリして逃がそうとしてた。そもそもこういう状況を作ったンもこいつだ!」

「呆れるほど主観でしか無いな。いいから一度銃を下ろせ!ちょっとエドの死体を調べる。判断はその後でも出来る。そうだろ?」


一応上司なのだろうか?渋々ながらといった様相で、俺に銃を向けていた男はそれに従う。

そして検分を始めた男は、一通り調べた後に俺に質問をしてくる。


「シカリウス、あんたホローポイントを使ってるな?」

「……そうだ。職業柄な……。」

「あんたには撃たれたくないな……。まぁ何にせよ、それで決まりだ。」

「なンか分かったか??」


食いついてくる。


「取りあえず今は、シカリウスがエドの仲間かどうかは置いといて、エドに致命傷を与えたのはお前だ。」

「……なンで分かる?」

「まずエドの致命傷は、どう見てもこの胸と背中を突き破った一撃だ。ここからの出血量を見れば分かる。それでシカリウスの弾頭はホローポイント。ダメージはデカイが胴体を突き抜ける貫通力は無い。一方お前の使うマグナムは弾頭もフルメタルジャケットで貫通力が高い。つまりはお前がこの致命傷を作った。」

「それこそ主観じゃねぇのかァ?」

「それともう1つ。エドはお前に撃たれる前に、シカリウスに右足を撃たれてる。恐らく捕まえる為のモノだろう。違うか?」

「……あぁそうだな。」

「これでエドとシカリウスが仲間だった可能性は低くなった。」

「チョット待ってくれよ!怪しまれンための偽装かもしれンだろ?」

「偽装の為にホローポイントで撃つバカは居ないだろう。普通なら動けなくなる。」

「チッ!クソがァ!!」


再び俺に銃が向けられる。


「それでもこの2人が何やら話をしていたのを見たンだ!完全に捕まえられる状況で捕まえようとせずに!」

「おい止せ!こうなるとどう見てもお前の分が悪い。早く銃を下ろせ!皆でドンの所に戻るぞ!判断はドンにして貰う。それで異論は無いだろう?」

「チッ!……分かった。」


少し不満顔だが、マッテオに判断して貰う事には異論はないらしい。


「お前はドンの為に誰より熱くなれるのは良いが、時々暴走し過ぎるな。」


俺は撃たれ損な感じがするが、話はまとまった。マッテオの所に戻る。

誰かがエドアルドを担いで戻る事になる。誰も血だらけの死体など持ちたくないかと思いきや、黒ずくめが率先して立候補する。

死体を眺めながら佇む彼は、一瞬悲しんでる様にも見えたが、今だにサングラスを掛けているため、表情は窺い知れない。


皆でトボトボ歩いて戻る。そこに会話はなかったが、"例の彼"はたまにブツクサと独り言を言っていた。

しかし責められた事は本当では無いが、躊躇(ちゅうちょ)していたのは事実だ。彼はそんな俺を見て、何か感じたのかもしれない……。暴走気味だが、直感は働くタイプらしい。


それにしてもエドアルドを殺した事は、やはり俺のミスになるのだろうか?依頼料は減額せざるを得ないか……。

そんな事を考えていた……。

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