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Episode 52

「あれっ!?私ここ知ってます!!」


駅近くの繁華街を通っている時に、リカが突然騒ぎ出す。


「絶対に来た事ありますよ!!この道通ったの覚えています!もしかするとその河川敷って、私知ってるかもしれません!!!」


みるみるテンションが上がるリカ。

元気になったのは良いが、騒がしいのは勘弁して欲しい……。


「やっぱり!!!ここです!!!ここですよシカさん!!!!!」


河川敷に着いて確信したのか、テンションは最高潮に達している。

しかしここが何なのだろうか……。


「うわぁ~懐かしいなぁ~~~!ねぇ!?シカさん!!!ねぇ!?子供の頃以来です!!!!」


聞かれても俺は知らん。


「何だ?ここでダンボールハウスにでも住んでたのか?」

「そうです!私はホームレス小学生!って違ぁぁぁう!!!w 昔お母さんと一緒に来たんです!」

「そして河川敷に捨てられた……。」

「悲しい思い出……家なき子……。ってこらぁぁぁ!!!w お母さんはそんな酷い事しません!今でも仲良しです~!!!ここが舞台になってる作品があって、連れてきて貰ったんです!」

「荒川をバックに犯行を自白する母親……。」

「お母さん!お願い自首して!!ちゃーちゃーじゃーーーん!ちゃーちゃーじゃーーーん!!ってサスペンスドラマの舞台じゃなぁぁぁぁい!!!!!www」


待って!この娘イジると面白い!


「ちょっと待って下さい!1回変な想像から離れましょー!!!もう!シカさんおかしな人です。」


いや君に言われたくはないな……。


「この場所は私が子供の頃観たアニメ映画の舞台になっていて、聖地巡礼ってやつですよ!」

「何だそれは?子供が宗教の映画を観たのか?」

「宗教!?まぁ作品の信者と言うのなら宗教みたいな物なのでしょう!w アニメの中も現実の景色をトレースして使ってる事があって、その実際の場所に行く事を聖地巡礼って言うんですよー!」


今はアニメの宗教が有るのか?日本は分からん国だ……。


「主人公の女の子と相手の男の子が、クライマックスにこの場所で夕日に包まれながら、もう二度と会えないであろう別れをするんです。でも最後にある約束をして……そのセリフがもの凄く良くて!あぁ……今思い出しても泣きそうです……。」


図らずとも、正に黄昏時直前に訪れている。

まぁ今日は曇りなのだが……。


「リカは子供の頃からアニメが好きだったんだな!」

「はい!!!だから声優になるのは夢だったのです!」


含みの有る苦笑いを見せるリカに同情を誘われてしまう。

彼女が復帰出来る日は来るのだろうか……。


「しかし母親もリカの趣味に付き合わされて大変だったんじゃあないか?」


気不味さから話題を変える為に皮肉を言ってしまった。


「お母さんもアニメ大好きですよ?寧ろノリノリでしたw 因みにウチはお姉ちゃんも弟もアニメ大好きです!!!」


しかし返って来たのは意外な答え。

何ですか?それはある意味英才教育ですか?


「お父さんがたまに話題に入れなくて可哀想ですがw」


親父さん!俺はアンタを応援している。


土手沿いを2人で(しばら)く歩いた。俺とリカの身長差は結構ある。

ヒョコヒョコ歩くリカは、俺が1歩で進む距離に2歩必要だ。この時初めて気付く。

今まで俺に付いて来るのにきっと必死だった事だろう。仕方無い。人と2人で歩いた経験など俺には殆ど無いのだ。

でもリカは何も言わなかった。不満も出さなかった。だからこれからはちゃんと付いて来てるか確認しながら歩こう。そう思った。


適当な場所を見付け腰掛ける。とは言ってもベンチでは無く、河川敷へ降りる階段だが。

間もなく日没を迎える。曇り空の夕焼けと言うのも中々幻想的で、先程までどんよりとしていた雲が、一気に綺麗な朱一色へと染め上がっている。


「実は今日シカさんが出掛けた後、私は去ろうと思っていたんです。もし私が真帝王さんの所に行けば、もう昨日の様な事は起こらないんじゃないかって。やっぱり私が逃げている事で誰かが死んでしまうのは、どうしても自分で納得出来なくて……。」


そんな事を考えていたのか。

でももしリカが本当に居なくなったら?

俺はどうするだろうか……。


「でも最後に、シカさんが折角作ってくれたご飯を食べてから行こうと思ったんです。それで食べ終わった時に思ってしまったワケですよ!あぁまたシカさんのご飯が食べたいなーって。そしたら急に出て行くのが怖くなっちゃって……。口では綺麗事言ってても、結局私は……。」


普通の感情じゃあないか?


「誰だって自分から好き好んで死に行く奴なんて居ないさ。」

「そうなんですけど。葛藤してしまって……。私さえ居なければ助かる人だって居る筈なんです。」

「向こうだって裏社会に生きる連中だ。今死ななくてもいつかそうなるかもしれない。死とは隣り合わせに生きてるんだよ。」

「でも昨日の亡くなった方だって私と関わらなければ、もしかするとおじいさんになるまで元気に生きていたかもしれない。それは誰にも分からないですけど、少なくとも長くは生きていられたでしょう。」

「……じゃあリカはやっぱり自分が春鳥に捕まれば良いと思ってるのか?」

「そう思ってます……。でも私には勇気が無いのでシカさんが連れて行って貰えませんか?そうしたらきっとシカさんも許して貰えますよ!悪いのは全部私なんですし……。それにもしかすると私も殺されずに済むかもしれませんしw」

「俺はお断りだ。それに今リカが捕まれば100%殺される。それは断言出来る。」

「それは困りましたね……ハハハ…………。」


こんな時何と言ってあげれば良いのだろう……。

気の利いたセリフでも言えれば良いのだが、俺は俺の性分の言葉しか出て来ない。


「じゃあこうしよう。もしリカが死んだり、殺されたりしたら、俺は春鳥興業の連中を皆殺しにする。そうしたらリカのせいで死ぬ人間が増えるし、俺が殺す人間も増える。嫌なんだろ?俺が人を殺すのが。どうだ?」

「それはもっと困ります…………。」

「もう何が何でも春鳥から逃げ延びて生き残るしか無い。だから全力で生きてくれ。俺が殺人鬼にならない様に。」

「凄い事言いますね……。もしそんな事したら私はシカさんの事嫌いになりますよ?w」


もしあの世で会ったら怒られるかな?

まぁリカは天国で俺は地獄だろうが……。


「でも……ありがとうございます!私知ってます。シカさんはお優しい方です。だから私はシカさんが大好きです!」


相手が子供だろうが、軽い気持ちで言った物だろうが、その言葉は悪い気はしない。


「少し心のモヤッとした気持ちが晴れた気がします!でもシカさん?約束して下さい。私の為に殺生はもうしないと。」

「あぁ……約束だ。」


リカは(おもむろ)に立ち上がり、俺の方へと振り返り小指を差し出す。


「本当ですからねー?破ったら針千本飲ましますよ?w」

「そりゃ怖いな。」


俺も小指を差し出し結ぶ。


「ゆーびきりげんまん!うそついたらはりせんぼんのーます!ゆびきった!!!」


リカはいつもの笑顔を取り戻し指を切った。

こんな事したのは子供の頃以来だ。


「今日はこの場所に来て良かったです!!」

「そうか……そうしたらまたいつか夕陽を見に来よう。今度は晴れている時に。」

「はい!!!」


俺も釣られて立ち上がった。

何とかリカの気持ちは落ち着いた様だ。

これで1つの懸念が無くなった。あと1つも今宵解決へと向かうだろう。

朱色の綺麗な空は暗い闇へと変わり始めていた。

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