Episode 48
食後にコーヒーを淹れる。分けるのが面倒だったので、自分のもリカ用特製コーヒーにしてみた。
そしてその行動に後悔する。一口目から頭痛がする甘さだ。
「よくこんな物飲めるな……。」
「えぇ~~!?すっごく美味しいですよ!」
1杯飲み終える頃には俺の口の中はとんでもない事になっていた。それでも完飲出来た事に自分でも驚く。
リカは相変わらず"私の担当だ!"と言わんばかりに皿洗いを始めた。正直助かる。
その後は各々好きな様に余暇を過ごす。リカはかなりのゲーマーの様で、与えたタブレットで既に様々なゲームをダウンロードし遊んでいた。
特に自分が声を当てているキャラクターには感情移入してしまうらしく、そのキャラクター達の関連の物ばかり増えていく有様だ。
夜も更けるとリカを寝室のベッドへ送り出し、俺はリビングのソファーで休む事にした。
しかし今晩は念の為、徹夜で警戒する事を決めている。
夕方には何もアクションが無かったが、目撃情報が伝わっている可能性は否めない。
まぁ丁度ゆっくり読みたいと思っていた小説が有るんだ。
ソファーに寝っ転がり、それを読み始める。
とある不器用で冴えない生活を送る男が、空想の中で冒険に出掛ける。そんな話……。
読み終える頃には空は白み始めていた。幸いにも何事も無く朝を迎える。
午前中は特にやるべき事も無い。
ムクっと起き上がると、コーヒーを淹れにキッチンへと向かう。しかし徹夜明けのボケッとした頭で作っていたので、リカ用のカフェオレにしてしまった。
己の馬鹿さ加減に呆れつつも、リカはまだ起きてないので仕方無く自分で飲む。
意外にも砂糖たっぷりのそれは、今だ冴えない頭にガツンと効いた。
昼前になって漸くリカが起き出す。
「お早うございます!ごめんさない……夜更かししちゃって……えへへ!」
どうやらベッドに入った後も隠れてゲームをしていたらしい……。
まぁ昼まで寝ていてはいけない!などと言うルールは無いのだ。何事も無いなら好きなだけ寝ていれば良い。
「今日の昼食は寿司にするが良いか?」
「えぇ!!?お寿司ですか???」
少女漫画の様に目がキラキラしている。
「あぁ……昨日のサーモンがまだ有るからな。と言うかそれ以外は無いが……。」
「やったぁー!!!!サーモン!サーモン!サーモンのお寿司!サーモンパーティですね!!!イクラは有りますか???」
人の話を聞いとるのかこの娘は。
「無いと言っとろうに!」
「えぇ~!イクラ無いんですかぁ???悲しみある~。でも全然おっけーですぅ!!!だってサーモンですから!!!!いやサーモンですもんね!!?さぁシカさんもサーモンダンスしましょう!!!」
テンションが上り過ぎてちょっと何言ってるか分からないです。
踊り出すリカを放っておいて支度を始める。
とは言ってもリカの寝てる間に準備は出来ていた。
リカも楽しめる様に基本は手巻きスタイルにして、握りも何貫か用意する。
彼女の作る手巻きはシャリも具も入れ過ぎで、通常の2倍サイズ位になっていた。
途中ワサビを付け過ぎて泣き出すリカに笑いつつも、あっという間に昼食は終わりを迎える。
4合炊いたシャリは跡形も無く消えていた。
いつもながらその食欲に圧倒される。それでいてビックリするくらい痩せているリカは、摂食障害じゃあないかと疑問に思ってしまう。
「この後買い物に行こうと思っているのだが……来るか?」
食べ過ぎでツチノコの様になっているリカに問いかけた。
「ウッス!自分も是非行きたいと思ってはおりますが、何分動けない状態であります!!」
「そうか……では少し待つとしよう。」
「かたじけない……。」
いつもの様にコーヒーを飲みつつ待っていると、物の30分でリカは復活する。
その消化能力にも驚かされた。
「バイクには乗った事あるか?」
「いえ……初めてです……。」
緊張の面持ちでタンデムシートに座るリカ。
「まぁしがみついてれば大丈夫だから。」
「は……はい!」
勿論向かう先はGears。昨日出来無かった仕入れをしに行く。
走り出すと同時に千切れそうな勢いで服を掴むリカ。
リアボックスでも付けた方が良いか……。
寄り掛かれるし、こうしてリカにバックパックを持って貰わ無くても荷物が積める。
まだ慣れていないリカの為にゆっくり走っていたので、中野までは1時間近く掛かってしまった。
店からは少し距離を取り、バイクから降りる。
「ふぅ~危なかったぜぇ~。バイクがこんなに怖い物だとは知りませんでした!」
フルフェイスを脱いだリカは少し疲れた顔になっていた。
「も……もう握力がありません……。見て下さい手がプルプルしてますw」
「お疲れ。次第に慣れると思うから。」
「そうだと良いのですが……。」
Gearsには様々な業界の人間が顔を出す。一応警戒しながら近付くが、特に誰かと遭遇する事は無かった。
裏口で合図を送ると今日はドアが開かれる。ジイさんはちゃんと居るらしい。
中に入ると何に使うか分からない様なパーツが所狭しと並べられている。俺がガラクタ屋と呼ぶ所以だ。
ジイさんはこちらをチラッと見ると、少し眉を動かし、何も言葉を発しぬまま目を逸した。
ガラクタ類を物色している先客が1人居る。見覚えは無いが、きっと"裏"の人間ではないだろう。何故なら……。
「マスター!注文の品を受け取りに来たんだが。」
「……名前と品は?」
「杉山だ。注文は九五式重戦車のスプロケットホイール。」
「……奥で待っててくれ。」
低いブザー音と共に、ジイさんの近くのまるで檻の様な扉の鍵が開いた。
そこには更に地下へと続く階段がある。そう今居る場所は、この特殊な店の客の中でも一般客用の空間であり、本当にヤバイ物は地下にあるのだ。
リカを連れてその地下へと下る。
ジジイの横を抜ける時、リカの事をチラチラ見ていた。そりゃあ気になるだろうよ。
「シカさん!さっきの何ですか???すぎやまとかきゅーごーしきとか。」
「あぁ。この店のメインルームに入る合言葉みたいなモンだ。あのジイさんは戦車マニアでな、何でも良いから戦車のパーツと、その戦車を所有する軍の有名人の名前を言えば通してくれる。」
「はぇ~~~何か良く分からないけど凄いですね!!!」
何が凄いのか俺が良く分からないが……。