Episode 45
「よう!元気か?アンタがそんなに俺の事好きだとはな。2日連絡しないだけでこれか?」
「ハッハッハ!そうだ!!オレはお前からの連絡を恋い焦がれていたぞ!何せ裏切った上に、オレの可愛い部下を甚振ってくれたみたいだからな。全治2ヶ月だとよ。」
「何だあいつ健在なのか?死ぬか警察にでも捕まってくれてた方が嬉しかったが。まぁお互い様だ。俺もあいつのせいでデッカイ風穴が開いたからな!それに先に手を出してきたのはそっちだ。」
「シカリウス……。余計な話は抜きにしよう。もし今お前があの娘を渡してくれるなら全てを水に流してやる。どうだ?お前も一時の気の迷いだったんだろう?」
「おおそれは有り難い!何の事だか分からんが、水に流してくれ。」
「シラを切るつもりか?分かってるだろう?オレ達を敵に回すと厄介だぞ?」
「脅しかそれは?怖い怖い。」
「いい加減にしろシカリウス。何故お前程の男が、たかが1人の女の為にそこまでする?」
「女の為?自分の為だ。」
「分かった!その娘は高く売れるんだろ?奴隷としてか?それとも臓器か?それなら儲けは山分けで許してやるがどうだ?そもそも生きてるのか?」
「質問が多いな!面倒いから答えはまとめてNOだ!」
「飽く迄こちらに擦り寄る気は無いか……。それならばオレ達は全力で奪いに行くぞ?お前のその大切な物を。」
「あぁやってみろ!俺は全力でお前等を排除してやる。」
「面白いじゃないかシカリウス!!これは戦争だ!オレ達とお前のな。守ってみせろ!そんなに大事なら!!」
「言われなくてもそうするさ。」
「気を付けろ。オレ達は何処にでも居るぞ?すぐに捕まっちゃ面白くない。」
「そりゃこっちのセリフだ。闇に紛れるのは俺の得意分野だぜ?アンタが気付いた時にはもう後ろに居る。精々背後に注意して生きてく事だな。」
「次に会うのが楽しみだ。その時にはどちらが屍かな?オレかお前か……。」
「アンタさ……。」
そう言って通話を終了し、すぐさまマッテオの連絡先をブロックする。
これであちらからは連絡出来なくなった。頻繁に連絡を寄越すアイツはウザいからな。
しかしマッテオの口調は怒りとはまた別のトーンだった。
俺達を捕まえられる自信があるのか……。将又この状況を楽しんでいるならやはり変態だ。
「あの……シカさん?」
リカが背後に居た。
「私が巻き込んでしまった事なので、もし私が出て行ってシカさんがもうこんな怪我しなくて済むなら、そうするべきなんじゃ……。」
話を聞かれていたか?
「大丈夫だ。心配するな。それに子供が変に気を使わなくても宜しい。」
「子供じゃないですー!!もう!!!」
「分かった!分かったからもう中に入ってくれ。湯冷めするぞ?それに明日からは移動も多くなる。今晩はしっかりと休んだ方が良い。」
「分かりました。ではお先に……。」
リカは扉を閉める前に一言付け加える。
「シカさん……本当にありがとうございます!」
そう言って頭を下げるリカに、俺は口には出さず手を振って応えた。
リカが寝室に入った後、俺にはもう1つやるべき事があった。銃の破損状況のチェックだ。
銃はホルスターに入ったまま俺のベッド横に置いてあった。
外見からも分かる。恐らくはもう使えないと。
カルロスの放った弾は丁度銃身を捉え、その形はひん曲がってしまっていた。
これは銃にとっては致命的な破損だ。
永らく愛用していたシグは、最後に俺の命を守ってその役割を終えた。
残念な気持ちと感謝が入り混じった溜息を吐くと、俺は地下へと向かう。
車庫よりも更に下、秘密の入り口から入るそこは、倉庫代わりにしているシェルターだ。
ここには武器や稼いだ金などが保管されている。
壊れてしまったシグP220TBを武器ケースに仕舞うと、代わりにベレッタM9を取り出す。
「まさかジイさんから買った銃が必要になるとはな……。」
それともう1丁取り出す。まだ未使用のデザートイーグル。携帯出来るのはその位だった。
残念ながらどちらも弾は無い。
仕入れに行かなければ……。
金も多目に持って行く。明日ここを発ち、次はいつ戻るか分からない。
マッテオは本腰を入れて動き出すだろう。
こういう場合、一ヶ所に留まるのは足が付き易くなる。
取る物を取り終えると上に昇り、自分のベッドへと戻った。
何故自ら危険を冒してまでリカを助けたのだろう……?
改めて考えてみるが、理由は出なかった。
マッテオの言った通り一時の気の迷いであろうか?いやいやそれならばもうとっくに見捨てている。
只あの時、殺すと言う選択肢は浮かばなかったんだ。そういう事にしておこう。
翌朝は夜明け前から動いた。
最低限の荷物を車に積み込み、都内へ移動する。目的地は大田区。俺の気に入ってる街がある場所。
「シカさぁん……おかわりぃ……。」
まだ寝惚けているリカを車に押し込むと、そのまま走り出した。
街に着く頃には夜は明け、リカも起きて変わり行く景色にワーキャー言っていた。寝起きからうるさいのは変わらない。
俺は取りあえず、前回行きそびれた市場に向けてハンドルを切る。
久々に新鮮な食材を見に行きたかった。それに食べ物に関する事ならリカも喜ぶだろう。
案の定着いていの一番にリカがはしゃぎ出す。
あまり目立つ行動は謹んで欲しいんだが……。
こういう所は少し疲れる。追われてる立場を自覚してくると有り難い。
そんな俺の懸念を余所に、リカのテンションは水産物エリアに入ると最高潮に達する。
「ねぇねぇ見て下さいシカさん!!!お魚達がこーんなに!こーんなに沢山!!!水族館みたい!!!」
今は初夏なので、冬と比べるとそれでも種類は少ない方なんだが……。
「わぁ!!!あそこにはサーモンが有りますよ!サーモン!!!大きいです!!!」
時期終わりかと思いきやまだあったそのサーモンは時不知。
春から初夏にかけて出回る白鮭の1種で、脂が非常に多いがしつこさは少なく、特にハラスの焼き物はかなり美味であるサーモンだ。
「美味しそうですね!私サーモンには目が無くてw ンフフフフw」
「それならばこれを貰って行こう。」
「えぇ!?丸々1本ですか???」
「ここは街の魚屋じゃあない。切り身になんてしてくれないぞ!」
「シカさん捌けるんですか??凄ーい!!!でも1本だと多過ぎないですか?」
「なんだ流石にそんなには食えないか?」
「食べますぅ~!もうサーモンならいくらでも!!!」
どうやらサーモンパーティとなりそうだ……。
その後も青果エリアでハーブ類やフルーツを物色してこの街の住処への道へと就く。
今日は何事も無ければ良いが…………。