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Episode 44

次に気が付いた時には、俺は自分のベッドの上に寝ていた。

酷く気分が悪い。これもモルヒネを打って寝た後はいつもの事だった。


まずは状況を確認する。部屋は真っ暗で時間も良く分からない。

しかしここは間違いなく俺のベッドの上であり、着ていた服は下着を残し全てが無くなっている。勿論ホルスターも銃も見当たらない。

処置を途中で放り出してしまった左腿には、キツく包帯がぐるぐる巻きにされ、止血の為だったTシャツも除かれている。

左脇腹にも湿布が何個も貼られ、その端からは内出血によるものであろう痣がはみ出ている。


誰かが手当をしてくれたのだろう。そう、この俺の足元で突っ伏して寝ている娘が。

周りを見ると、部屋のゴミ箱には血に染まった包帯やタオルが山積みになっており、近くには水の入った洗面器も用意されている。


良く出来た娘じゃあないか!


またもやこのフィクションの中でありがちな状況で、どう声を掛けて起こして良いか悩んでいると、リカが自ら目を覚ます。


「……ふぇっ!?シカさん???えっ?えっ?やっぱり生きてたぁ……!良かったですぅ…………。」


泣きながら笑うという高等技術を見せながら、リカは俺の手を掴んだ。


「最初はホント死んじゃったんじゃないかと思って……。でもどうにかしなきゃ!どうしよう!どうしよう!って考えて、取りあえず手当しよう!って……。」

「そうか……すまなかったな。もしリカが居なかったら本当に死んでいたかもしれない。感謝している。ありがとう。」

「いえいえ!私の方こそ命を救って頂いたのに、ちゃんとお礼も言って無くて……ごめんなさい。」

「別に助けたくて助けた訳じゃない。成り行きでそうなっただけだ。気にしないでくれ。それより今何時だ?」

「今はぁ……多分夕方くらいです。私も寝てしまっていたのでw あ!あれから一夜明けてのです!」


それ程時間は経過していないが、調子も痛みも楽になっている。我ながらその回復力にいつも助けられて来た。

動く事は普通に出来そうだ。


「えと……あの……その……服ごめんなさい!手当するのに邪魔で切ってしまいました。でも裸は見てません!見てませんからね?///」


赤面しながら90°に頭を下げるリカ。


「それと……やはり私の力ではシカさんを担ぐ事は出来無かったので、カーペットも汚してしまいました。ごめんなさい。ベッドには何とか上げる事が出来たのですが……。」


確かに床には血の跡の一本道が出来ていた。

よく見るとリカの服も所々血の跡で黒くなってしまっている。


「いやそんな事は謝る事じゃあない。ありがとう。それより折角の新しい服が汚れてしまったな……。」

「あぁ!!!大変です!!シカさんに買って頂いた服が!!!」


どうやら気付いていなかった様だ。


「すまない。俺のせいだ。」

「とんでもないです!」

「また落ち着いたら買いに行こう。」

「えぇ??良いんですか???」

「あぁ。今日のお礼もあるしな。今度は違うモールに行ってみよう。寿司屋もある所に。」

「はい!!!よろしくお願いします。」


そんな日常を迎えられる日が再び来ることを願って……。


グゥゥゥゥゥ!


その時リカのお腹が鳴った。

食べ物の話をしたからだろうか。


「アハハハハ……お腹空きましたねw」

「食事はどうしてた?」

「それが……夢中で食べるの忘れてましたーw」

「丸1日何も食べてないのか!?バカ……無理するなよ。今すぐ何か作ろう!」


起き上がろうとする俺をリカが止める。


「そんな!大怪我してるんだから寝てて下さい!!私が作ります!!!シカさんの分も。」

「…………料理出来るのか?」

「それはぁ……出来るのか出来ないのかと言うとぉ……どちらかと言えばぁ…………。」


目が泳いでいる。出来ないんだな。


「やはり俺が作ろう。大丈夫だ。怪我には慣れている。それに俺も何か食って薬を飲まないと。」


感染症の恐ろしさは良く知っている。

抗生物質はまだあった筈だ。


ベッドから出ようとする俺からリカは目を背ける。

そう言えば女の子の前に出る様な格好では無かったな……。


「すまない。今服を着る。」


そう言ってこの部屋にある服を適当に見繕う。


「いえ……私がしてしまった事なので。でも慣れてるって……その身体の傷といい、今までも同じ様な怪我を……?」

「何だ。さっき見てないって言っていたのにしっかり見てるじゃあないか!」

「!!!!!!!」


そう言って茶化すと、リカは大きく両腕を振って慌てた。


俺には身体中に無数の傷がある。

切り傷、刺し傷、銃創から火傷の痕。その殆どはガキの頃に負った物だ。

そして左胸、心臓を守る様に彫ってある、太陽のシンボルを基調としたデザインのタトゥー。

とある部隊の一員である証なのだが、今はその効力は無い。


「シカさん酷いですよ!!!あ~恥ずかしいです……。」


そう言ってハニカム姿を見て俺は笑った。


食事は肉を中心に構成する。空っぽの胃には負担が大きいが、怪我や体力の回復にはやはり1番効く。

柔らかめに炊いた米に根野菜とチキンのサラダ、和風のオニオンスープに、生姜を効かせた甘辛のソースのグリルビーフ。

怪我をした際には俺も食欲が旺盛になる。しかしそれを振り切ってリカは更に食べる。

体重は俺の半分くらいであろうその華奢な体の、一体何処にそれ程入るのであろうか……。


食事後、片付けも終えたリカは風呂へと向かった。

俺はと言うと、テラスに出てケースに入っているハシシを見つめる。


育ての親が"聖なる薬"と呼び、口癖の様に言っていた。

『戦士は怪我をしても、次の日にはハシシを噛み締めて戦う!』と。

俺も昔は常用していた。痛みを和らげてくれる便利な物だと言う認識しか無かった。

事実を知った今では使用していない。モルヒネを打っている俺が言うのも何だが……。

ハシシは英語のアサシンの語源にもなっている。何とも皮肉なモンだ。


何を思ったか俺は携帯電話の電源を入れ直す。気持ちが高ぶっていたのかもしれない。

仕事で使っているSNSのアプリを開く。溜まっている未読の件数は凄い事になっていた。

そのトップに鎮座するのはマッテオ。やはり奴とはここで白黒ハッキリつけなければならない……。

こちらからコールすると、数秒ですぐに応答する。


「おぉシカリウス!まさかお前から掛けてくるとは!」


マッテオは何事も無かったかの様な調子で答えた。

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