表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/146

Episode 43

「クソッ…………。」


揺らめく視界の中、鍵を開けようとするが上手くいかない。

(しき)りに頭を振って歪む世界を追い払おうとするが、余計に目眩が酷くなる一方。

このままこの場で倒れてしまいたい衝動に駆られた瞬間に、ドアは向こう側から開かれた。


「シカさん!遅かったですね!うわ!!!大変!!!どうしたんですか!?」


リカが顔を出し、あまりの光景に口を抑える。


「いや……久々に友人と会ってね……。悪いがちょっと肩を貸してくれないか?」

「へ?友人って……?いやいや……さあ掴まって!大丈夫ですか?酷い怪我……。」


肩を借りながらリフトで上へ上がる。


「そんな事より……誰かも分からないのに……ドアを開けたら……危ないじゃあないか……。」

「大丈夫です!私分かるんですよ!と言うか!!こっちがそんな事よりですよ!病院に行った方が……。」

「いや……病院はちょっとマズイんだ……。ウチにも……ある程度の治療道具がある……それで何とかする……。」


リビングルームに入り、リカはソファーまで運ぼうとしてくれる。


「ここの床で良い。ソファーを汚しちまうし、堅い床のが治療し易い。」

「分かりました。下ろしますよ?ゆっくりー……ゆっくりー……。」


床に降ろされた俺は、左手で身体を支え、両足を伸ばす。

立っているよりも気分は大分楽だ。


「悪いが……俺の服があった部屋の棚に、治療用の道具箱がある……。それとその下の扉には金庫があって、その中に注射器とある薬品が入っている……。それを持って来てくれないか?」

「任せて下さい!!でも薬品は……私に分かりますか?」

「薬品は何種類か入ってるが、赤い縁のラベルが貼ってある液体のヤツだ……。すぐ分かる……。」

「分かりました!」

「すまない……。今鍵を渡そう。」


鍵を受取ると駆け足で奥の部屋へと消えて行った。

正直起きて待っていてくれたのは助かった。

しかし何故俺が帰ってきたのが分かったのだろう?部屋に居たら下の物音なんて殆ど聞こえない筈だが……。


「これですかー!?結構重いですね……!」


1分も掛からず戻って来た。


俺の脇に置かれた道具箱の中身をチェックする。

残念ながら消毒薬が切れていた。


「もう一つ頼まれてくれるか?キッチンの冷蔵庫にウォッカが入ってるんだが、それを取って来てくれ……。」

「お安い御用です!!」


渡されたウォッカを一口飲むとガーゼに少し含ませ、まずは右腕の消毒から始める。


「マンガみたいに、口から吹き掛けるのかと思いましたw」


そう言っていたリカも傷口を見るなり"うわっ"と短い叫び声を上げ、目を手で覆い隠すが、指の隙間から見ている。

お前が漫画みたいだ……。


腕の傷は浅いが、広範囲に表面が抉られている。これは圧迫しておくしか無い。

大判の絆創膏を貼り付け、包帯でしっかりと巻く。リカが手伝ってくれた。

問題は左脚。実はまだ弾が中に残ってしまっている。


止血の為に縛っているTシャツはそのままに、ハサミでパンツを切り、傷口を露わにする。

時間が経ってしまっている為、付近の血は固まり、ドス黒くなってしまっていた。

ここにもウォッカを掛け固まった血を拭う。時折激痛が身体を走るが、もう少し耐えなくてはならない。


「ガーゼでは全然足りないな……。タオルも持って来て貰えないか?」

「は……はい!」


ハッっとした様な顔になり再三走り出す。彼女にとって非現実的な光景は我を忘れてさせていたらしい。


古い血を拭うとまた新たな鮮血が滲み出てくる。リカは苦い顔をしながら、それでも何とか治療を手伝おうとしてくれた。

さぁ!ここからが本番だ!


先程持って来て貰った薬品と注射器を用意し、充填すると空気を抜き、左腿の傷口付近にぶっ刺した。

ここからは時間との勝負になる。

ナイフで入口を少し開くと、中に思い切ってピンセットを差し込む。

しかし痛みは先程より感じない。そう、打った薬品はモルヒネだった。

ピンセットで中を穿りながら、目的の物を探す。


その光景を見ているリカが、"ひゃっ!"と声を上げた後、"あぁ!痛い痛い"と呟きながら泣きそうな顔をしている。

痛いのは俺だ。

鈍くなっているとは言え、痛いものは痛い。しかも最近は耐性がついてきたのか、効果が弱くなってきている。

俺は奥歯が欠けそうなほど歯を噛み締めていた。


グリグリとピンセットを動かすと傷口からは血が溢れる。今日は一体どの位血を失っているのだろうか……。

やっとの思いでピンセットの先に硬い物を感じ取った俺は、それを掴み思い切り引き抜く。

出てきたのは黒く変形した金属の小さな塊。無事に取れた様だ。


そこで俺は限界を迎えた。ピンセットを落とし、そのまま横に倒れる。

モルヒネには眠気を催す副作用があり、俺は打った直後に必ず寝てしまう体質なのだ。


「悪い……もうダメみたいだ…………。」

「そんな!!シカさん!?大丈夫ですか!!?シカさ…………。」


リカの呼び掛ける声は途中で途切れ、俺の意識は遠く彼方に飛んで行く。

世界は暗転した……。



―*―*―*―*―*―*―*―*―



「今回は酷い怪我だったね。」

そうだな。

「いつ以来かな?こんな大怪我したの。」

もう覚えて無いな。

「今回はちゃんと起き上がれるかな?」

大丈夫だろ。

「もう若くないんだから無理しないでね?」

年寄り扱いするなよ。

「でも実際かなりの"年の差"出来ちゃったよね。」

お前がチートなんだ。

「大事にしなよ?」

何がだ?

「あの娘だよ!」

…………。

「今回は取り(こぼ)さない様にね?」

分かってる。

「それならもう起きてあげないと心配してるよ?」

お節介なヤツだな。

「ぼくは昔からそうだったでしょ?」

あぁそうだったな。

「じゃまたね!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ