表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/146

Episode 41

分かってた……。分かってたさ……。リカだってきっと分かってた。

こんな仮初の時間は長く続かない事を。

今後待ち受けるであろう苦難。それをあまり考えない様にと、知らない者同士必死に互いの役割を演じていた。

でももう少しくらい夢見させてくれても良かったじゃあないか…………。


グギャギャギャギャギャギャ!!!!!!


バイクが潰され、引き摺られる音は、俺を速やかに現実に引き戻す。


あ~あ……買ったばかりなのに勿体無い。


見るからに廃車は免れないその姿に、バイク乗りとして少し心が痛む。

俺にそんな考えに余裕があるのも、実は間一髪でバイクから飛び退いていた。

着地と同時に転がり、物陰へと滑り込む。


分かってるさ!俺はどう転んだって"こっち"側の人間なんだ!


俺の愛機を歩道の片隅に吹っ飛ばし、再起不能にした車はそのまま停止し、中からは4名の男達が降りてくる。

車種といい明らかに春鳥の人間だ。それにその中の1人には見覚えがある。

恐らくは俺のバイクはバレていた。待ち伏せされたんだろう。

そうなると拾った所からつけられていた事になる。そしてこの人気の無い場所まで誘導された。考えてみれば、謎の通行止めにより何回か迂回せざるを得なかった。

変な事に(うつつ)を抜かして、全く気付けなかった自分に呆れる。


「ようシカリウス!聞いてンだろ?やっぱり裏切ったな!だからオレは最初からお前は怪しいと思ってたンだ。」


物陰から答える。


「誰だお前?一々モブキャラなんて覚えて無いもんでね!」


挑発するが分かってる。コイツはカルロスだ。


「チッ!!完全にナメてやがンな!よしお前等!Do(やっち) it(まえ)!」


カルロスはそう言い放つと、3人を散開させる。

互いに既に銃は引き抜かれてしまっている。


マジかよ……こんな一般道で銃撃戦やる気か?狂っていやがる。


「"なるべく"殺すなよ?ドンからは生け捕りだと言われてる。」


そう言ってニヤけるその顔は、まるでその約束を守る気が無い様だ。


3人は互いにカバーし合える間隔を保ちつつ、死角を殺す様に接近してくる。

試しに影から足元にあった木の枝を出してみると、目の前の建物の一部が何かの飛来物により抉られた。

躊躇(ためら)いも無く撃って来た。流石にサプレッサーが付いている様だが……。兎も角こっちの位置はバレている。

狙いも正確。完全にプロだ。それも元ハンターか軍人か……。色んな人材が居るんだな。


感心しつつも打開策を考える。このままでは完全に王手を取られてしまう。俺も気にしてる余裕は無い。

適度に撃ち返しながら何とか後退する。広い場所ではこちらが不利だ。しかし換えのマガジンは1個だけ。節約する必要もある。

時折弾丸は頬を掠め、通った後に赤い一本筋を残す。ギリギリの攻防だった。


「ハンティングは楽しいなぁシカリウス?」


1番後方にいるカルロスが叫ぶ。

今は亡き左手の小指は自業自得の結果だ。なのに俺は何故かコイツに恨まれている。


ある程度道幅が狭くなっている所まで後退すると、俺は勝負に出る。残弾も心許無い。これ以上は引き延ばせない。

物陰から一気に飛び出すと、駆け抜けながら、初めから目標を付けていた相手に発砲する。その弾丸は迷うこと無く一直線にその相手を捉え、ダウンさせた。


しかし次の瞬間には、俺の左腿にも激しい衝撃と痛みが走る。抗う事の出来ない大きな衝撃に足は(もつ)れ、その場に倒れ込んだ。

やはり奴等のフォーメーションは完璧だった。1人がやられても残りの2人が確実に獲物を仕留める。

何処か戦場に居たのだろうか。それも仲間の犠牲の上で生き残るようなシビアな戦場に。味方がやられても動じず、自分の仕事を(こな)すその徹底ぶりは、よく訓練されていた。


透かさず男達が駆け寄り、うつ伏せになったままの俺を上から踏みつける。


「大人しくしろ!そうすればこの場では殺さない。」


いつも言っている側だったのが逆転していた。


「お前をドンの所に連れて行く。」


身体を捻り、落とした銃を拾おうと試みた俺はより一層の力で踏みつけられる。


「うぐぅ…………。」

That's(いい加減に) it(しろ)! Wrap(もう) it(終わ) up(りだ)!!!」


アメリカ訛りの英語が聞こえる。


「OK! OK! Easy(カッカ) does(すん) it(なよ)! アンタ等はアメリカ人か?」

「……あぁそうだ。」

「軍人か?」

「"元"な。」

「そうかいそうかい……。」


その瞬間俺は左手に隠し持っていたある筒を地面へ叩きつけた。

衝撃で激しく燃焼し始めたそれは、強烈な閃光と火花を生み出す。

特製に手作りしたその花火は約100万カンデラの光を放ち、この夜の暗さの中では絶大な効果を発揮した。


間近で喰らった男は失明状態に陥りながらも、闇雲に俺の倒れていた位置に発砲するが、俺は発光と同時に転がながら銃を拾い上げ、違う位置に移動していた。

隣に居た男も直撃を喰らい、恐らくは同じ状態。カルロスは少し後方に居たが、あまりの閃光に身を縮めて(うずくま)っている。

うつ伏せでいた俺だけが、今この場で視界がハッキリしている。


Do() you() like() the(好き) fireworks()?」


目の前の男に皮肉をぶつけた。

その声に位置を察したのか、俺の方へと正確に銃を向け直す。が、一瞬早く俺の放った弾丸が男の額から後頭部を貫いていた。

頭からゼリー状の物体と、血を吹き出しながら紙人形の様に崩れ落ちる。


I() haven't(はアンタに) got(個人) a() personal(な恨み) grudge(は無) to() you(), however(米軍が) hate(大っ) U.S.(嫌い) army(なんだ).」


そう言い放つと脚の痛みに耐えながら、俺はその場から逃げ出す。

ジイさんから買った弾は残り1発しか無かった。もう相手をしている余力が無い。


ジイさんの言った事を真に受けて、M9の試し撃ちなんてするんじゃあ無かった……。


勿論今までにも撃たれた事はあったが、太腿は初めてだ。こんなにも動き難いなんて……。

出血量もかなりある。止血もしなくては。


ある程度走った所で一旦座り込み、中に来ていたTシャツを適度に破り、左脚股関節のすぐ真下をキツく縛る。


こんなのも漫画でお約束のシーンだったな。


呑気にもそんな事を考えているが、縛り終えるとすぐに走り出す。

直撃を喰らってないカルロスは、恐らく1分も経たず回復するだろう。

そして道を封鎖してた事から、他の仲間もきっと近くに居る。


なるべく西へ西へと移動しながら逃走手段を考える。どこかでタクシーでも捕まえるか、電車も考えたが、この左脚から血を流している状態では騒ぎを起こし兼ねない。

人混みに紛れようかとも思ったが、時間が時間だけに人気は(まば)らだ。

車かバイクが手に入れば手っ取り早いんだが……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ