表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/146

Episode 3

しばらくの沈黙が続いている。時間にしたら10分も経っていないと思われるが、この男には永遠とも思える時間に感じたかもしれない。


【春鳥真帝王】


今裏社会に生きていて、その名を知らない者はいないだろう……。

彼のイタリア系という出生や、その人脈を活かしイタリアを始めとするEU諸国から、南北アメリカ大陸の国々。アジアでは中国や東南アジア各国ルートを独自に開拓、新興ながら闇取引でのし上がる。

国内外のヤクザ、マフィアを吸収合併、または協定を結び、グローバルマフィアとして今一番勢いのある組織を作り上げた。

彼が行うのは徹底的な身内主義と恐怖政治。味方に付けばファミリーとして保護し、対立組織は壊滅するまで追い込む。

犯罪者と成り果て、行き場のない移民をまとめ上げ、兵力を増やしていったが、ゴロツキの様な移民の統率を取れているのも、反逆行為を許さず、裏切り者は一族郎党皆殺しにしたらしい。

そうやって敵対するもの、なりそうなものを一切排除してきた。現在日本国内のヤクザも、彼に付くか対立するかで揉めている。


沈黙に気まずさを感じながら、さらに四半刻経過し、ようやくマッテオの乗った車がこの静かな倉庫街に現れる。

護衛のためか前後に一台ずつ、計3台でのご登場だ。3台とも見事に黒塗りのマセラティ。


「なんでこうもこの業界の人間は黒光りが好きかねぇ……。」

さっきから黒ずくめだの黒光りだの言っているが、自分のコートの色を思い出して押し黙る。

……………………。


この決まりの悪さのやり場を探すように、到着した車を睨みつける。4人ほどの部下達が先に降り、彼らのボスのドアを開ける。

降りてきたマッテオは黒ずくめ……ではなく、落ち着いた灰色でラインのあるスーツに、ボルサリーノの帽子。いかにもなイタリア人の様相だが、流石お洒落である。

身長は180cmはあるだろう。歳を取ってきてはいるが、未だ現役を伺わせるガッチリとした体躯。いざとなれば、自ら先陣を切れる気迫が感じられる。

こちらを見た彼は、愛嬌のある笑顔を見せつつ手を振る。


Buona() sera()!」


もうどちらかというと朝だ!そんなまたどーでも良いツッコミを考えつつ左手を挙げて挨拶に答える。


Bravo(ブラボー)!こんなに早く捕まえるとは思ってなかったぞ!」

「そりゃあどうも。時間は掛けない主義なんでね!」

「流石は"シカリウス"だな!うちに来ないか???」

「怖い質問だ。断ったら殺されそうだ。保留って事にしておいてくれ。」

「ハッハッハ!ずる賢いヤツだな!嫌いじゃないぜ!」


一見すると気の良いイタリア人だ。しかしその言動や振る舞いに真意が見えない。そこにこの男の恐ろしさがある。

現にこうして親しげに話しつつも、決して俺の近くまでは来ようとはしない。


「そんで言われた通りコイツは生かしてある。どーするんだ?このまま連れて行くのか?」

「そうそう悪かったな!いきなりガッティーナが、拷問するとこ見たいなんて言うもんだから。」


さらっと恐ろしい事を笑顔で言う。そしてその子猫ちゃんとやらは、車から降りてくる気配すら見せない。トンデモナイ奴らだ。

マッテオの視線は俺の顔から、俺の足元にいる、先程から微動だにしていない男へと向けられる。


「おいエドアルド。」


恐ろしく静かな声に変わる。同時に周りがかつてないほど緊張する空気を感じる。

呼びかけられた男は、一瞬体をビクッとさせるが、マッテオから目を背けたままでいた。さっきまで威勢の良かった男は、借りてきた猫のように静かだ。

それも仕方ない。マッテオの恐ろしさはこの男が一番理解しているハズだ。


「十年来の付き合いのファミリーを裏切るなんて酷いじゃないか。」


エドアルドと呼ばれた男はようやく顔を上げる。


「ドン……。裏切るつもりなんてなかったが、あの話……あの話だけは進めるワケにはいかなかったんだ。」

「折角のシノギを台無しにしやがって。しかも協定の話まで無くなりかけたんだ、ファミリーに大損害を与えた事は、立派な反逆行為だ。ファミリーの掟では反逆は許されない。」

「もう許して貰おうとは思ってない。ただ最後の情けに、この男に介錯をお願いできないだろうか…………?」

「……ダメだ。これからオレの別荘に行って楽しいお遊戯だ。ほら、お前も何回か来た事あるだろう??いつだったか……オレを狙った殺し屋捕まえて、一緒に遊んだ時は、あいつは2週間は持ったよな?お前はどの位タフかなぁ???」


顔がニヤニヤしてやがる。元仲間をいたぶる想像はそんなに楽しいのか?やっぱクレイジーなヤツだ。

一方のエドアルドは絶句し、冷や汗をかいている。さすがにもうお手上げか?絶望したか?まぁこんな変態を相手にしたんじゃ仕方がない。


「シカリウス。悪いがそのままそいつを、こっちの車に押し込んでくれ。」

「…………了解。」


右手の銃を脇のホルスターへとしまい、立つ気配を見せない男の側にしゃがみ込む。


「ほら立ってくれ!俺はもう帰って寝たいんだ。」


脇を掴み、持ち上げるように立ち上がらせる。

すると耳元でエドアルドは微かに聞こえるように囁く。


「……ここが恐らく最後のチャンスだ。頼む…………。」


…………まだ諦めてないのか……。呆れたやつだ。

俺にどうしろと?なぜよく知りもしない男を助ける必要がある?


「悪いがこのまま引きずって連れて行くぞ?」


俺がこの男にしてあげられる事は何もない。

力を入れようとしない男を引きずるように、車の方へと歩き出す。

俺が態々(わざわざ)危険を冒す義理もない。

マッテオの顔を確認するが、無表情でこちらを見ている。


『――今回も助けてあげたいと思ってる!違う?』

まったくうるせぇヤツだ…………。


もう時間はない。

車まであと十数秒、歩みは止めず進み続ける。


ふいにマッテオが口を開く。


「そう言えばエド……。」


わだかまりが解けた友人同士のように優しく語り掛けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ