表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/146

Episode 34

どの位の時間そうしていただろう。途中眠りに落ちていた気もするけど、思考回路が完全に停止していた私は、時間感覚も意識も曖昧になっていた。

突然痛みは消え、気分も良くなった。恐らくは身体が薬の毒素を、完全に分解したんじゃないかと思う。


カーテンから漏れる光は赤みがかっている。もうすぐ夜だ。私はいつまで生かされるだろうか……。

部屋の外の様子に特に変化はない。


お腹すいたなぁ……。


昨日のランチは吐いてしまったので、丸一日以上何も食べていない事になる。

殺される前だというのに、そんな事を考えていた。


やがて外の様子が慌ただしくなる。複数の足音が行ったり来たりしている。

ついに処刑されてしまう時が来たのかと、ドキドキしながら聞き耳を立てる。

話し声は聞こえるけど、何を言ってるかまでは聞き取れない。


でもきっと次このドアが開けられる時が私の最後なのだろう。

覚悟と後悔を繰り返しながら、必死にドアが開かないことを願う。


しばらくすると、私の願いが叶ったのか、静けさを取り戻す。

再び聞き耳を立てると、やっぱり見張りは居るらしく、今度はゲームをしている音が聞こえる。

それはポータブルゲーム機で発売された、今流行りの協力型ハンティングゲーム。私もやっている。ここ最近は全くだけど……。


気を紛らわす様にそのBGMをに聴いている。無音状態よりかは幾分マシな気分になった。

やがてそのBGMは超大型ボスと遭遇した時のモノへと変わる。

粘って居たようだけど、聞こえて来たのはクエスト失敗の悲しいサウンドと、何か悔しさを吐き捨てた様な短い叫び声。

超大型ボスは単独で倒せる様なモノでは無いのだ。


「あぁ残念!」


しかし何となく応援していた私は、思わずポロッと声に出してしまう。

慌てて口元を押さえても、出て行った言葉は戻らない。


「何だお前聞いてたのか?知ってんのかこのゲーム?」


ドア越しに見張りの男が話し掛けてきた。

声色からすると、私を毛嫌いしている人では無い。

幸いにも好意的な返答だった。


「だってそれ流行ってるし……。私の周りも皆やってるよ!もちろん私も!」

「本当か!?今は…………持ってるわけ無いよな。」

「まぁ持ってたとしても縛られてたら出来ないけどね。」

「そうだよな……。いやぁ留守番で見張りなんて暇でよぉ。」

「他の2人はどこかへ行ったの?」

「まぁそうだが……。変な気は起こすなよ?逃げようとしたら殺して良い事になってるからな?」

「安心してよ。今はもうそんな体力無いから……。」


確かに連日の疲れと、怒涛の展開。食事も摂っていない事で、疲弊感は半端無かった。


「ねぇ?暇なら少し話をしない?」

「…………何だ?」


思い切って聞いてみると、返事はぶっきらぼうだけど拒絶はされなかった。これはチャンス!


「私はシカリウスを捜しているの。あなた達もでしょう?」

「そうだな。」

「何で捜しているの?」

「そんな事聞いてどうする?何でそんな情報を欲しがるんだ?」

「タダの好奇心よ。待つだけじゃ私も暇だしね。冥土の土産ってやつ?それに私を取り逃がすほどあなたが無能だとは思えないわ。」

「それもそうだな!オレも1人でゲームしてるより女と話してる方が何倍も良いもんな。ただしドアは閉めたままだ。」

「もちろん!」


単純なヤツで良かった。


「オレ達がシカリウスを捜しているのは、奴に多額の懸賞金が掛けられているからだ。まぁオレ達は賞金稼ぎってヤツだ。」

「私はてっきり春鳥興業の手下かと思っていたけど……。」

「お前色々知ってんだな。それは厳密に言えば違うが、日本では基本的に彼等の仕事を請け負っている。今回も話を持ち込んで来たのは向こうからだ。」

「各地でも過激な事をしてるって言うのはあなた達なの?」

「オレ達もやってはいるが、それだけじゃない。この件には多くの組織が関わってる。他の賞金稼ぎや殺し屋も参戦してきてるんだ。もうメチャクチャで状況は誰にも分からん。」

「そんな事になってしまうなんて、春鳥興業も困っているでしょうね。」


無法者達の参戦で収集がつかなくなってきている。

そんな印象を受ける。


「いや逆にこんな状況を作り出したのはドン・バルトリだ。」


ん?どういう事だろう?


「これは秘密だぞ?バレたらオレが殺される。」

「大丈夫よ。どの道私はもうすぐ殺されるし、バラす相手が居ないわ。」

「OK、実はオレ達と一緒で、奴等の参戦をドンドン促しているのはドン・バルトリ本人らしい。そして一貫して言われているのは"好き勝手にやっていい"と……。そりゃ現場は混沌とするわな。」

「なぜそんな事を……?」

「さあな。ドン・バルトリの考えてることは誰も分からないさ。まぁあの人の事だ、オレ達がトラブル起こしても、トカゲの尻尾の様に切り捨てるだろうな。」


結局何をしたいのかは分からなかった。


「次はオレの番だ。お前は何でシカリウスを追ってる?」

「私は堀井梨香の友達なの。リカを捜している内に彼の事を知って、事情を知るはずの彼に会わなくちゃいけないと思って。」

「堀井梨香か……。しかし一般人がシカリウスの名前に辿り着くとは。誰か協力者でも居るのか?」

「色々嗅ぎ回って、様々な人達に会ったのよ。春鳥興業や鏑木会の関係者、国際通りの情報屋とかね。」

「お前かなりアクティブな奴だな。随分と危険な橋も渡ってたみたいだし。だからオレ達に捕まって……ご愁傷様だな。まぁそんな事してたらオレ達じゃなくても、いつか誰かに殺されてたんじゃないか?」

「知らないわよ!タダ私はリカを見付けたいだけなのに……。」

「…………残念だが……堀井梨香はもう死んでるぞ。」

「え……?」


突然の予期していない言葉に、心構えの無かった私は愕然とする。


「堀井梨香はドン・バルトリが、シカリウスを使って殺した。」


気が遠くなりそうだった。今まで散々示唆されて来たけど、ここまでハッキリ言われるとダメージが大きい。


「そんな……。ちょっと待って!何で彼がリカを殺す理由があるの!?それにシカリウスが春鳥興業の関係者なら、追われている理由は何なの?リカを殺してないから追われてるんじゃないの?」


必死にリカが生きている理由を探す。


「それはないと思うぜ?現場を掃除した奴等が死体も見ている。」


それは見事に打ち砕かれる。


「でもマフィアのボスがリカを殺す理由なんて無いじゃない!」

「それに関してはオレ達末端には分からない。しかしドン・バルトリは人身売買に手を出している。臓器売買にもだ。たまに自分トコの部下や、持ち会社の人間まで売り捌いていると聞いた。そこで堀井梨香は何か特殊な人に適合する臓器を持っていて、それを欲しがったんじゃないかと。でもシカリウスは金に目が眩んだのか、それを横領した。そういう噂になっている。実際シカリウスは死体をドン・バルトリの所まで運ぶハズが、現れなかったらしい。だから追われている。」


話の筋は通っている。今まで聞いた中で1番明快な理由。しかし1番最悪な理由。

それでも気丈に振る舞い質問を続ける。


「リカが死んでいるなら私は何の為にここに居るの……?あなた達が人質にする理由も無いじゃない!いっその事何も知らないまま殺された方がマシだった…………。」

「悪いがお前には利用価値がありそうだったから生かしてある。シカリウスは裏切り後、なぜか堀井梨香の関係者数名と接触したとの情報があるんだ。そこでオレ達のリーダーが、シカリウスを誘き寄せるためのエサに使ってみようと言い出した。まぁ本当に接触してくるか分からんが……。」


その時に私の中の全てが崩れ去った。

私が全て投げ出して追い求めていたのは、こんな結果では無かったハズ……。

しかし眼で確かめるまで信じないと思ってはいても、全てに合点がいくこの答えの前ではその思いは無力だ。

友人の死と自分自身の死。その2つに押し潰される。


「おい!どうかしたか?」

「…………。」


ついには返答する気力も失せ、仕舞いには失望のあまりすすり泣き始める。

声に出して泣いているのは、いつぶりだろうか……。


「何だそんなにショックだったか?まぁオレもちょっと喋りすぎたな。」


男はそう言ってゲームを起動し、再び没頭し始める。

私はその場にへたり込んだまま、膝を抱えて只々泣く事しか出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ