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Episode 30

「今晩は。1週間ぶり?ですかね?」


もう慣れたもんで、自ら助手席に乗り込む。

車を走らせてしばらくは無言だった。

六本木から離れ、渋滞も緩和してきた頃に雪村さんが話始める。


「1週間如何でしたか?何か有力な情報は得られましたか?」

「ボラカイには無事に辿り着きました。でも……リカに直接繋がるような事は何も……。」

「それは残念ですね……。春鳥については何か有りましたか?」


そうだ。雪村さん達は春鳥興業の動向を知りたがっているのだった。


「彼等も今シカリウスを捜しているそうです。」

「はいそれは承知しています。鏑木会もそれに協力していますので。」

「そうでした……。後は彼に関係のあるかもしれない人達を殺し回ってるとか……。知り合った情報屋に今日聞いた話です。」

「…………。」


急に怖い顔して黙り込んだ。

物腰の柔らかい丁寧な人に思っていたのに、その表情は私に彼も極道なんだと思い出させた。


「あ……あの……もしかするとガセネタを掴まされたかもです。」

「いえ申し訳ありません。ちょっと考え事をしていたものですから。その件に関しましても、不確かではありますが、情報が入って来ています。」

「やっぱり私が見付けられる情報なんて、とっくにご存知なんですよね……。」

「そうでもありません。その不穏な動きがあるのは知ってはいたのですが、実行しているのが春鳥の連中だとは知りませんでした。」

「でも私も証拠を持っているワケでは無いので……。」

「いえ充分です。証拠はこちらで見付ければ良い話です。情報ありがとうございました。報酬を預かっております。お受け取り下さい。」


また封筒を差し出される。さすがに今回は前回ほど厚くはないけど、私にとっては持て余すほど入っていそう……。


「まだ前回の分も使い切っていないので受け取れないです。」

「これは亜美さんが、私共が依頼した仕事をした事に対する報酬です。受取る権利があります。」


何かすごく悪い気がする。でもそう言っているのだから素直に貰っておきましょう。


「ではありがたく頂きます!神崎さんにもありがとうございますとお伝え下さい。」

「承知しました。それと、伝言の件ですが……。実は先程の話に関連しています。亜美さんには活動をしばらく自粛して欲しいと……。」


ミディアさんと同じ事を言われた。


「何でですか?今日違う方からも言われたんです。でも理由までは教えてくれなくて……。」

「現在あの場所で、シカリウスについて探っているのは非常に危険なのです。」


一定の間隔で街灯に照らされる雪村さんの顔は何時になく無表情で、そこから感情を読み取ることは何も出来ない。


「昨日六本木にてシカリウスの目撃情報がありました。彼の顔を知る者は極一部なので、真偽は定かではありませんが、各組織確実に動くでしょう。」


彼が昨日同じ場所に居た?

擦れ違った人の顔を必死に思い出す。その中に居たかもしれない。


「以前より、シカリウスとボラカイは繋がってると言う話でした。」

「という事は、ミディアさんと彼は知り合いだったのでしょうか?」


ふとミディアさんの言葉を思い出す。彼女はシカリウスの情報は"売れない"と言っていた。

当時は緊張のせいか、あまり気にしていなかったけど……。


「ボラカイのミディアとシカリウスは同じ"街"に居た者同士です。彼等の関係性を疑っている者は多いです。なので皆の目標は国際通りへと向かう筈です。」

「ではミディアさんはどうにかなってしまうのでしょうか?」


今日会えなかった理由が分かってきた。


「実はボラカイと彼等が守るあの一帯は、私共では到底手出し出来ない様な大きな力に守られています。しかし今回春鳥は何を仕出かすか分かりません。それに過激な事をしている連中。彼等が春鳥であろうとなかろうと、近々必ずあの場所に現れると思われます。」


という事は、あの通りが荒らされるかもしれない……。殺される人も出てしまうのかもしれない……。

ミディアさんもその情報をいち早くキャッチして、現在対応に追われているのだろう。


「ですので、亜美さんが今後もあの場所で活動するのは危険です。特にシカリウスの情報なんて集めていたら、勘違いされて殺されてしまう可能性もあります。(しばら)くあの場所は荒れるでしょう。」


今までは運が良かったのか、危ない目には1度も遭っていない。

でもこれからは遭う可能性が格段に上がるって事ね……。


「もし亜美さんの身に何かあっても、私共は助ける事は出来ません。どうか自粛をお願いします。」

「いえ……私は止めるつもりはありません。危険な事は元より承知です。それは神崎さんにも言ってあります。今止めてしまったら、何のタメに色々投げ出したか分からなくなってしまうので……。」

「どうしても止める気はありませんか?」

「全くありません。それに私は逆にチャンスでもあると思います。この行き詰った状態から、一気に彼に近付けるかもしれない状況ですから。」

「覚悟は堅い様ですね。では私共はもう何も言いません。幸運を祈っております。」

「ありがとうございます。また何か掴んだら報告させて下さい。」

「是非お願いします。」


車はタイミング良く私の住むアパート近くに到着した。

雪村さんはわざわざ車を降りて別れの挨拶をしてくれる。


「それではお気を付けて……。」

「はい。雪村さんも!」


雪村さんと別れ、自宅へ向かう。


相変わらずの機械的な歓迎の言葉を無視し、取りあえずテレビとレコーダーの電源を入れた。

こんなに早く帰ってきたのは久しぶりで、溜まっている未視聴のアニメの消化を思い立ったのだ。

取りあえず先に日課になっているニュースチェックをしてみても、今日は特別な物は無かった。


夏期のアニメは第1週目を終え、続々と初回放送が行われている。

私の今期出演作の収録は済んでおり、滞りなく放送される予定。

来期からは今の所ニートになってしまうけど……。


あの娘はと言うと……。

一部のアニメやゲームのCVは変更され、新しいキャストがついてしまっている。

出演予定だったイベントも全てキャンセルされ、パーソナリティを務めるラジオも休止になった。


私と共にやっているラジオも、失踪後の収録で戻って来るまで休止する旨を録り、それも最近放送された。

イベントでもリカはいつもあのキャラクター性で、その場を攫っていくのが常だった。それを見れないのも残念に思う。


1通り主だった作品を観終えた頃に、お風呂を沸かし始める。

こんな時だからか、話の内容はほとんど入って来なかった。

自身の出演作品でさえ、どこか上の空で見てしまっていた。


全て解決した時にもう1回ちゃんと観るとしよう。出来ればリカと一緒に……。

大丈夫。すぐにその時は来る。

その時はなぜだか妙な自信が心にあった……。

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