Episode 28
「驚いたネ。アナタからその名前が出て来るなんて……。」
「私の友達の失踪に関わってるんです。出来れば居場所を知りたいと思ってます。私の集めた情報からすると、友達はその人と一緒に居る可能性が高いからです。」
すると女性は急に俯き、腕を組んでアゴをさすり、考えているようなポーズをする。
「……やっぱりネ…………。でも…………。」
何やら一人言を呟いている。
「あの……いくらで教えてくれますか?」
「あぁごめんネ!でも残念だけど、彼の情報は売れないんだヨ。」
「そんなに謎の人物なんですか?」
「まぁ正直言うとネ。誰も彼の居場所なんて知らないんだヨ。」
その言葉に落胆する。
ここで分からなければ、もうダメなんじゃないか……。
思い切って根本の質問をしてみる。
「では堀井梨香と言う名前には心当たりがありますか?」
「あぁ知ってるヨ。声優で歌手。でアナタの捜してる娘。」
さらりと言い切る事に驚く。
「そうです。本来私が知りたいのはその娘の居場所です。何か情報はありますか?」
「残念だけど、その娘についても情報は入ってないネ……。」
「そうですか……。」
リカに繋がる1つの大きな道が途切れてしまった。
「まぁ暫くしたらまた来ると良いネ。情報は日々入って来るし、アナタとならまた会ってあげるヨ。」
「ホントですか?ありがとうございます!」
いや……辛うじてまだ道は繋がっていた。
「次は正面じゃなくて、反対側からの入口から入ってネ。今入る方法を教えるから……。」
この店の裏側はあの危ない路地。確かにそこにもドアが付いていた気がする。
「そこって危ないって言われてる場所じゃ……?大丈夫なんですか?」
「確かに危ないヨ。でも昼間みたいに中に入ろうとしなければ大丈夫。」
その言葉に再び寒気が走る。
この女性はやっぱり全部知っている。私が何をしてたかを。
「アナタはもっと自分の立場を自覚した方がいいヨ。メディアに顔出しもしてるんだからネ。名屋亜美ちゃん。」
最初っから全てお見通しってヤツですか……。
まぁそのおかげで彼女とこうして会えたのかもしれない。
「もしもだけど、堀井梨香の居場所について、アナタの方が先に辿り着いたら、その時もウチに来てヨ。その情報は買わせて貰うヨ。」
情報屋に逆に情報を売るなんて、出来たらカッコイイな。
「まだ名乗ってなかったネ。ワタシはミディア。ここらでは皆知っているから。」
「ミディアさん……。ありがとうございます!」
「それじゃ今日はこのまま大人しく帰ると良いネ。あまり夜にウロチョロし過ぎると、他の組織に目を付けられるヨ。」
「はい……。分かりました。」
そう警告したミディアさんはどこかへと電話を掛ける。しばらくすると黒服がやって来た。
ミディアさんに別れを告げ、その黒服にまた出口まで案内して貰う。
来た道とは違う方向。途中何人かガラの悪そうな人達が屯している場所を通った。私はなるべく目を合わせないようにしていた。
出口を抜けると隣には昼間見たバリケード。奥には例の路地。昼間とは比べ物にならないくらい不気味な雰囲気。
「次回姐さんに会う時は、こちらの入口をお使い下さい。」
黒服に告げられた。ミディアさんが言っていた反対側とはここの事だ。
彼に会釈をして家路につく。ウロチョロするなと言われたけど、どーせこの後のアテは無い。
あちらこちらから、私の知らない言葉が飛び交う通りを再び歩く。中には喧嘩している者達も居た。
でもそんな事はお構いなしに私はボケーっとフラフラ歩く。お店を出た後、ドッと疲れが出てしまった。
この先の不安もあるのだろう。何せ有力な手掛かりはゼロになってしまったのだから。
今日は歩き回っていたので、足が棒の様になっている。
いつもよりゆっくりとお風呂に入ってマッサージもしよう。
そんな事を考えながら帰路の電車に揺られていた。
いつもの無機質な挨拶に軽く応え、お風呂を溜めて、軽い食事を摂る。いつもの流れだ。
普段から長風呂が多いけど、さらに長かったお風呂から出て、ニュースを見る。
無駄だと分かりつつもやっぱり見てしまう。
今日は郊外の民家で、先ほど大きなガス爆発があったとニュースが流れるだけで、リカに関するものは無し。
当たり前っちゃ当たり前だ。報道機関よりよっぽど情報が集まるミディアさんでさえ知らないのだから。
テレビを消すと急激な眠気に襲われる。今日は疲れている上に、既に時間も深夜。
余計な不安も考えないようにさっさとベッドに向かう。
そこに倒れ込むと私は一瞬にして眠りに落ちた。
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亜美が去った直後のミディアのオフィス。1人で書類作業をする彼女の元に1人の黒服が入って来る。
「姐さん。またバルトリから連絡が来ました。『彼の居場所を教えろ。匿ってるのは知っている』と……。」
「うるさい連中だネ!カネも出さないクセに。それにこっちだって知りたいくらいだヨ……。」
「返答はどうします?奴ら襲撃すらしてきそうな勢いですが。」
「そうだネ……。こう言ってやんな!"知らない物は知らない。自分らで捜しな!このFinocchio!"ってネ。」
「大丈夫ですか?喧嘩を売るような事して。」
「流石にこの店に手を出す様なバカじゃないと思うヨ。今は……ネ…………。」
「分かりました。それと……さっきの娘ですが、鏑木会と繋がりがあると言う話で……。」
「知ってるヨ。でもそれは大丈夫。アイツラも一応筋を通しているからネ。」
「姐さんが分かっているならそれで良いのですが……。ではバルトリに返答を打ってきます。」
「ありがとうネ!」
黒服は退室し、再び1人になるミディア。
「本当に堀井梨香と居るの?それとも…………。」
作業を止めて立ち上がる。
「オマエ今回は何したんだヨ……。ユージーン…………。」
彼女もまた、一向に返信の無いスマートフォンを眺めて呟いた。