Episode 24
「大森君はスペタコロレコードの社員。堀井君は芸協からスペタコロに"預けて"あった。スペタコロのバックは私達とは違う組織だ。そして堀井君を預けてほんの数ヶ月で失踪。それには恐らく大森君が関わっている。」
さすがに私が精一杯調べられる事なんて、この人達には何でも無い情報なんだ……。
この人達が見付けられないなら私なんて……。
少し落ち込む。
「確かに何かの陰謀も疑える。だがしかし、私達の組織とこのスペタコロの組織は、提携の話が進行中だ。」
あれっ……?
「今波風を立てる訳にはいかん。私達の身内が表立って嗅ぎ回っているような事は避けたい。」
もしかして……。
「後は分かってくれるか?」
嫌だ……。
「まぁ元々君が見付けられる情報なんて……。」
「…………嫌です。」
「え?何だって?」
「ですから嫌です!私はリカを捜します!どこの誰に影響を与えるなんて私は知らないです!あの娘が無事に返ってきてくれるなら……。」
神崎さんの口調は急に変わる。
「嬢ちゃん。言うておくが、真っ先に危ない目に遭うのは恐らく嬢ちゃんだ。分かっとるんか!?」
「私が危ない目に遭って、それであの娘が返ってくるならいくらでも遭いましょう!」
「もし嬢ちゃんがこの先も続けるぅ言うなら、ワシらも黙っとる訳にもいかん。取りあえず業界からは去って貰う事になるがえぇか?」
「そんな……神崎さん……落ち着いて。」
社長が横槍を入れる。
「お前は黙っとれ!!!ワシは嬢ちゃんに聞いとるんじゃ!」
その迫力にシュンとなる社長。
私もさっきから握りしめた手がプルプルと震えている。
でも私の想いは変わっていない!
「構いません。仕事よりも大事なモノがあります。それを途中で投げ出して、この先良い仕事が出来ると思えません。でしたらいっそ今ここで、踏ん切りを付けたいと思います。クビにでも何でもお好きにどうぞ!」
言ってしまってから事の重大さに我に返る。
あぁこれで私の声優人生も終わりを迎えるのか……。
「ダァッハッハッハ!気に入ったわ嬢ちゃん!いや嬢ちゃんは失礼だな。立派な女性じゃ!久々に良い啖呵を見させて貰った!!」
緊迫した空気が一気に弾け、私の体からも力が抜ける。
「いやぁ~肝が座っとるな!嫌いじゃない。相手の為に一生懸命になれる。それだけ2人の仲は深いっちゅう事じゃ!友情は大切にせぇ!」
「それじゃクビは無しですか……?」
社長が懇願するように聞いた。
「何言っとる!辞めて貰うモンは辞めて貰う!当たり前じゃ!その覚悟じゃろ?」
「しかしですね……彼女は弱小のウチの中でも稼ぎ頭でして……。」
「そこはお前が何とかせぇ!!その為に事務所任しとろうが。」
「そんなぁ……。」
「いいから早く退職の書類作らんかい!」
社長は持っていたタブレットで、泣く泣く書類を作り始める。
私はと言うと……気が抜けて放心状態であった。
心臓が今だにバクバクしている。
「さあ!シャリが固くなる前に食べよう!」
その後は無言での食事だった。
せっかくの味もあまり感じられなかった……。
食事が終わる頃には、退職に関する書類が出来上がっていた。
理解もしないまま、その一つ一つにペンタブモードでサインをする。
店を出る前に神崎さんが話し掛けてくる。
「タクシーを呼んでおいた。今日はそれで帰るといい。料金は私達のツケになっている。」
「…………。」
考え込んでいて返答を忘れた。
もう辞めてしまったという実感がどうしても湧かない。
明日からどうやって生きて行こう……。お金……。
「それと今後の事だが、言った通り私達と関係を切った君は自由だ。好きに動き回ればいい。そして何が起こっても組織は一切手助けはしない。」
「はい……。分かりました……。」
「さぁ!ではお開きにしよう!」
神崎さんは胸の前で手をパンと叩き、両手のひらを互いに握り合っている様な動作をした。
それは取るに足らない仕草。誰でもたまにやる事があるだろう。
でも私にとってはとても意味の深いもの。
あの娘が決めた私達の合図。
いつだったっけ……。
『ねぇねぇあ~みんさん!!!こうやって両手を胸の前で握り合うようにして少し振ると、手話で"友達"って意味なんだってー!!!』
『……あんた昨日の聴覚障害の男の子の、ドキュメンタリー番組見たでしょ?』
『えぇ!?もしかしてあ~みんさんも見たのー???私もう最後の方なんか泣いちゃってぇー!良かったよね???』
『どこら辺が1番良かったの?』
『それはもう!えと……えと……あれだ!!!男の子が頑張っててぇ……それでぇ……。何か色々あってぇ……友達も出来てぇ……。それからぁ……それからぁ…………。あっ!!!いや……それは違うなぁ……。』
『どこだよ!?何っっっも伝わって来ないんだけど!』
『まぁ結局全部良かったよね!!!w』
『ったく……あんたらしいわ。』
『それでね!私達もあのポーズやろうよー!!ほら!友達になった男の子と一緒に"友達"ってやってるトコ良かったなぁ~!あ!!!それだ!!!1番良いトコ!!!互いに喋れなくてもちゃんと繋がってる!みたいな!』
『私達は喋れんじゃん!』
『えー!そんな事言わないでよぉ……。ほら!あれだ!!イベントとかラジオとか一緒にやってる時に、目が合っても喋れない時あるじゃん??』
『まぁ収録の時とかは特にね。音出しちゃいけないしねー。』
『でしょー!?喋れない時あんじゃーん!』
『まぁ喋れないっちゃー喋れないんだけど……。その子達とは状況が違うじゃん。』
『細かい事はいーの!!とにかく!これから互いに話せない状況で目が合ったら"友達"のポーズだからね!?それとも私とじゃ嫌なの……?』
『嫌……じゃ……無いけど……。その眼をするのは卑怯だぞ!可愛すぎるもん!!』
『じゃこれは決定で~す!私達の秘密の合図ね!』
『仕方ないなぁ……。』
『やったぁー!あ~みんさん大好きー!!!』
あの時の会話を思い出す。
そう。いつも変な事を言い出すのはリカの方からだった。
でもそれが私達の絆にもなっている。
外にはタクシーとさっきのベンツが待機していた。
神崎さんは車に乗り込むと窓を開けた。
「シカリウスだ。」
突然何かを言い始める。
「えーっと……何でしょう……?」
「今回の件に関わっているとされてる人物だ。彼を捜してみるといい。」
「シカリウス……名前でしょうか?でもどうしたら…………。」
「六本木にある"ボラカイ"と言う店を訪ねてみろ。あそこは私達筋もんは拒絶されるが、堅気の君なら何か分かるかもしれん。私に言えるのはこれだけだ。」
「はぁ……分かりました。ありがとうございます。」
「頑張れよ!探偵さん!」
そう言い残して去ってしまう。
少しの間呆然と立ち尽くしていると……。
「名屋くん……もう帰りなさい。明日の事は明日考えればいい。」
取り残されていた社長が優しく話し掛けてきた。
「そう……ですね。社長も今日はありがとうございました。」
「きっとまたすぐ戻って来れるさ!」
肩をポンポンと叩かれる。
その励ましにも関わらず、無言でタクシーに乗り込んでしまう。
窓の外から手を振る社長もまた空元気の様だった。




