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Episode 19

何やらマッテオの方からゴチャゴチャと誰かの話し声が聞こえる。

距離が遠いのか、何を言ってるかまでは聞き取れないが、相手は女性の様だ。

暫くすると、その女性らしき人物が電話口に出る。


「久しぶりねぇ梨香!あたしが誰だか分かる?」

「その声は……カリナさん?」

「流石ね!実力派声優だけあって声を聞き分けられるのね。」

「どうしたんですか?と言うか、なぜそちらに居るんですか?」

「なぜって……だってあたしは彼の愛人ですもの。」

「えと……お知り合いなんですか?それなら!カリナさんからも私の引退を止めて貰えませんか?」

「……ダメよ。」

「どうしてですか!?また一緒にお仕事しましょうよ!」

「どうしてかって?なぜならこの計画を提案したのはあたしだからよ!」

「え……?何で…………?」


顔は見る見るうちに青褪めて行く。


「あんたウザいのよ!せっかく私が作り上げたキャラと被ってるし、皆んなあんたの方が可愛いだの面白いだの……。また一緒に仕事しましょうですって!?こっちはもう顔も見たくないってーの!!!」

「カリナさん……。」


少女の顔は既に泣きそうになっている。

やり方に胸糞悪さも感じるが、俺が口を出す事ではないだろう。

彼等には彼等の社会が有り、そのルールについて俺は何も知らない。


「だから消えて頂戴!それにこっちは歌手デビューもさせてあげるんだから、逆に感謝されたいくらいだわ!」

「確かに歌を歌う事は大好きで、歌手になる事も私の夢の1つでした。でもそれ以上に声優になる事は大きな夢でしたし、今声優として活動させて頂いている事は、とても嬉しく思っています。ですので辞めることは出来ません。それは私を今までサポートして下さった方々を、裏切る事にもなってしまいます。」


泣きそうながらも説得力のある口調でそう告げる。


「分かってる!?あんたに選択肢は無い!!!素直に辞めるか痛い目見て辞めるか、どの道あんたには未来は無いのよ!!!」

「それでも私の口から、私の夢を否定する事は出来ません!」


強い決意を感じる一言だった。

先程頭がおかしいと感じた事について、心の中で謝罪する。。


「それにカリナさん変ですよ!私の知っているカリナさんはもっとお優しくて、後輩の面倒見も良くて、頼り甲斐があって、演技もお上手で……。」

「やめろぉー!!!!!だからキャラ作ってるって言ってんだろぉ!!!」


あまりの声量に、スピーカーから聞こえる声は音割れする。


「いつまでぶりっ子してんだよ!あんたのそういう所が大っ嫌いなんだよ!!」

「私はカリナさんの事大好きですよ!」

「!!!!!!!」

「子役の頃からこの業界にいらっしゃるのに、新参者の私に業界について色々と教えて頂いたり、ミスした時もフォローして頂いたり、私達にとっては憧れのお姉さんで……。すごく尊敬しているんです。」

「あぁぁぁぁ!!!!ウザイウザイウザイウザイ!!!そうやってカマトトぶって楽しいの!?」

「そんなつもりは……。私はただ自分の気持ちに素直に……。」


少女が織り成す喜怒哀楽の表情は、決して彼女が自身を守るための自己愛で言っている嘘では無い事を伺わせる。

声色でも表されているそれは、きっと相手にも伝わっている。それほど本職から放たれる"言霊"には言い表せない力があった。

しかしカリナから放たれる返答は無情な言辞(げんじ)


「もういいわ……。あんたがあたし達を舐め腐っているのはよーく分かった。それに引退しない気ならこっちにも考えがあるわ。」


先程までの感情的な口調から、急にスイッチが切り替わったかの様に静かなモノへと変わる。

それは知っている者ならすぐに分かる、マッテオのそれとよく似ていた。

どこまで行っても冷淡で、無機質な感情。怒りを通り越して完全にキレた時の口調だった。


「シカリウスだっけ?そこにいるんでしょう?」

「あぁ居るぞ。」

「そう……。そうしたら依頼内容の変更をお願いするわ。」


飽くまで冷静なトーンで話す。


「その女を殺して頂戴。」


一瞬耳を疑った。こんな少女を殺す?


「おいおい!ちょっと待ってくれ。あんた人を殺す事がどういう事か分かってんのか?それもこんな下らない理由で。」

「何?説教?今まで散々人を殺して来て、道徳心もクソもない人に言われてもウザいだけなんですけど?」


確かにカリナの言うことには一理ある。事情も知らない俺が口を出すことでは無いもかもしれない。

しかし相手が相手だ。俺が今まで相手にしてきたのは、どこか殺されても仕方が無い者達であった。

犯罪に関与する者から、他人を蹂躙(じゅうりん)して生きてきた者。そう……相手にはどこか"悪"があったのだ。


彼女はどうだろうか?殺される理由はカリナの嫉妬心でしか無い。

人が殺しを依頼する理由は、それ相応のモノが必ずあった。

彼女はどうだろうか?詳しい事情は俺には分からない。

だがまるで一時的な感情で相手を殺したいと思ってる。そう、兄弟喧嘩の様なモノをカリナから感じる。


「兎に角マッテオに代わってくれ。俺に依頼したのはあいつだ。彼の指示を仰ぎたい。」

「……分かったわ。ちょっと待ってて。」


恐らくすぐ後ろで会話は全て聞いていただろう。ちょっと待つも何も、1秒後にはマッテオに交代する。


「どうした?」

「マッテオ……。俺はあんたらのよく分からん事情に巻き込まれたらしい。」

「……そうだな。」

「それで俺はどうしたら良い?」


細やかな抵抗を試みる。


「カリナが言うように依頼内容は変更する。」


きっと期待していた。これはカリナが勝手に暴走したモノだったと。


「今回の依頼は……。」


止めてくれ。聞きたくない……。


「その娘の処分だ。」


現実を突きつける一言だった。

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