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Episode 140

「おい。テメェが今何をしてるのか分かってんのか?」

「そりゃあ分かってるさ。アドミンを盾にしてミカの連行を阻止してる。」


飽く迄笑って答えるシカリウス。


「シカさん……ミカちゃん……。」


アンジュのミディアを掴む手に力が入る。


「これならどうする?」


今度はヒロがシカリウスに銃を向けた。

もう滅茶苦茶な状況に陥っている。


「良い銃だな。態々(わざわざ)そんな古い銃を新しく仕入れたのか?」

「黙れ。お前には関係無い。良いから早く銃を下ろせ。」

「…………撃つなら好きにしろ。俺は下げるつもりは無い。だがお前が撃ったらアドミンも道連れにするぞ?」

「私の事ならお構い無く。この街の規律が大事です。」

「…………。」


暫くの膠着状態が続き、雨が地面を叩きつける音だけが響いていた。


「シカリウス…………お前は人形や飼い主とグルだったのか?」

「冗談!俺はこんな可愛げのない糞餓鬼なんて知ったこっちゃあないし、況してやこんな老い先短いジジイの為に命を懸けてやるなんて真っ平御免被りたい。」

「なら何故!?」

「俺はふぁくとたむだ。俺の相棒が守りたい物を俺も守って何が悪い?」


ホントにバカだヨ……。


ミディアはそう思いながらも、内心はそのシカリウスの性格を気に入っている。

それを表に出す事は滅多に無いが。


「シカさん…………。」


アンジュの瞳もまだ光ってる。

シカリウスを信じているその光がまだ消えていない。


「アンジュはミカを助けたいと言って本当に見付け出した。それなら後の事を任せろと言った俺も格好良い所見せなきゃいけないからな。」

「そんな馬鹿げた理由で……。」


バカなの……?シカリウスも……お姉ちゃんも…………。


ミカは呆れていた。いや驚愕だったかもしれない。

将又(はたまた)信じ難いと言う気持ちか。


何せ自分が殺そうとした人間が2人して、今度は命を懸けて自分を救おうとしている。

彼女にとって今まで他者とは利用するか利用されるか、殺すか殺されそうになるかの関係でしかなかったのである。


「お前が1人で暴れた所で何も出来無いぞ?すぐオレに撃ち殺される。」

「そうだな……何も出来んかもしれない。でもアドミンだけは確実に持って行ける!」

「…………。」


辺りを包むビリビリとした空気が伝わってくる。

シカリウスの眼は本気の眼。それは彼が未だ殺し屋である事を忘れていない眼であった。


「もう止めなさいシカリウス!あなたの行動、言動それら全てはこの街の規律に反します。」

「お前等が新しく作った規律だとか何だとか今の俺には分かんねぇけどよ……。でも1つだけ分かる事がある。」


その時シカリウスの背後で、今まで状況を只見守る事しか出来無かったジョヴィアルの心に急に懐かしさが込み上げる。

まだ自分が今ほど背が高くなかった頃、いつも目線の先にあるその背中を見ていた。


「ここでミカを見捨てるくらいなら、その規律とやらをぶっ壊した方がマシだ!」


あぁ……僕は知っていた。僕が幼少の頃より、またヒロ君も憧れた存在。

シカリウスがまたここに居るんだッ!


ジョヴィアルの瞳には涙が溜まっていた。

いつか忘れてしまった"彼の様になりたい"。そんな気持ちが蘇った。


またミカも感じていた。心躍る様な高揚感。

自分が心の中で願っていた事。ヒーローの存在。

シカリウスの横顔にその姿を見ていた。


「…………理に適ってねぇよな。」


ヒロが銃を下げる。


「ハァ……アドミンももう良い。全隊撤収準備だ!夜が来るぞ!」

「ヒロさん!!どういう事ですか!?」

「アドミン…………もうその下手な芝居を止めろ。」

「…………バレてました?」

「当たり前だ。今日ずっとおかしかったぞ。」

「あちゃ~……。」

「言い訳は後で聞く。早く撤収準備をしろ。」

「御意。」


呆気に取られるシカリウス。


「お……おい。ミカは無罪放免か?」

「アホか。無罪なんかじゃねぇ!処分保留だ。」

「俺の反逆行為は……?」

「不本意だが見逃してやる。それに……。」


ヒロは緩ませた顔から1瞬にして鋭い表情に戻る。


「お前が"今回も"取り零すつもりだったなら、オレが何もかも始末してやったさ……。」


そして意味深な言葉をシカリウスに向けた。


「それからソイツは駄目だ。この場で連行する。」


ヤーコフを顎でしゃくる。

その状況にヤーコフは身体をビクッとさせた。


「待ってくれ!本当に私は関係無いんだ!!それに噂では少女が犯人と言う話ではないか!そこの少女はピッタリだ!」

「この期に及んでこの野郎は……。」


シカリウスは怒りなのか呆れなのか分からない感情に包まれた。

ヤーコフがミカの主人であったのは火を見るより明らか。

認めなければ助かると思っているのだろうか?


「確かに路上での犯行は人形がやったかもな……。だがオレ達はとある部屋で別な殺され方をした奴等も見付けたんだ。」

「…………。」

「その中でちょっと疑問があってな。脳天に無数の針金が刺さった死体だ。今日実物の人形を見て確信したぜ。」

「きっとそれもこの少女だ!可愛い顔してやる事が残忍だな!」

「うるさい黙れ。」

「ヒッ!」


ヒロの静かな1喝にヤーコフは黙ってしまう。

修羅場を幾つも潜り抜けて来た彼も、それは見た事も無い憎悪と侮蔑の入り混じった表情だったからだ。


「どう見ても不自然なんだよ……。あの椅子に縛られたソイツの脳天を態々(わざわざ)開けて針金を刺すには人形の身長がな。」

「!!!」

「あの場所には手頃な踏み台も無かった。まさか死体をそのままに逃げ出したのに、踏み台だけ処分するなんて事は無いだろう?」

「ち……違う…………。」

「お前は拷問愛好家だと言っていたが?」

「私じゃない…………。」

「アドミン連行しろ!」

「はい。ヒロさん。」

「嫌だ!!!私じゃない!!!」


その時ヤーコフの前に小さな人影が立ち塞がった。


「……一体どういうつもりだテメェ?」


ミカがヤーコフを庇う様に立ちながら右手のキャスティングテープを解き始める。


「そんな……ミカちゃん!!!やめて!!右手は完全に折れているのよ!!?」


しかしミカはその紺色に腫れ上がった右手を横に大きく広げた。


「ご主人さまは……わたせない。」

「折角この場は見逃してやったのに……そうか……今すぐに処刑を希望か。」


ヒロは銃口を上げる。


「そうだ!!私を守れ!!全員殺すのだ!貴様なら出来る!貴様は化け物だからな!!!」

「本性を表したな……外道め。反吐が出るぜ。」


ミカも何故自分がこんな事をしているか分からなかった。

しかしいくら酷い主人であっても彼女は恩義を感じていた。

彼が居なければ、今もきっとあの檻の中で動物以下の扱いを受けていたのだから。


「貴様は命を賭して私を守る義務がある!!私には貴様を助けてやった恩がある筈だ!」


ミカは歯を食いしばった。

分かっていた。分かっていたが、やはり自分は使い捨てだったのだ。

もう数年間も一緒にやってきたのに……。


それでも退く事が出来無い自分が恨めしい。


「さぁその化け物地味た力で主人を守…………。」


突然の聞き慣れない音と同時にヤーコフの声が途切れた。

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