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Episode 136

「ミディアさん。」


地上まで降りた建物。その1階。

小声でワタシを呼ぶ声と共にアンジュがひょっこり顔を出した。


「アンジュ!良かった。」


思わず駆け寄る。

背中には人形が背負われていた。


「すみません。声は聞こえていたのですが、出て行くタイミングを見計らってて……。」

「大丈夫なの?怪我は?それ人形は生きてる?ホントにヴィジランテに手を出すなんてどエライ事したヨ……この娘は。」

「ちょw ミディアさん落ち着いてw 私は平気ですし、ミカちゃんも気を失っていますが生きてます。ですが早く治療してあげないと、また凄い大怪我してるんです……。」


確かに人形は身体中から血が出ているし、呼吸も荒い。

でも見た感じ全身に打撲痕だけ。銃創も無し。ヴィジランテのやり方じゃないネ……。


「ねぇミディアさん?ヴィジランテさんはこんな酷い事するんですか?ミカちゃんは既に重傷だったのに……。」

「それは違うと思うヨ。きっと人形とアイツラがやり合ったならもうその子は再起不能になってた。」


アンジュの顔から血の気が引く。

ワタシも改めてやり場の無い気持ちを感じていた。


そう……ヴィジランテは皆が考える様な正義の自警組織なんかじゃないんだヨ。

ヒロが頭になってからは特にネ……。


「ヴィジランテはアンジュの考えてる様な組織じゃない。アイツラは敵に対して容赦は一切無いんだヨ。銃器の使用も躊躇いは無い。」

「でもヴィジランテさんってミディアさんやシカさんが創ったんじゃ……。」

「…………知ってたんかネ。そうだヨ。でも仕方無いんだヨ。前にも言ったけど、この世界は綺麗事だけではやっていけない。表社会の枠から外れたこの街では特にネ。」


アンジュの難しい顔。


確かにワタシ達の頃はもっと甘かったけどネ。

でもヒロのやり方で治安は著しく向上した。

何が良いかなんてワタシには分からないヨ……。


「とにかく今はそんな話をしてる暇は無いヨ。まずはここを抜け出すんだ。もうすぐ逃げ道が無くなる。」

「この包囲の抜け道を知ってるんですか?」

「難しいけどやるしかない。ワタシに付いて来て。」

「はい!!」


良い返事だネ。

ワタシの立場では個人の感情で動くのは御法度さ。

でも今はこの娘を失いたくないんだヨ。


ユージーン…………オマエだってそうだろ?

もう2度とあんな思いはしたくない!!


ワタシ達はゆっくりと自分達の居る建物から外へと出た。

遠くからヴィジランテの出す音が聞こえる。

まだ包囲は完成してない。イケる!


「アンジュ。こっちだヨ。」

「はい。」


ワタシはアンジュの手を引き、頭の中でこの包囲網から抜け出すルートを必死に探る。

絶対にアンジュだけは…………。


「ご苦労様でした。ミディアさん。」


1瞬にしてそんなワタシの希望を打ち砕く声が背後から聞こえた。


「またこの人……全く気配が……。」


アンジュの顔が強張る。


「我々が中々見付けられなかった彼女を、こんなにもすぐに見付け出してくれるとは。流石ですねぇ……。」


チッ!この男!


何処から現れたのか、振り向いたワタシ達のすぐ後ろにアドミンは居た。

構えた銃口はしっかりアンジュとその背中に居る人形を捉えている。


「ミディア……さん?」


アンジュ……確かにこれじゃワタシが誘い込んだみたいだよネ。

でもここで否定する事も出来無い……。


「いつの間にそこに居たんかネ?まさかずっとワタシをつけていたとか言わないよネ?」

「そんなストーカーみたいな事しません。偶々(たまたま)ですよ。」


いつもは不気味なニヤケ面が物凄く憎たらしく見えるヨ。


「さてさて……これはどうした事でしょうかねぇ。そちらの人形を抱えてるお嬢さんは一昨日ガルディアンと一緒に居た娘さんですね。シカリウスの所に居る……。」


これはマズい……。


「確か杏珠さんと仰いましたね?どう見ても私には人形を捕らえたと言うより、連れて逃げていた様に見えますが?」


分かってて言ってるだろ!


「そうなると、私達を襲って人形を奪って行ったのも杏珠さんと言う事になりますが?」


クソ!何も言い返せないヨ。


「説明……して貰えませんか?」


ゾクッ……!


その時ワタシは今まで味わった事の無い寒気を感じた。

この男のニヤケ顔が1瞬真顔になったからだ。


「怪我人は居ませんでしたが、立派な公務執行妨害と人形の逃亡幇助や隠匿。懲罰の対象になります。どうなんですか?ミディアさん。もしかしてあなたもそれに協力していたのですか?」


否定すればアンジュを裏切り、肯定すればボラカイを裏切る事になる。

身から出た錆とは言え、酷な事をワタシの口から言わせるネ……。


「ワタシは…………。」

「私の単独行動です!ミディアさんは関係ありません!」


アンジュ!?


「ほほう……そうですか。しかしあなたの様な一般人が私等を出し抜く事が出来るなんて考えづらいですが?」

「それは…………。」

「それにスモークグレネードの効果的な使用。何処で覚えたのです?シカリウスですか?彼もこの状況の一端を担っている?」

「シカさんも関係ありません。使い方はアニメで知りました。私アニメが好きなので。」

「アニメねぇ……。まぁあなたの事情聴取はゆっくりやるとしましょう。それより包囲が完成しました。もう人形が逃げる術はありません。」


しまった!変に捕まえようとして逃げられるよりも、尋問責めによって包囲までの時間を稼いだネ!?

やる事が一々計算し尽くされているんだヨ……この男は!


「間もなくこの場所に皆が集まります。」


アドミンは空に向けて照明弾を撃った。


「そうしたら人形の処刑をこの場で行います。」

「そんな…………。」

「元々発見次第射殺しても良い命令が出ています。せめてもの私の慈悲なのですがね。」

「この子が殺される理由なんて……。」

「街の住人を10人以上殺し、ヴィジランテ3名にも重傷を与えた。これ以上理由が?」

「でもこんな小さい子…………。」


アンジュ……もう止めてヨ。

どう足掻いてもこっちの分は悪い。

あまり反抗するとアンジュの罪も重くなるヨ?


「この街の法律に少年法などありません。大人も子供も罪を犯したらそれに見合った罰を受ける。そうしなければこの街は以前の様に秩序が無くなってしまう。」

「…………。」


道理はアドミン側にある。

これじゃ悪者はアンジュになっちゃうヨ。


ユージーン……何やってるのさ。

いつものオマエの無茶苦茶な行動で道理なんてぶっ飛ばしてヨ……。

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