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Episode 134

ふといしきがもどる。

どうやらまだ死んでない。


小きざみに受けるしんどう。

それは体中のケガにひびいてさらなるいたみをウチにあたえた。


でも体の正面はなにかとピッタリくっついて、あたたかさ感じさせている。

それはフシギと安心感があった。


てんごくにはこばれてるのかな?

いやウチが行くのはじごくかしら。だって人をたくさん殺したから。


ちがう……。

すごくリアリティーがある。


目がおもくてあけられないけど、ウチはだれかにおぶわれてる。

だれかのせなかにいる。


「うぅ…………。」


声が出た。

やっぱりまだ生きている。


「痛いよね?ごめんね……。でも必ず助けてあげるから……もう少し我慢してね。」


だれかの声。

きいた事のある声。


なんだろう……この感じ。


ウチはそのあたたかいせなかと声に心地よさを感じながら、またいしきを失った…………。



―*―*―*―*―*―*―*―*―



「姐さん大変です!!何者かに武器庫を開けられた様です!備品が少し無くなっています!」

「あらそう?それは大変だネ。」


流石ガルディアン。


「それから杏珠さんを見掛けませんでしたか?先程から姿が見えなくて。」

「さぁてネ。そこらで遊んでいるんじゃないかネ?」


分かってて言ってるネ。


「良かったので?」

「何が?ワタシはな~んも知らないヨ?」

「自分にまで隠す必要はあるのですか?」

「別に隠してるつもりは無いけどネ。」


自分をもっと信頼してくれ……って事だよネ。


「今放置したら杏珠さんは危険な目に遭うだけじゃ済まないかもしれない。姐さんはあんなに杏珠さんの事を……。」

「…………アンジュだって子供じゃない。警告はしたヨ。その上で大人が皆それぞれ己の正義で行動してるだけさネ。ワタシにそれを止める権利は無いって事だヨ。」

「そうですか……。姐さんが覚悟をしているなら自分からは何も言いません。ウチからの捜索隊はヒロに一任していますので自分は通常業務に戻ります。」


それが良い。

車椅子状態のガルディアンに無理させるワケにもいかないしネ。

それに仕事も本当に溜まっている……。


「確かにここの所バタバタしていて業務に遅れが結構出ているよネ。」


助手でも付けてあげられたらいいんだけど……。


「遅れているのはいつもの事です。まぁこれ以上他の従業員の負担を増やす訳にもいかないですから、自分が何とか片付けます。」

「悪いネ……慢性の人手不足で。助手でも欲しいよネ?」

「大丈夫です!任せて下さい!」


本当は入院でもさせた方が良い怪我なんだろうけどネ。

本人が頑張り屋だから……。


さて……ワタシも少しは終わらせないと。


今週は未完了の依頼がまだかなり残っている。

それから不法入国者の受け入れ。ヴィジランテも忙しくて調整が出来てないヨ。

住人の管理は…………もう意味が無いのかもね……。

でも出来る限りの住人台帳は作らないと。


「やっぱりもっと人が欲しいネ……。」


独り言を呟いても仕事が減るワケじゃない。

それに分かってる。人が集まらない理由も……。


鬼棲街には基本的に人生を捨てて自暴自棄になってる者が多い。

そんな奴に膨大な量を抱えるボラカイの業務をやらせても、大体3日も持たずに逃げ出してしまう。


かと言ってやる気のある者。彼等の多くはいつか鬼棲街を出たいと考えている。

しかしボラカイで働いて外で生きる足掛かりにしても、結局仕事は鬼棲街絡みばかり。この街に縛られているのは変わらない。

それにボラカイでは犯罪の片棒を担ぐ事も少なくない。

万が一警察にでも捕まってしまったら、日本国籍取得は不可能になってしまう。


言いたいことを我慢せずに言ってしまうワタシの性格もあるんだよネ……。

でも口うるさいのは生まれつきだヨ……。


それよりアンジュは大丈夫かネ。

店を出て結構経つけど……。


『腕の手当も終わったし……落ち付いたかネ?アンジュ?』

『はい…………。』

『さっきはユージーン何だって?』

『ミディアさん……私今日は帰ります!!!』

『何だヨいきなり……。』

『いえ帰らなければいけないんです!!止めても無駄ですよ?』

『そっか…………。アンジュ……帰って良いヨ。』

『もし止めるなら……ってあれ?』

『別にワタシ達はアンジュを拘束する権利も無いしネ。』

『えと……えと……。』

『それから今日は見送り付けてあげられないから、地下の倉庫から好きな護身用グッズを持って行って良いヨ。でもその奥の"鍵を掛け忘れたかもしれない"ドアの中には、"色々役に立つ物"が入ってると思うけど危ないから触らない様にネ?』

『ミディアさん???もしかして……?』

『余計な事は喋らなくて良いヨ。それからワタシはアンジュが家に帰らなくても分からないし関係無い。さぁ早く行きな!』

『はい!』


これでホントに良かったのか分からないヨ。

出来ればアンジュには関わって欲しくは無かったけど、きっと人形に何かあったら自分を一生責めちゃうと思うんだよネ。

逃がしてしまった自分を……。そういう娘だからネ……。


ユージーンは自分のやるべき事を理解しているハズ。

根本の解決に繋がる事。

問題は完全にヴィジランテに遅れを取ってしまっている事かネ。


「あぁ!!!組織を持ってるってのはやっぱり歯痒いモンだネ!」


ユージーンとアンジュには協力出来無い。

部下から大きな信頼のあるガルディアンに重傷を負わせた人形は従業員全体からも疎まれていた。

それに加えてこの店のアイドルになりつつあるアンジュへの攻撃。

この状況でまだ人形を助けるなんてワタシが言い出したら従業員達の暴動でも起きかねないヨ。


何かを守ると言う事は別の何かを見捨てるって事にも繋がるんだ。

特に大きな組織の中ではそれが顕著なんだヨ。


ヴィジランテを創った時からそんな事を繰り返して来たネ。

自分の理想と義務の中でのジレンマ。でもやっぱり上に立つ者として義務を選ばなければいけない。

だからアンジュはワタシの正に理想。自分の思った道を突き進み、諦める事を知らないあの娘が羨ましく、また応援したくもなるんだヨ。


「姐さん失礼します!!!」


ガルディアンが唐突にオフィスへと戻って来た。


「どうしたんだい?そんな一大事みたいに。」

「一大事です!捜索隊から連絡がありました。どうやら人形がヴィジランテに捕まった様です!」

「それはホントかネ!?」


間に合わなかったの!?


「えぇでも事件はここからです。その人形を護送中に何者かに襲撃され、人形は奪われたそうです。現在ウチから派遣した捜索隊もイースト・エンドに入り、現場付近総出で犯人捜しをしています。」

「それは飼い主かネ!?」


アンジュ…………。


「誰も姿を見ていないらしく、犯人は不明だそうです。」

「とにかく密に情報が欲しいネ。ウチの捜索隊とは連絡を取り続けられる?」

「まだ現場は騒然としているので、詳しい報告が入り次第お知らせします。」


1度ガルディアンはオフィスを出る。


もし飼い主が人形を奪還したのだとしたら、ユージーンはまだソイツまで辿り着いていない事になるネ。

そうなら最悪のシナリオになるかもしれないヨ。


きっとヴィジランテからは逃げられない。

ヴィジランテが先に2人を捕まえればお終い。

ワタシはまた理想が壊れるのを見て見ぬ振り。


そしてあの娘の笑顔を失ってしまう気がするヨ…………。

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