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Episode 133

「調子はどうだ?ヤンク?」


ヤンクはイースト・エンドに入ってすぐのビル屋上で全体の指揮を執っている。

ここは他の建物と空中回廊で繋がっていない為、襲撃を受けづらい。


「あまり良くないぜボス。早速南の方で潜んでいたアンブラと戦闘になった。そこに居た5人は全員射殺に至ったがこっちにも2人負傷者が出た。何せ全隊でのイースト・エンド介入は久々だからな。装備の準備も足りてない。」

「準備不足なのは重々に承知している。だがやるしかない。」

「分かってるけどよー。本当にこんな短時間で見付けられるのか(はなは)だ疑問だがね。アンブラを発見するのも大変だってのにたった2人を捜し出すなんて。」

「日没までに見付からなければオレ達の負けだ。そう……只負けるだけだ。死ぬ訳じゃない。あまり気負わないでくれ。」

「だが負けたく……ねぇよな……。特にそのクソ野郎には……。」

「あぁ……そうだな。」

「アドミンは何か?」

「まだ調査中だそうだ。まぁ正体が分かっても逃がしちまったら元も子もねぇけどな。」

「もしそうなったらオレが地の果てまで追っ掛けてってやるさ。」

「そりゃ怖いな……。」


奇跡でも起きない限り、この作戦を完遂するのはほぼ不可能だと本人達が1番分かっている。

それだけイースト・エンドは複雑で入り組んでいる。

だが何かが彼等を駆り立てている。

人形達の狂気を見てしまったが故か、将又過去を知ってしまったが故か……。


時間だけが刻一刻と過ぎていく。時折銃声も響いた。

流石にこれだけ大規模な捜索だとアンブラとの遭遇も発生する。


「新たに拠点らしき場所が3ヶ所、捕獲8名、射殺12名。次から次へと湧いて来るな。Cockroachesゴキブリの様だ。ついでに新型ドラッグ関係の奴も見付からんもんかね。」

「そう簡単に見付かるならオレ達がこんなに手を(こまね)いてはいないだろう。それに昼間に見付かる奴は大抵小物だ。排除しても明日にはまた別の奴が湧いている。アンブラは完全には掃討出来んさ。」

Rollins(害虫駆除)に頼めないかな……。」

「日本ならダスキンさ……。オレも出よう。捜索は1人でも多い方が良いいからな。」

「それならオレが出るぜボス!アンタが指揮を執ってくれ。」

「いや今はお前が全てを把握しているだろう?そのまま続けた方が無駄が無い。」

「そうか?それなら……。」

「オレのガード達は今何処だ?」

「えぇっと……彼等は……。」

「私がお供しましょうか?」


アドミンが顔を出した。


「どうした?特定は終わったのか?」

「何名かまで絞れましたが、決定付ける証拠が足りません。何かがズレている……そんな感じがします。本人を確認出来れば早いのですが。」

「そうか……。まぁどの道捜し出さなきゃならない。オレと一緒に来いアドミン。」

「行きましょう!」


ヒロとアドミンは出口へと向かう。


「ちょっと待ってくれ2人とも!緊急連絡だ。」


ヤンクのスマフォが反応している。どうやら着信の様だ。

ヴィジランテは作戦行動中に余計な音を出さないように通話は控えている。

直接電話を掛けてくると言う事は緊急連絡以外無い。


「どうした?…………何!?間違い無いだろうな!?…………それで…………OK。ここに連れて来れるのか?…………OK。」

「何なんだヤンク!!?」

「ボス!人形が見付かった!重体で転がっていたらしい。今ここに運ばれて来るぜ!」

「何……だと?」

「まさか……どうなっているのでしょうか?」

「分からんがとにかくチャンスだ!人形が居た周辺を重点的に調べてくれ!飼い主が近くに居るかもしれん。」

「OK!伝えるぜ!」


発見現場はここから10分程の場所だった。

彼等はすぐにでも人形を運んで来るだろう。


「アドミン!オレ達も早く行くぞ!」

「落ち着いてくれボス。こうなったら人形が到着する迄待って欲しい。」

「えぇ一旦待ちましょうヒロさん。私も実物を確認したいですし。」

「…………。」


このまま素直に終わる筈は無い。ヒロは嫌な予感がしていた。

上手く行き過ぎている。

事態を見極めなくてはならない。


人形を待っている間ヒロは屋上の端から身を乗り出して辺りを眺めていた。

その時ふとすぐ近くに煙が出ているのが見えた。


「おいアドミン!あれは何だと思う?火事じゃねぇよな?」


グレーの煙はゆっくりと漂っている。


「何でしょう?この雨ですし大丈夫だと思いますが、人形の運搬に影響が出なければ良いのですね。」

「確かに方向的にちょっとマズいな……。」


次の瞬間に大量の煙が一気に下の路地を包んだ。


「クソッ!!」


と同時にヒロは下の階へと走り出していた。


「ヒロさん!!?」


慌ててアドミンが続く。


「あの煙の勢いは撹乱用のスモークグレネードだ!人形を奪われるぞ!!!」

「まさか!!飼い主が連れ戻しに来たのでしょうか!?」


殆ど飛び降りる様に階段を降りて行くヒロ。

それに遅れず付いて行くアドミンの身体能力もまた人間離れしている。


「分からないが、誰かが人形の運搬の邪魔をしようとしてるのは確かだ!」

「急ぎましょう!」

「全く次から次へと……ここの所忙しいな!」


屋上から30秒もしない内に地上階へと降りた。

2人はそのまま正面のエントランスへと向かう。


「目の前がスモークで覆われています!視界ゼロです!!」


煙はビルの中まで入って来そうな量だった。


「この量は特製品か!すぐ近くでやられたな……。」

「取りあえず外に出ましょう!仲間が襲われてる可能性もあります!」


しかしヒロ達が外に出る直前に人形の輸送班がビル内に雪崩れ込んで来た。


「ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!クソッタレ!!!」

「ハァ……ハァ……お前等全員無事か!!?」

「フゥ……攻撃は受けてない筈だ!!6人全員居るか!?」

「……あぁ大丈夫そうだ!」

「チクショウ!!やられたな!!!」


煙自体は無害そうだが、やはり長時間包まれていると目と喉に悪影響を与える。


「お前等状況を説明しろ!怪我は!?」

「あぁ……ヒロさん、アドミンさん。大丈夫だ。だがすまない。人形が消えちまった。」

「後悔は後だ。それより奪った相手を見たか!?何人だ??」

「それが……凄い煙でオレ達も何が何だか…………。」

「もう少しでここに到着するって時にいきなりだったな。」

「1瞬で目の前が煙塗れだ。円陣を組んで迎撃態勢を取ったが見事に人形を奪われたぜ……。」

「しかし不思議だ。あの煙の中で誰にも気付かれずに人形だけを正確に奪って行くなんて……。」

「本当だぜ。攻撃される気配が無いから移動を再開しようとしたら既にストレッチャーから人形が消えていた。どう見ても自力で動ける状態じゃなかったよな?」

「あぁそれにあの環境下では相手だって何も見えなかった筈だろうに。」

「実は人形が噂されていた通り、本当に幽霊なんじゃないかって思えてきたぜ……。」

「…………。」


全員少し沈黙してしまう。


「そんなバカな話がある筈は無い!誰かが煙幕を張り、人形を奪って行った。それが事実だ。分かったら動ける奴から再捜索へ向かえ。オレとアドミンも出る。」

「「「「「Sir, yes sir!!!」」」」」


外の煙は雨と風に流されてもう消え入りそうになっている。


「この捜索隊の数だ。人形達はそう簡単に逃げられない。きっと近くで隠れてるぞ。全隊にこの付近へと招集を掛けろ。」

「「「「「Sir, yes sir!!!」」」」」


輸送班は一足先に捜索へと戻る。


「怪我人を出さずに目標の強奪。それに煙幕の効果的な使用……。相手はやはりプロですかね。」

「分からんが飼い主の可能性は高いな。しかしどうやって……。」

「視界を奪われても正確に相手の位置が分かる……。異常に鼻が利くか耳が良いのか……。」

「……そんな奴は候補に居るか?」


アドミンは肩を竦める。


「候補の中に限らず、あの煙幕の中で自由に動ける程の特殊能力を持った人間を私は知りません。」

「クソ……一体何が起こっていやがる。」

「捕まえれば分かる事です。」

「そうだな……。絶対に逃しはしない!"化け物"だけは……絶対に…………。」


ヒロとアドミンも捜索へと向かう。

時刻はもうすぐ15時半。確実に夜へと近付いて来ていた…………。

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