Episode 132
「た……ただいまー。」
1人でサボっていた後に集会所へと帰ったジョヴィアルは、不安そうに誰も居ないロビーで独り言を呟いた。
「そりゃ誰も居ないよね……。」
現在ヴィジランテはセキュリティーも総出で人形の捜索にあたっている。
アンブラの動きが活発化しない内に見付けておきたい算段だ。
自分の部下達を他の隊へ預けてきたジョヴィアルは、集会所に来れば誰かと合流出来るかと考えていたが無駄に終わった様だ。
「どうしようかなー。アイツ等作戦中は電話にも出ないだろうし……。アドミンに気付かれる前に合流しないと。」
「私に何を気付かれたらマズいのですか?」
「うわっ!!!ビックリしたぁ……。」
相変わらず突然登場するアドミン。
「現場再検証は終わったの?」
「えぇとっくに終わりましたよ。それよりあなたの部下は何処ですか?」
「えっ!?えっと……それが……逸れちゃって!」
「ふ~ん…………。まぁそういう事にしておきましょう。今ヒロさんやヤンクもここに向かってます。ついでなのであなたも皆を待っていて下さい。」
「ついでって……。酷い言い方だなぁ。」
「一応全隊に連絡は入れた筈ですなんですけどねぇ。まぁあなたは既に知っている事です。」
「ごめん……確認してなかった……。つか僕が知っている!?」
「えぇそうです。ボラカイから提供のあった映像。それは人形の姿を捉えた物でした。集合は皆が人形の実像について確認する為です。」
「人形がまた動き出したの!?」
「まぁ待って下さい。皆が戻ってからちゃんと説明しますので。」
「何だよーツレないなぁ。」
待つだけの状況にジョヴィアルが不満を漏らしつつも、30分と経たない内にヴィジランテ達が集会所に集まり始める。
ヒロやアドミンを含めた幹部は10人。兵隊は人数の変動も多いが現在32名所属している。
一堂に会する事は滅多に無い。
「えー皆さん集まって頂きありがとうございます。治療中の3名は居ませんが、全員での集会は数年振りです。今がそういう事態という事を各々が再確認して下さい。」
ロビーに39人が集まり、各自散らかったテーブルに座ったり、柱を背にもたれ掛かったりしている。
中央には大きなモニターとPCを用意し、アドミンがそれを操作しながら説明を始めた。
「先ずはこの映像を観て下さい。人形が屋上伝いにイースト・エンドの方向へ向かってます。その姿形をしっかりと覚えて下さい。」
僅か数秒の映像だが、人形の姿はハッキリと映っていた。
その映像に皆がガヤガヤし始め、それぞれ隣の人間と話している。
「服装が聞いていたのと違うが本人なのか?」
1人の兵隊から声があがる。
「はい。それについて今から説明しますが、彼女は本物の人形と見て間違いないでしょう。」
「僕からも保証するよ!この子は僕の見た人形と同じだ。」
「ありがとうございますジョヴィアル。そしてこの映像の提供はボラカイからです。実は彼等が人形を保護していました。」
辺りに動揺の声が聞こえ始める。
「静粛に落ち着いて下さい。彼等の弁明では知らずに保護していたとの事です。だが姿を知っているガルディアンが確認し、人形である事がバレた途端に牙を剥き出して逃走したそうです。負傷者も出た様で、捜索に全面協力するとも言っていますからまぁ信用しましょう。」
「またボラカイは余計な事をしたのか……。」
「まぁまぁ皆さん。人形の映像が手に入ったのは大きな収穫です。現在の服装も分かりました。それに夕方までボラカイから10名ほどの捜索隊が借りれます。人海戦術になってしまうイースト・エンドの人捜しにとってそれは心強い事です。」
「ボラカイの連中だってここの住人じゃない。下界の人間を頼るのか?アドミンさん?」
「それに関してはオレが許可している。確かにアイツ等は下界の人間だが、一応ヴィジランテとは協力関係にあるんだ。このクソ忙しい時には使える物は何でも使いたい。」
「ヒロさんが許可してるなら……。」
ヒロは部下達からの信頼も厚い。彼の言う事なら殆どの者が素直に従う。
恐らく統率力ではシカリウスやミディアより断然上であろう。
「ともかく武器の使用にも長けていない彼等は、イースト・フロントで人形が西側に出ない様に見張り役を務めて貰います。我等の邪魔にはなりません。」
「他に意見のある奴は居るか!?」
ヴィジランテは一斉に静かになる。
「無ければこれより本格的に討伐作戦を開始する。人形の面を覚えたなら各自行動を開始してくれ。今日中に終わらせて次の仕事に取り掛かる!まだ新型ドラッグの件もあるんだ。時間は幾らあっても足りないぞ!」
「「「「「Sir, yes sir!!!」」」」」
軍隊式の挨拶が集会所のロビーに響き渡る。
そして彼等はヒロとアドミンを残して人形の捜索へと向かった。
再び静まり返ったこの場所でヒロが問い掛ける。
「それで分かったのか?」
「いえ……ある程度は絞れましたがまだ特定は出来ていません。ですがまだ確実に街の中に居ます。しかし逃げ出されるのも時間の問題でしょう。特に2人が合流してしまったら……。」
「離脱経路は押さえられそうか?」
「まぁ現実的に無理だと思います。今朝も新たに地下水道からの侵入経路を発見しました。現在一体何個の出入口が蛇唆路以外にあるのか見当も付きません。」
「そうか……時間はもう無いな。よし!オレも出る。アドミンは引き続き奴の正体を洗ってくれ。」
「御意。」
ヒロも集会所を離れイースト・エンドへと向かう。
途中でイースト・フロントに集まるボラカイからの増援への指示を出し、その先でヤンクと合流した。
時刻は13時を回っている。
日没までは約5時間。
それ以降は仲間の危険が増す上に、西側の巡回にも人員を割かなければいけない。