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Episode 130

「あ!兄さん!!すみません……。」


今度はディアンが電話口に出る。


「一体全体どうなってるんだ?」

「はい。実は杏珠さんと人形の話し合いの時間が掛かり過ぎているので、自分達が部屋に様子を見に行った所、人形が丁度杏珠さんの腕に噛み付いてそのまま3階の窓から逃げる所でした。」


何て事だ……。

今朝はあんなにアンジュと仲良く話していたのに。

結局はずっと俺達の元から逃げ出す機会を伺っていたのか?


「とにかくそのまま建物伝いに鬼棲街へ逃げたと思われます。まだ明るいのでボラカイからも鬼棲街に入る捜索隊を組織します。自分としても1番良くしてあげていた杏珠さんにまで手を出した人形を許せませんので、これからヴィジランテとも連携を取るつもりでいます。」

「ディアンさんまで!!止めて下さい!!お願いですから私に任せて……。」


アンジュの悲痛な制止は今や誰の耳にも届かない。

ミカはそれだけの事をしてしまった。

人の道を外す事もある俺達の世界で、最低限の仁義も通せない奴は制裁の対象となる。


「分かった。俺も捜索してみる。何か情報を掴んだらこっちにも連絡をくれ。」

「了解しました。また姐さんに代わります。」


面倒な事になってきたな……。


「ユージーン?」

「何だ?」

「さっきも言ったけど今からワタシ達はあの子の敵となるヨ。」

「分かってる。」

「当然だけど人形を捜しているヴィジランテとも協力する事になる。」

「あぁ分かってる。」

「これはもうどうしようもない。鬼棲街に関わる組織としてネ。」

「だから何だ?」

「でもオマエは違うよネ?」

「は?」

「ヴィジランテでもないし、ウチの専属でもないオマエは縛りが無いんだヨ。」


暫し沈黙する。


「と言うかオマエ自身どうするかもう決まってるんだろ?」

「……そうだな。」

「じゃやって見せろヨ。オマエにしか出来無い事を……。」


本当にコイツは…………。


「ちょっとアンジュに代わってくれるか?」

「……分かってるヨ。」


ディアンが宥めてるらしい興奮気味のアンジュが電話口に出る。


「あ!!!シカさんですか!!?あの!!その!!私!!!」

「アンジュ!!」


アンジュもジッとはしてられない性格なのは分かってる。


「はい!?」

「アンジュはどうしたい?」


二兎を追うものは一兎をも得ず。だが……。


「もちろんミカちゃんを助けたいです!!!」

「出来るか?」

「出来ます!!!」


思わずまたニヤける。


「じゃあやってみせろ。俺の最高の相棒として。後のややこしい事は……。」


俺達は2人だ。


「俺に任せろ!!」


こんな言葉で伝わるのだろうか?

どうも口下手ってのは治らない様だ。


「はい!!!!!」


声のトーンからいつものアンジュの満面の笑みが頭に浮かぶ。

どうやら伝わってくれたらしい。


それだけを聞くと俺は通話を切った。


「事件ですか?」


来た!


「気になるか?だがお前には関係無い事だ。」


してやったり!!

アドミンの悔しそうな顔が目に浮かぶ。

コイツはニヤケ面以外見た事無いからな。


しかしアドミンはその表情を変える事は無かった。


「それならば別に構いません。早く立ち去って下さい。」


おいおい!

もうちょっと興味を示しても良いじゃあないか……。


「今人形の最新の目撃情報が入ったのだが?」


俺のその言葉に流石に少し反応を見せる。


「俺の求めてる情報と交換なら教えてやってもいいが?」

「…………。」


丁度その時ミディアから1つの動画が送られてきた。

その映像は蛇唆路最深部の監視カメラ。そこから見える鬼棲街も多少入っている。

映っていたのは建物の屋上伝いに移動するミカ。

逃げた方向はやはりイースト・エンドの方角だった。


「人形の姿の映った映像もここにある。どうだ?」

「…………確かにそれには興味がありますねぇ。」

「なら交換だ。」


すまん。きっと後でミディアからも同じ情報提供がヴィジランテにあるだろう。

だが利用させて貰う。


「飼い主の情報ですか?」

「勿論だ。」

「そうですか……。」


何か言いたげな感じだな。


「実は私もまだ辿り着いてはいないのです。」


嘘は……吐いてないか。


「ですが旧ソ連出身のハンター……。その可能性が高いです。」


旧ソ連…………。


「それだけか?何だよ。大して役に立たない奴だな。」


やはり引っ掛かるな。


「もう少しありますがあなたの番です。もしあなたの情報が本物なら私も知りうる限りの情報を渡します。」

「本当か!?」

「えぇ私は正直者で通ってますので。」


それがもう嘘じゃあねぇか!!


「それなら映像を送ってやる。何処に送れば良い?」

「あなたに連絡先を教えるのですか?不愉快ですね……。」

「口の減らない野郎だ……どうせ捨てアカだろ?」

「バレました?ではこちらに……。」


何かムカつくがアドミンにミカの映像を送ってやる。


「ほほう……。」

「人形は飼い主の元へ向かっている。ここらの筈だが場所は分からない。」

「これはとても役立つ物です。まさかあなたからこれ程も物が出てくるとは。」

「良いから早くお前の持ってる情報を寄越せよ!」

「まぁまぁそう焦らないで下さい。情報は渡します。ですがその代わりにあなたに頼みたい事があるのですが。」

「何でだ!?映像と交換の条件だろ?」

「大した事ではありませんので取りあえず聞いて貰えますか?」

「…………何だよ?話してみろ。」


俺も甘いな。


「あなたにお願いしたいのは…………。」


意外だった。

コイツの口からそんな言葉が出て来るなんて……。

だがこちらとしても願っても無い内容だった。

今回コイツとは利害が一致している。


そして俺達は互いの情報の摺り合わせを行った。


「よろしくお願いしますよ?あなたが遅ければ全てが台無しです。」

「分かってる……。だが何故急に俺を使おうと思った?帰って欲しいんじゃあなかったのか?」

「只の気紛れです。」

「…………。」


まぁそういう事にしといてやるか。


「では早く行って下さい。あなたがイースト・エンドに侵入してるのは今回見て見ぬ振りをしますので。」


いやそうして貰わないと動けないんだが……。


アドミンと別れ、俺はまた別の建物を見上げる。

彼から送られたリストの中には容疑者の数々。

その中には居る筈の無い人物。

しかしそれは俺の疑惑を確信に変える人物。


来て正解だった。特にアドミンと会えた事は……。


アンジュは大丈夫だろうか?

あの娘は間違いなく行動を起こす。

甘い考えなのは分かってる。

しかし相棒として信頼はしつつも、やはり危険な目には遭って欲しくはない。


「まぁ断然俺より高い能力を持ってるけどな…………。」


アンジュの能力は疑う余地が無い。

特にこの限定された場所では途轍(とてつ)も無い力を発揮する。


『もちろんミカちゃんを助けたいです!!!』


問題は俺の方……。

俺に出来るだろうか?ヴィジランテは常に1歩先を行っている。

でもやらなければならない。


『黒幕を探し出す事。』


俺はミディアの言った通りボラカイでもヴィジランテでも、だがしかしミカのでも正義の味方でもない。

でも……ふぁくとたむだ!


アンジュの味方だ!!!

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