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Episode 129

ボラカイを出てミディアから教えて貰った場所へと真っ直ぐ向かう。

ジメジメと降り続く雨は何だか胸糞悪い気持ちを更に憂鬱にさせた。


もう何も無い。そんな事は分かってる。

けれど足は自然とそこへ向かった。


「現場百遍って言葉もあるしな。」


いや……俺は1回目なのだが…………。


現場に入るとスッカラカンと言う訳では無かったが、綺麗に掃除がされていた。

唯1つ。この微妙に残っている悪臭。

俺はこの臭いを良く知っている。臓物が腐り始めた時の臭い。

木造の床に染み込んだ臭いまでは取り切れなかった様だ。


ここで何かが行われた。大方予想は付くがな。

それをやったのは親の方か……将又子の方か……。


全ての部屋を捜索したが、出て来るのは未だこの臭いに釣られて来る虫達だけ。

遺留品などの類は全く残っていない。


「ま!予想通りの結果だな。」


外も念の為に探してみても腐りかけの廊下があるだけ。

ラビッシュシュートも覗いてみたが、この世の臭いがしなかったのでそっと蓋を閉じた。


「もしヴィジランテがこの中まで調べていたとしたら拍手を贈りたいぞ。」

「ではして頂きましょうか?」


…………。


「その中はとっくに私達が調べました。」

「……お前なぁ。こんな場所でいきなり背後から喋りかけるの止めろよ。お前と気付かなかったら有無を言わさず撃ち殺してるぞ?」

「それは謹んでご遠慮して頂きたい。」

「…………変な日本語使うなよ。絶対(わざ)とだろ?」


俺のツッコミに更にニヤケが増すこの男。アドミンとまたしても遭遇してしまった。


「何故お前がここに居るんだよ!調べ終わったんだろ?」

「そうですね。」

「それにちょこちょこ会うが、ひょっとして俺の事が好きで付きまとってんじゃあないだろうな?」

「冗談はその顔とフザけた人生だけにして下さい。」

「何でお前が俺の人生知ってんだよ!!!」


クソ……またツッコんじまった……。やはりコイツに口先では勝てない。


「私は気になる事があってまた立ち寄っただけです。ほら現場百遍などと言う言葉もありますしね。」

「…………。」


同じ熟語が出て来た。

コイツでもそんな地道な刑事みたいな事考えるんだな。


「しかし確認は終わりましたので退散します。あなたの事は見逃してあげますので、早く帰って下さい。"一般人"のイースト・エンドへの立ち入りは禁止してます。」


俺はその言葉を聞いて確信する。


「まぁちょっと待ってくれよ。何か発見したろ?人形の親玉に繋がる事を。」


アドミンは表情を変えず振り向いた。


大方"私の表情から何か感じ取ったのか?いやそんな筈はない"と言った感じか。

いや実は全く分からないが……。


「色々知ってそうですが……もし私が何か見付けていてもあなたには関係の無い事です。」


良いぞ喰らいついて来た。


「そう焦るな。もし話してくれるなら俺にも交換材料がある。Give(持ちつ) and() Take(たれつ)で行こうや。」

「…………あなたがそこまで言うのならさぞ良い情報をお持ちなのでしょうね?」


流石はアドミン。只頑固に突っ撥ねる事はしない。

自分達の利益が大きいと思ったのなら話に乗って来る。


「人形の最後の足取りだ。」

「ほう……。」


良い反応だ。


「俺も一昨日の夜に遭遇している。お前等が捕まえてないなら俺が最後の目撃者の可能性が高い。」


嘘に真実を織り混ぜる。


「昨日の目撃情報は0だからな。」

「確かにそれは私も気になる情報ですが……。まさかあなたの家に居るとか言わないですよねぇ?」


コイツ…………。

動揺は見せたら駄目だ。

大丈夫。これくらいの揺さぶりは想定内。


「おいおいそんな猛獣を檻も無しに飼えるかよ。所でお前の方は何に繋がる情報を見つけたんだ?」

「恐らくあなたが欲しがっている情報でしょう。」

「丁度良い。それなら互いに情報交換と言うのはどうだ?」

「嫌です。」


は?


「私の持つ情報とあなたの持つ情報では信用度も重要度も違う。それに"一般人"であるあなたに、事件に関わらせる様な事も言うつもりもありませんし、あなたの情報が無くとも私達は(いず)れ人形に辿り着きます。」


そう来るか。

興味のある素振りを見せといて、最初っから情報交換などするつもりは無かったな。


「と言う訳で早く帰って下さい。聞いて頂けない場合は拘束しなければならなくなります。」

「偉そうだな。」

「現在はあなたより権力がありますので。」


良い感じにあしらわれて追い出される。

建物から出た俺はアドミンからの敵意を感じる視線を受け流しながら歩き始めた。


ピリリリリリリリリ。


丁度その時俺の携帯が着信を告げる。

普段は音は出ないようにしてあるが、何故だかサイレントモードを解除してしまっていたらしい。

その音にアドミンの視線がの1層キツくなった。


相手は…………。


「ミディアか……。」


ミカが遂に何か喋ったのか?


アドミンをチラッと確認すると興味がありそうに俺を見ている。

俺はその姿にニヤけつつ電話に出た。


「どうした?何か分かったか?」

「ユージーン!悪い知らせだけど人形が逃げたヨ!それもアンジュに危害を加えてネ!!」

「何だと!?」


意外な内容だった。

アンジュは!!?


「怪我の具合は!!?」

「軽症だヨ。でもこうなった以上ボラカイとしてもあの子を敵と認定せざるを得ないネ!」

「待って下さい!!!」


遠くからアンジュの声も聞こえる。

元気な様だ。取りあえず安心した。


「私が少し強引に迫ってしまったせいです!ミカちゃんを怯えさせてしまったのは私です!!」

「アンジュ!あの子だってこんな事したらどうなるか分かっててやったんだヨ。結局ワタシ達より自分の飼い主を選んだ様だネ。だからもう…………あ!!チョット!!!」


何だ何だ??

慌ただしくしている音が聞こえる。


「シカさん!!!!!」


すると突然大音量のアンジュの叫びが俺の鼓膜を突き破った。


「早まらないで下さい!!必ずミカちゃんは私が連れ戻しますので!!うわっ!!!!」


耳がキンキン鳴っている内にまた争う様な音が聞こえてくる。


もう何なんだ一体…………。

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