Episode 125
ふとゆめからさめる。
さいしょに感じたのはいいにおい。
今までかいだ事のない、それでもあたたかい食事だと分かる。
あたりをかくにんする。どうやらベッドの上らしい。
エアーコンディショナーがきいたすずしいへやにあたたかい毛布。
服はサイズが大きく、カジュアルなものへときがえさせられている。
こんなぬくもりを感じておきた事はあっただろうか?
しかしどこだろうここは……?
体をうごかしてみる。
「Aoleu!」
上体をおこすのがやっとだった。
体中がイタイ。おき上がるのもツライ。
昨日は力をつかいすぎたらしい。
それに右ウデも言う事をきかないし、うたれた左ウデもすごくいたむ。
ガチャッ!
いろいろ考えている内にとつぜん入口のドアがあけられた。
ウチはその音に体をきんちょうさせる。
でもうまくうごかないっ!!
「あれっ!?目が覚めたんだぁ!良かったぁ……。」
そのしんにゅうしゃのすがたを見ておどろいた。
なぜ!?なぜこの人がここに!!?
「帰って来てあなたが寝てた時はビックリしたよw それからも12時間くらい寝てたんだよ?」
その人はためらう事なくウチにちかづいてくる。
殺さなきゃ。
しかし体はまだうごかず、まわりにオノも見あたらない。
「そりゃ警戒するよね?でも安心して私は敵じゃない。」
目でいかくするウチを見て、笑顔でそう言った。
でも大人たちはみんなそう言う。
甘いコトバでさそって。そしてだますんだ。
この人も……。
「ここ座るね?」
!!!
分からない。
今この人がすわっているのはベッドのフチ。ウチの足下。
手をのばせば殺せるかもしれないキョリ。
この人は1度ウチに殺されかけた。
こわくないの?
でも……。
『お願いします!撃たないで!!』
『こんな小さな女の子が命の危険な状況下にあるのは間違ってると思います!!!』
この人が言った事がよみがえる。
何ものなのだろう?ヴィジランテのなかまに見えたけど。
「とかくこの世は世知辛い。」
!!!
「あなたが私に言った言葉。」
その声……やっぱり…………。
「それに"ウチ"って言う1人称も外国の人が使うのは珍しいの。」
あぁこの人の声に感じたモヤモヤ。
「すぐ分かったよ。あなたあのアニメ観たでしょう?"ウチ"って1人称もそうだし口癖だもんね。"世知辛い"って言うのも。私がその主人公の女の子の声をアテていたんだよ。」
ウチが好きになった日本のアニメ。
まわりにだまされてばかりの不幸な女の子の話。
「私は声優だった。ボイスアクターって言った方があなたには伝わり易いかな?」
そっとウチに手をのばしてくる。
まるで体が引きよせられるようにちかづく。
この手はうけとっていいものかしら……。
ガチャッ!
信用しかけたその時、またしてもドアがあいた。
その音にウチはあわてて元のいちにもどる。
「お~いアンジュ!様子はどうだ?」
コイツは……この男は!
あぶない。まただまされるところだった。
「もう!シカさん!?今折角仲良くなりかけたのに、シカさんが驚かすからまた警戒を始めちゃったじゃないですか。」
たぶんコイツがシカリウス。今回のターゲット。悪い大人。
ウチはぎゃくにつかまってしまったらしい。
「ごめん……。飯出来ちゃったから起きたかなって思って。」
何を言っているのだろう?
「そういう事でしたか。それなら仕方無いですねw」
コイツラはウチをどうする気だろう?
「お腹空いたでしょう?食べられる?」
ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ!
おなかがなる。
またウチは売られるのかな?
「リーシプーロってまぁお粥なんだが……甘くて子供も食べやすい様になってるから。」
シカリウスが日本っぽいナベを持って入って来る。
食事?ウチに?何のため?
どくでも入っていてウチを殺す気かな?
「シナモンの良い匂~い!流石シカさんです!凄く美味しそう!!」
おきた時に感じたにおい。
それが今目の前におかれる。
食べたらそのかわりに閉じ込めてまた"お世話"をさせるつもりかな?
「シカさんの料理は本当に美味しいからね!安心して食べて。」
こんな話があるワケない。
何も仕事をしてないのに食事がもらえるなんて。
「あっ!ごめんね!腕が使えないんだったね……。」
その時右ウデが何かかたいものといっしょにほうたいでこていされている事に初めて気づいた。
だから言う事をきかなかったんだ。
「折れてしまっているのに、今はそんな治療しか出来なかったけど……。明日動ける様になったらミディアさんの所でちゃんと治療して貰おうね。他にも沢山酷い怪我しちゃってるし……。」
こんなゆめのような話があるワケない。
「食べさせてあげる。熱いからフーフーするね?」
アンジュとよばれた女の人がスプーンをつかってナベの中から何かをすくい、それにいきをふきかけている。
この世は悪い大人たちばかり。
弱いものをよってたかってだまし、食いものにする。
「はい!ア~ン。」
もうだまされない。
コイツラ何をたくらんでいる?
「おい……。」
シカリウスがつきささりそうな目を向けてくる。
やっぱり……あれは人殺しの目。
ウチには分かる。ウチをどうにかするつもりだろう。
「ちょっとシカさん。怖がらせないで下さい。」
体をきんちょうさせるウチに、シカリウスはおかまいなしに言いはなつ。
「お前さっきから何やらグチャグチャ考えてる様だが、餓鬼は餓鬼らしく鼻水垂らして飯食って糞して寝ろ!!」
とても口が悪い。
でもフシギとこわくはない。
アンジュと呼ばれた女の人もそのコトバに笑顔だった。
「全くシカさんは表現が下手ですねw 心配してるクセにw」
「そんな事無い!放っとけ!」
さし出されたスプーンは引っこむ事なくウチを待っていた。
「さぁどうぞ。」
「フン!早く食えよ!」
あ……あ……。
思わずそれを口にしてしまう。
「美味しい?」
「…………。」
ウチは何も言わずもう1回口をあける。
「はいはいw 沢山あるからねーw」
こんな事って……。
「フーフー!はいどうぞ。」
ありえないわ……。
それでも2口目をほおばる。
「美味しいでしょ?」
笑顔で食べさせてくれる。
『キミの働きだと食事は2日に1回だな。薬代は結構掛かるんだ。それでも今までよりかはマシだろ?弟の為に頑張ってくれたまえ。』
こんなにあたたかいなんて……。
『おい!あの独房に居る警官殺しのメスガキ。お前が昨日飲み過ぎて吐いたゲロを出したら素直に食うぜ?凄ぇガキだ。面白いからどんなもの食うか色々試してみようぜ!』
人のやさしさを感じるなんて……。
『貴様は今日仕事で失態を犯した。だからまた食事は無しだ。』
タダで食事がもらえるなんて……。
「フーフー!はい!」
ありえない!!!
「おいおい……。泣く程美味い物でも無いだろうに。」
ウチはいつの間にか泣いていた。
いしに反して何口も何口もほおばりながら。
「ンフフフw シカさんは鈍いですねぇw」
「鈍い?何だよ……分かんねぇよ。」
ウチが泣いている?自分でも信じられなかった。
まだ心はこわれてなかったんだ……。
「美味しい?」
あいかわらず笑顔できいてくる。
「…………おいひい。」
食べているあいだ、ウチのなみだがとまる事はなかった。
9章完