Episode 124
「初日から姿を見られると言う失態を犯したな。」
バキッ!
つえでなぐられる。
「Простите пожалуйста.」
「今日の食事は抜きだ。」
「Да мой господин.」
「それからここでは常に日本語を話せ。」
「……はいわが主さま。」
ゆめを見た。
2日前のウチとご主人さま。
「その言い方は古い。せめてご主人様にしておけ。」
「はいご主人さま。」
「日本語教育でアニメを観せたが、やはり所々おかしくなってるな。まぁ短期間で良く馴染んだものだ。」
「はいアニメはおもしろいです。」
「貴様が何かに興味を持つとはな。ならこの仕事が上手くいったら好きなアニメを1つ買ってやる。だからさっさと片付けろ。」
「はい……ありがとうございます。ご主人さま…………。」
きびしいけどとてもやさしいご主人さま。
ゆめはさらに時間をさかのぼる。
ウチがおぼえている1番古いきおく。
ストリートにすわる弟と2人。
おやの事はまったくおぼえていない。
食べるものもなければ服は1つだけ。
ウチらはびんぼうな国に生まれ、みんながそれぞれ生きるために必死で、わざわざ知らない子どもを助けようなんて人もいなかった。
ものごいをしてゴミをあさって、そんな生活でいつしか弟はびょうきになった。
クスリを買うお金もない。たよる人もいない。
ただ弱っていく弟を見ている事しか出来なかったそんな時、となりの国から来たというオジさんにウチらはひろわれた。
ウチがオジさんの家でいっぱいはたらけば、毎日食べるものをくれるし、弟のびょうきもなおしてくれると。
もちろんウチはその話に飛びついた。
そのオジさんの事もヒーローか神さまかと思った。
さいしょは…………。
フタをあければ、何ののうりょくもけいけんもない少女に出来る事など決まっている。
ウチは毎日ちがうオジさんの"お世話"をした。
その頃はほんの小さな子どもでしかなかったウチだけど、この世にはそれが好きだと言うオジさんがいっぱいいるらしい。
ぼうりょくをふるってくる人もたくさんいて、ケガもたくさんした。
でもウチは1日おきには食べるものをもらえていて、クスリもかってくれていたので、必死にがまんしたのをおぼえている。
そんな事がつづく日々で気がかりだったのが弟の事。
オジさんにひろわれて6か月。1度も会わせてもらっていなかった。
いつも『良くなったら会える』とごまかされていたけど、ついにお客を200人取ったごほうびに会わせてくれる事になった。
そしてウチは大人のきたなさを知る……。
わたされたのは弟がきていた服。
あぜんとするウチにオジさんは言った。
『弟は助からなかった。実はとっくに死んでいたんだ。だけどキミは以前と比べてとても良い生活をしているのだから大丈夫だろ?これからもよろしく頼むよ。』
笑いながらそう言った。昨日もクスリ代がたかいと言っていたのに……。
そしてその時ようやく気付く。ウチはオジさんの名前すら知らないし、オジさんもウチの本当の名前を知らなかった。
そして食事以外のものをくれる事もなかったし、外にも出れない。
まるでオリの中の生活。
服も"仕事用"のほかはない。
はじめからウチらの事を助ける気なんてなかったんだ。
ただウチをはたらかせたかっただけ。弟は見すてられかくされた。
ウチをつなぎ止めていた"何か"はくだけちる。
そしてウチはオジさんを殺した。
どうぐなどあるワケもなく、首をしめておとなしくしたあと、ねんのため体を手で引きちぎった。
自分でもビックリするくらいかんたんだった。
あとできいた話だけど、ウチの体は力をおさえるリミッターがないらしい。
だから大人よりも強い力を出せる。
でもそのかわりにたえきれなかったホネや肉がたまにこわれた。
オジさんを殺したあと、弟のおはかを作った。
体はもうなかったので、服をそこにうめることにした。
フシギとかなしみはなくて、ただうめてあげなきゃとしか感じなかった。
たぶんこの時にはウチの心もこわれていたのだと思う。
オジさんを殺したのはすぐに他にやとわれていたメイドに見つかり、ウチはけいさつに連れていかれた。
この国のけいさつもくさっていた。
『悪い事した子はお仕置きしなきゃならないよ?』
全てを話したあとにけいさつの人も笑いながらそう言った。
ていこうもしてみたけど、3人の男の人におさえられたら、いくら力が強いとはいえ何も出来なかった。
『大人しくしろ!もう数え切れない程ヤッてきたんだろ?良いじゃないか。今更減る物でも無いし。』
かわりばんこに何回しただろう?
その時もウチは何も感じなかった。
そうしてようやく終わった時にスキをついてこの3人も殺した。
コイツラも悪い人たちだと思ったから。
けいさつとはいえアッサリ殺せた。
男たちは決まって"おわった"あとに気をぬく事もよく知っていたから。
もちろんウチはすぐに他のけいさつの人につかまり、こんどは小さなオリの中に入れられた。
オジさんの家以上にどうぶつのようなあつかいを受けた。
それでもウチはよかった。
ウチがここでちぢこまっていれば雨や風にあたることもないし、ゴミくずでも食べられるものをもらえる。
だれかをキズつけることもない。
だけどそんな生活もすぐにおわりをむかえる。
ウチはとつぜんしゃくほうとなった。
ふつうはずっとオリの中か、ヘタをしたら殺されるハズだった。
だってこの国で有力者だったオジさんを殺し、けいさつを3人も殺したから。
ただボー然としていたウチをむかえたのは、白いかみの毛をして右手につえをついたまた別のオジさんだった。
『貴様は私が買った。今からこの私が貴様のマスターだ。』
何ももってないウチはただそのうんめいにしたがうしかない。
『はい…………。』
『貴様はしっかり育ててやる。だからしっかり学び、しっかりと働け。』
またオジさんたちの"お世話"をしなきゃいけないのか……。
まぁそれもしょーがない。
『私は厳しいぞ?仕事が熟せなければ食事も寝床も与えられないと思え。』
『はい…………。』
コトバのとおりに怖い顔。
だいじょぶ。だってもうその"仕事"にはなれてるから。
『それから貴様の過去は全て抹消した。貴様には家族も居なかったし、罪も犯してはいない。』
『えっ!?』
『新しい人生をここから始めるのだ。貴様には天から授かった素晴らしい力がある。それを眠らせておくのは勿体無い。だから私が育ててやる。立派な"ハンター"に。』
それがご主人さまとの出会いだった。
それからご主人さまの下で体をきたえ、人殺しのスキルを学び、きょうようとやらも身につけた。
すぐに仕事もするようになった。
まだ人を殺す時にためらいがあったらしいウチに、ご主人さまは口ぐせのようにこう言っていた。
『我等が殺しているのは世の中に蔓延る悪だ。思い出せ!道端で飢える小さき貴様を無視し、騙した挙句に奴隷の如く働かせ、公僕である筈の警察官までもが率先して陵辱に走る様な大人達。他者を食い物にする薄汚い豚共。我等はその畜生にも劣るこの世の悪を狩っているのだ。自分の仕事に何も躊躇する必要は無い!』
そのコトバを信じた。
それからたくさんの人を殺した。
はたから見ればウチはただの人殺し。
それでもご主人さまと会ってからがウチの人生の中で1番"マトモ"になった。
だけど…………。
きびしいけどとてもやさしいご主人さま。
そう思っているのが楽だったんだ…………。
だって…………。