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Episode 120

数時間前――


「頼む!!!何でも喋るから!!!」


男は戦慄していた。

男の傍らにある椅子。その上には男を恐怖のドン底に陥れるだけのモノがあった。


「"アイツ"は今ウエスト・コーストに居る!!ダウンタウンだ!恐らく飲み歩いてる事だろう!」

「それは確かか?」

「昼過ぎにウエスト・コーストへ向かってるのを見たんだ!!"アイツ"は酒好きだからな!あそこに行くとしたら必ずダウンタウンで飲んでる筈だ!」

「そうか……ご苦労だった。」


手を出される気配が消えた男は少し安堵する。


「フゥ……全くアンタ等も趣味が悪いぜ。こんな所に呼び出して。"ソイツ"は何やらかしたが知らんが、オレはいつだってアンタ等に協力的だったろ?」

「そうだな……。」

「じゃ……じゃ情報料をくれよ。そしたらこんな気味の悪い場所とはおさらばしたい。」

「それは出来無い。」

「え……?」

「貴様はもう我等の顔を見てしまったからな。」

「そんな理不尽な!!誰にも言わない!!オレだって鬼棲街の情報屋だ!顧客の情報は死んでも渡さないぞ!」

「それに貴様は元性犯罪者らしいな?」

「そ……それは…………。大昔の話だ!アンタだって若気の至りって事もあっただろ?」

「被害者にとってみれば貴様の若気の至りなど知った事ではない。」

「何なんだアンタは!!?正義の味方気取りか???それにしちゃ酷い顔してるぜ!!アンタも"こっち"側の人間だ!!!」


男は言ってしまってからハッとする。

相手は憎悪に満ちた表情を向けていたからだ。


「おい!やれ!コイツは連中と同類だ。遠慮する事は無い。汚い豚は処分せねばな……。」

「じょ……冗談だろ?」


奥から小さい影が姿を表す。


「待ってくれよ!!!フザけるなよ!!!」


男はナイフを取り出しその小さな影に先制攻撃を仕掛けた。

しかし次の瞬間に床に平伏す事となる。


男の両足は1瞬で大腿骨から切断されていた。


「ああああああああああああああ!!!!」


断末魔の様に叫ぶ。


「よく鳴くうるさい豚だ……。どうしてくれようか……。おぉ!こんな所に黙らせるのに丁度良い物があるぞ。」

「ヒィヒィ……。止めろ……まさか……アンタそんな物をオレの口に突っ込む気じゃないだろうな!!?」


男は両脚を失ってもなお更なる恐怖を目の当たりにする。


「うぐぅぅふぅぅぅぅぅぅ!!!」


窒息しそうな声で呻く。


「良い"おしゃぶり"じゃないか!ハハハ!」


狂気じみた笑みが暗闇に映える。


「おい。コイツを遊びやすい様に"加工"しろ。この街について聞きたい事がまだまだある。」

「…………。」

「聞こえんかったのか?」

「……はいご主人さま…………。」


その後は男の声にならない悲鳴が何度も、何度も部屋の中を満していた。



―*―*―*―*―*―*―*―*―



「ハァ……俺は何やってんだか。」


右手に持ったビールの入ったグラスを見つめながら呟いた。

それでもその液体を流し込む動作を止める事は無い。


居ても立っても居られなくなり、取りあえず街に出てはみたものの……。

何をして良いかも分からず、結局ダウンタウンで酒を飲んでいる有様。


流石に酒場は首狩り人形の話で持ち切りだ。

しかしそのどれもが"人から聞いた"と言う出所不明な噂話。

オリジナルの目撃者も誰なんだか分からなくなってしまっている。


ったく……アルの奴。手伝えって言ったって俺に出来る事なんて無いじゃあないか。


今となっては俺は只の一般人。

この街でどうこう出来る人間ではないのだ。


「そんな斧振り回してるなんて女装した男だろ。」

「いいやオレは見たんだ!あれは絶対女の子だ!!」

「お前が目撃者だって!?嘘吐くな!そんな事今初めて聞いたぞ!」

「嘘じゃねぇ!!!」


やれやれ。こんな早い時間からご苦労様です。

またここの住民達が酔っ払って下らない事で熱くなっている。


「証拠を見せろよ!」

「そんな物ある訳無いだろ!!」


意地張っちゃって。

そんな嘘吐かなきゃ良いのに……。


まぁまぁ他人の喧嘩は見てる分には良い娯楽だ。

悪いとは思いつつも酒の肴に俺はその光景を楽しんでいた。


そんな余裕を見せていた俺だが、やがては殴り合いに発展し、更には周りを巻き込んでの大乱闘へと変わった事で他人事では無くなってきている。

だがここまでは良くある事さと、飛び交う様々な物を上手く(かわ)しながら無関係の立場を貫く。


「おいオヤジ!おかわりくれ!」

「ハァ!?アンタ正気か??そんな余裕があるならアイツ等止めてくれよ!店がぶっ壊れちまう。」

「何だよ。いつもの事だろ?それよりビールくれよ!」

「アホか!!収まるまで営業なんて出来る訳無いだろう!!!」


全く、やれやれだ……。

何処の誰かも分からない俺が止めたって止まらないだろ普通?

こりゃ潮時だな。


そして店を変えようかと歩き出す。

改めて見ると乱闘はかなり大事になっていた。


「あらら店の外にまで伝染してるじゃあないか。」


今日はもうダウンタウンで飲むのは無理かな?

そう考えていた矢先に何処からか飛んで来た椅子が俺の背中に直撃する。


「いっってぇ……。」


コイツ等……上等じゃあねぇか!


それをキッカケに酒を取り上げられた俺の中の怒りが周りの連中へと向かう。


「ブチ殺す!!!」


背中にヒットした椅子の脚を掴むと、取りあえず視界に入った者から順に薙ぎ倒す。

完全に我を忘れていた。こんな子供みたいなキレ方をしたのはいつ振りだろうか?

きっとこの周りの空気が俺をそうさせた。そう思いたい…………。


ピィィィィィィィィィ!!!


突然のその音に我に返る。


ヤバ!ヴィジランテが来たか……。


そして目の前に転がる人の数を見て戦慄した。

ざっと8人くらいが倒れている。


これ全部俺がやったんだよな……?


俺に止めてくれと頼んだ店主は、俺を見つめたまま口をあんぐり開けている。


これはこのままヴィジランテが到着すれば確実に俺が主犯になってしまうよな。

そんな事は御免被りたい!


俺は脚から先が完全に破壊された"元"椅子を投げ捨てると、一目散にこの場から逃げ出した。


やっべぇ……俺阿呆じゃん!!!

ドルギースみたいな事して……歳取ったおっさんが情けない…………。


俺は追跡してくる恐れのあるヴィジランテを振り切る為に東側へと向かった。

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