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Episode 119

「この付近には誰の気配も無いです。」

「ではこちらが近道なのでこちらの路地を行きましょう。」

「こんばんは。こんな所で何をしているんです?」


!!!


突然背後から話し掛けられた。

唐突な出来事に2人が同時に振り向く。


「アドミン!?こんな所で何を?」

「はぁ……それを私が聞いたのですが。」


ほんの数秒前に杏珠さんは人の気配は無いと。


「私はジョヴィアルの連絡を受けてイースト・エンドに向かっている所です。人形が出たらしいので。」

「あぁそうだ。ついさっき襲われた所だ。ジョヴィアル達が来た事で逃げて行ったが……。彼等は今追っている所だと思う。」

「襲われたのはあなた達でしたか。首が繋がってて良かったですね。」


笑えない。


「こちらは現場に居た3人が負傷しました。」

「知っている。彼等は?」

「幸い全員命に別状はありませんが、ヴィジランテはこの事態を重く見ています。と言うか話は変わりますが……そちらのお嬢さんは?」

「杏珠さんだ。ウチを通して街の住人になった。情報は渡してある筈だが?」

「よ……よろしくお願いします……。」


杏珠さんにしては元気が無い。


「あぁあなたでしたか!ふ~ん…………。」


舐め回す様にアドミンは杏珠さんを観察する。


「まぁ良いでしょう。では出口までお送りします。」

「それは心強いが良いのか?」

「もちろんですよ。寧ろあなた方にウロチョロされると邪魔なので。」


常にニヤケ顔のコイツは冗談なのか本心なのか分からない。

それにしても人見知りのしない杏珠さんが借りてきた猫の様に大人しいがどうしたのだろうか?


「こっちです。あなた方はそっちの道を選んだ様でしたが、その道の先では今ドルギースが集会をしていますので。」


そう言うとアドミンは自分達を置き去りにするのを気にもしないが如くスタスタと歩き出した。

毎日ランダムで行われるドルギースの集会の情報まで掴んでいるとは……。


自分達は言われるがままにアドミンの後を追うしか無かった。


「ディアンさん。あの方何者ですか?」


暫く歩いた所で杏珠さんが耳打ちして来る。


「アドミンです。彼もヴィジランテの幹部で、中でもトップの実力者です。参謀的な存在ですね。実は彼とは姐さんや兄さんよりも長い付き合いですが、実は未だどんな人物なのか掴めていません。ですが実力は自分より上だと確信してます。」

「そのアドミンさん。話し掛けられるまで全く"音"がしませんでした。私が最大限に警戒していたにも関わらずです。それに……今も足音がしないのディアンさんでも気付きませんか?」


その言葉の意味を少し考えて鳥肌が立った。

何せ雨が降っており、このデコボコ道には避けられない沢山の水溜りがある。

だがアドミンはそれらを踏んでも、水の跳ねる音すら立てていないのだから。


昔から謎の多い男ではあるが、久々にその片鱗を垣間見た気がする。


「彼の事はあまり気にしないで下さい。変な奴だとでも思っておけば良いですよ。」

「そうですか?」

「聞こえていますよガルディアン?」


げ……。


アドミンの後に付いて行くと、あっと言う間に街のエントランス付近まで辿り着く。

不思議と誰とも遭遇する事は無かった。

最初以外特に道を選んでいる様子も無かったのに……。

これは鬼棲街7不思議の1つに加えるべきである。


「ここまで来ればもう帰れますね?」

「あぁありがとうアドミン。」

「構わないですよ。しかしあなたが街の事に勝手に首を突っ込んで死ぬのは良いですが、死体を処理しなければならないのは私達だと言う事を忘れないで下さい。ハッキリ言ってあなたの様な大男は面倒臭いので。」


相変わらず歯に衣着せぬ言い草だ。


「それから杏珠さん?」

「はい?」

「あなたも既に街の住人です。ルールをしっかり守って良き住人で居て下さい。一般人がイースト・フロントから先へ近付くのは、基本的に禁止されています。」

「昼間の事も全てお見通しでしたか……。」

「シカリウスにもよろしく伝えて下さい。彼はもうヴィジランテではありません。余計な事で街に迷惑を掛けない様にと。まぁ今も勝手な行動を取っている様ですが……全く。」

「シカさんが何処に居るかご存知なのですか!?」

「居場所は知りませんが、誰かを捜している様です。それは人形と関係してるかもしれませんねぇ。」


そう言って意味ありげに自分を睨む。


きっと人形が兄さんを追って事件を起こしてる事ももう知ってるよな……。


「あれ?あそこ!ヴィジランテさんの団体がいらっしゃいます!」


今正面に見えている通りを真っ直ぐ行くと、ヴィジランテの集会所が見えて来る。そこから来たのだろう。


「あれはヒロさん達ですね。我々のリーダーです。彼等もこれから人形討伐に向かいます。身内が余所者に手を出されて黙っている訳にはいかないですからね。」

「討伐???」


ヒロ……。


武装しているその腰にはシグP220を下げている。


本当に馬鹿だな……アイツも…………。


「さぁ早く帰って下さい。私もヒロさんの後を追い掛けねばなりませんので。」


突き飛ばされる様に追い払われる。


「分かった分かった!お手柔らかに頼む。杏珠さん、今日は大人しく帰りましょう。あまり邪魔をし過ぎると懲罰棟に連行される恐れもありますので。」

「でもでもあの子……。」

「杏珠さん!」

「それにシカさんだって……。」

「大丈夫ですよ。貴女のパートナーは恐らく現在もこの街で1番強いですから。」


その言葉にアドミンはあからさまに不機嫌な態度へと変わる。


「まぁ今のは聞かなかった事にしましょう。私は早くあなた方に出て行って貰いたいのでね!」


…………。


「行きましょう杏珠さん。」

「は……はい。」


鋭い視線を背後に感じながら杏珠さんと自分はふぁくとたむのビルへと戻った。


「あのお人形さん……ヴィジランテさんにどうされてしまうのでしょうか。討伐って……。」

「先に手を出したのは人形の方です。運が良ければ街を追い出されるだけで済むかもしれませんが。」

「まさか殺されてしまったりしませんよね?」

「どうでしょう……。そこはヴィジランテの采配に依る所です。しかし自分達からすれば敵である存在の心配なんて。」

「ディアンさん、あの子の姿良く見ましたか?どう見ても小学生くらいの小さな女の子でした。」


身長もまだ成長してなければ身体も華奢だった。


「そんな子があんな危ない物を持って、人を襲う様な事をして……そして殺されてしまうかもしれないなんて…………。」


杏珠さんは純粋だ。

世界では少年少女のゲリラなど幾らでも居る。

日本の様に平和な国では余計に考えも及ばない存在なのかもしれないが。

しかしそんな子達が簡単に殺されてしまう世の中には自分も反対したい。


「きっと何か理由があるんだと思います。いくらディアンさんを襲ったからって、いくらシカさんを狙っているからって。まだ自身の力で正しい判断をする事も、誰の助けも無く生きて行く事も出来ない筈です。ならばあの子は……。」


犯人は複数犯…………。


「とにかく自分達が今何かを出来る訳ではないので、あまり考え込まない様にして下さい。ヴィジランテ達も血の通った人間ですので情状酌量はある筈です。」

「そうだと良いのですが……。」


そう言って見せた悲しそうな顔を最後に自分達の冒険の1日は終わりを告げる。

未だ兄さんの戻らないふぁくとたむのビルに杏珠さんを残して行くのも心配だったので、今夜はボラカイへと連れて帰る事にした。

互いに何処かやり切れないモヤモヤを心に残したまま。


結果を言うとその日に人形が捕まる事は無かった。

そして兄さんからの連絡も無かった……。

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