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Episode 118

「僕はいつイースト・エンドに迷い込んだのかな?」


ジョヴィアル!!


「アルさん!」

「杏珠ちゃん!それにガルディアンも!何がどうなってるのさ?その脚の怪我……。そこに転がってるのは僕等の仲間だよね?それに……その子…………。」


ジョヴィアルの視線の先には小さい身体で堂々とその場に佇む人形。


とにかく(ようや)く救援が駆け付けてくれた。

少しは状況が変わってくれるだろう。


「ジョヴィアル!その子が例の人形だ!」

「何か……見たまんまだね!」


自分の第1印象がコイツと同じレベルだった事が悔やまれる…………。


「あら……?ゾロゾロと来てしまったようね。さすがに分が悪いかしら?」


到着したのはスリーマンセルのチームが3組。合計9人。

人形も武装したこの人数は相手に出来無い様だ。


「おっと!逃がさないよ!皆んな出口を固めて!!」


攻撃の手を止め、逃走の体勢に入ろうとする人形を制止する。


「ハァ……アナタたちもウチからうばっていくのね…………。」

「何を言ってんのこの子!?先に街の人間に手を出したのはそっちでしょ??」


ジョヴィアルも人形の異様な雰囲気を感じ取ったのか、各リーダーに銃の使用を促す。


「アルさんお願いします!撃たないで!!」

「そんな事言ったって杏珠ちゃん!この子かなりヤバイよ!手を抜いたらこっちがやられる!!」


ジョヴィアルも子供の頃からこの街に住んでいるのだ。

子供だろうと女の子だろうと油断は出来無い事を良く知っている。


「それでも……それでもやっぱり私は子供が……こんな小さな女の子が、命の危険な状況下にあるのは間違ってると思います!!!」


身長は130cm位だろうか?

確かにそんな子が現在自分も含めると11人の武装した男達、銃は合計5丁に囲まれている。

一般の感覚で言うと相当異常な光景だ。


「世知辛い……。」

「えっ!?」

「とかくこの世は世知辛い。」

「その言葉って……。」


人形は再びニッコリと微笑んだ。


「アナタふしぎな人ね。アナタみたいな人がもっと多ければこの世も生きやすいのかもしれないけど……。」


人形は斧を振り上げる。


「杏珠さん!!!」

「杏珠ちゃん逃げて!!!」


次の瞬間ヴィジランテは一斉に人形へ発砲を始める。

しかしそれよりも早く振り下ろされた斧は床を引き剥がし、壊れて舞い上がった破片は人形の盾となった。


人形は!?杏珠さんは!!?


「ケホッ!ケホッ!」


一緒に舞い上がった埃を吸って杏珠さんが咽せている。


良かった!無事の様だ。


ドォォォォォォォォン!!!


今度は店が崩れたかの様な大きな音が響く。

音の発生源を見ると、その場所にあった筈の壁は大きな穴が開き崩れていた。


「逃げられた!追うよ皆んな!!」


人形が出て行った穴にヴィジランテが走り出す。


「ガルディアン悪いけどそっちに構ってる暇は無くなった。自分達で何とかしてくれ!」

「あぁすまない大丈夫だ。ありがとう!」

「アルさん……お願いします……ケホケホ。あの子を助けてあげて……。」

「…………。」


杏珠さんの願いにジョヴィアルは答える事無く、ヴィジランテの1団と共に人形を追い掛けて行った。


「あぁ……店が…………。」


店主が嘆いているが、同情の言葉を掛けてやれる程こちらにも余裕は無い。


「ハッ!!!そうだ!ディアンさんを手当しないと!」


自分の右脹脛(ふくらはぎ)は血が溢れ、かなり壮絶な事になっている。

しかし刃は筋に対して横ではなく縦に入ったのが幸いだ。

後遺症が残らない様祈りたい。


「すみません。ありがとうございます。」


杏珠さんは店から救急箱を貰って手当をしてくれている。


「しかし手慣れていますね?経験が?」

「経験って程でもないんですが……1度凄い大怪我を手元にある物だけで治療した事があるので……。」


普通の人なら引いてしまう程の血が出ているのだが、何ともまぁ手際が良い。


暫くするとヴィジランテの増援が到着し、仲間や怪我した客の治療を始めた。


「良かったです。これで皆さん助かりますね!流石に私1人で(こな)せる人数ではなかったのでw それに道具も足りませんでしたし。」

「善良な住民の保護はしっかりと行う。普通なら恐れられるだけの存在であるヴィジランテが尊敬もされている所以です。」


そうこうしている内に自分の治療が終わる。

消毒をして包帯でしっかり巻けば歩く事くらいは出来るだろう。

戻ったらちゃんと縫わないといけないが。


救急箱の中には痛み止めも入っていた。

今度改めてこの店にはお礼に来よう。

再建も手伝ってあげなければ。


「ありがとうございました杏珠さん。」

「どう致しまして!」


さて…………。


「もう自分達に出来る事はありません。今日は帰りましょう。」

「そう……ですね……。」


だが外はすっかり陽が落ち、雨が再び降り出した。

何とか立ち上がり店の外へと歩き出す。


「薬と包帯をありがとうございます。明日ボラカイから復興の手伝いを送りますので気を落とさないで下さい。」

「そうか……すまないな。」


それでも店主の声には元気が無かった。


「っつ!!!」


1歩歩く事に痛みが走る。

市販の痛み止めでは効果があまり無い様だ。


「無理をなさらないで下さい。肩をお貸しします。」

「大丈夫です。ですが杏珠さん。」

「はい何でしょう?」

「問題が1つありまして……。」

「問題ですか?」

「はい。もう夜になってしまいました。帰り道が危険になるという事です。」

「そうですか?何とかなりますよ!w」


そんな呑気な……。


「ですが自分が怪我をしている以上、誰かと遭遇して戦闘になってしまったら杏珠さんを守れません。」

「それなら誰とも遭わない様に帰れば良いだけですね?」

「だけですねって……そう簡単な事ではないと思いますが。ほぼ運頼みです。」

「フッフッフ!ディアンさんは何故私がシカさんの最強の相方であるかお忘れですか?」


えーっと…………。

自信満々にしているが何だっけ?

兄さんが杏珠さんを褒めていたのは声と耳。

だがそんなものでどうすると?

いや待てよ……耳……?


!!!


「そういう事ですか杏珠さん!!」

「フッフッフ!どうやら気付いてしまった様ですね!この私の!最強の特技の使い道を!!!」


ついこの間、兄さんが絶賛した杏珠さんの耳の良さを体験させて貰った。

目隠ししたまま姐さん、兄さん、そして自分の足音を見事聞き分けていた。しかも隣の部屋からだ。


「そうです!人の出す音を聞いて避けて行けば誰とも遭遇せずに帰れます!」

「ですがそんな小さな音まで聞こえるのですか?」

「大丈夫です!集中する必要がありますが。」


そんな人間離れした能力……手品の様な物だと思っていたが、何せ兄さんのお墨付きだ。


「やってみましょう。現在ヴィジランテを頼れない以上他に方法もありませんからね。よろしくお願いします。」

「よし!行きましょー!!!」


灯りも乏しくなる夜の鬼棲街。

ダウンタウンを離れると街灯は殆ど無くなる。

だが雨足はそれ程強くない。視界は確保出来そうだ。


「えと……えと……。」

「どうしました?やはり聞こえませんか?」

「いえ……音は聞こえるのですが、家はどっちでしょう?w」

「………。」


そりゃそうだった。杏珠さんは今日初めてこの街の奥に来たのだ。方角なんて分からないだろう。

そこで自分が方向を決め、杏珠さんがその中から道を選ぶと言う方法を取った。


杏珠さんの聴力には改めて驚かされる。

耳を澄ますだけで本当に誰か居るかどうかわかるらしい。


「雨の音が邪魔で少し精度が落ちていますが……。」


そう言う杏珠さんだが今の所誰とも遭遇してない。

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