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Episode 117

「がぁっ!!!」


痛い!!

思わず声が漏れる程の激痛。


痛い?何処が?

首!?頭!?いや脚だ!!!


脹脛(ふくらはぎ)にチリチリと熱くなる様な痛み。

恐る恐る目を開けると斧は自分の中心線を逸れ、右脚に刺さっていた。


「またアナタのその声……。」


人形が呆れた様な声と共に、自分の脹脛(ふくらはぎ)を貫通して床に刺さった斧を抜く。


「ぐあぁぁぁ!!!」


更なる激痛と溢れ出始める鮮血。


「手元がくるったじゃない。」


自分はその痛みに耐えながらも口元はニヤけていた。


生きてる……まだ生きてるッ!!


だが状況は悪化の一途を辿っている。

これでより1層次の攻撃は避けられなくなった。

千切れる寸前だが右脚はまだ繋がっており、骨も無事ではあるがまともに動けるかどうか……。


人形は空かさず追撃の体勢に入る。


どうする!?どうする!?


「止めて!!何故こんな事をするの!?」


何と杏珠さんが自分と人形の間に割って入った。


「杏珠さん危険です!!退がって下さい!」

「いいえディアンさんお怪我をなさっているのに退けません!」

「ディアン……?」

「はいこの方はガルディアンさんです。あなたはディアンさんに何か恨みがあるのでしょうか?」


苦笑いの様な表情に変わった人形は構えていた斧を下ろす。


「あら……それはごめんなさい。人ちがいだわ。」


…………。


攻撃を……止めてくれたのか?


全身に脱力感と疲労感が駆け巡る。

そしてその時になり(ようや)く自分が銃を持っている事を思い出した。


全くもって情けない。

また杏珠さんに助けられてしまった……。

しかも今度は命を。


「あなたは……自分のしている事を分かっているの?」

「なぜ?何かいけない事なの?これはウチの仕事だもの。人を殺せばお金がもらえる。お金があれば食事がもらえる。食事がもらえればおなかがすかない。ふつうの事じゃない?」


そういう事か……。この歳にして立派なハンターなのだこの子は。

自分達とは完全に別次元の倫理観の中で生きている。

この子から感じる寒気は純朴な狂気。自分達の価値観とは相容れない。


「普通じゃないよ……。子供が……そんな事……。お金の為に人殺しをするなんて……。」


いつもニコニコの杏珠さんは何処へやら。深刻な表情だ。


「別に人間なんてはいてすてるほどいるじゃない。ウチが数十人、いえ数百人殺したところで何も変わらないでしょ?」

「そんな…………。」

「それにこの世は悪い大人であふれているの。他人を食いものにする人たちばぁっかり。だから殺すの。」

「酷い……。何故あなたの様な小さな子がそんな事をしなければならないの……?酷いよ……。」


歳は関係無いのさ杏珠さん。この鬼棲街でも未成年による犯罪は他に比べて多い。

子供と言うのは意外と残酷な生き物だ。

自分達もそうだった……。あの頃のドルギースで…………。


「ひどい?そうでもないわ。だってウチが人を殺せばよろこんでくれる人もいるもの。」


それでもこの人形はやはり特殊だが……。


あどけない笑顔でそう言い放つ彼女からは、その可愛らしさとは裏腹に狂気しか感じない。


「間違ってる…………そんな事は間違ってる!どんな理由があれ、人を殺す事は正当化なんて出来無い!」

「ならどうするの?」


人形の表情が曇る。


ヤバイ!


「杏珠さん!もう止めて下さい!彼女と自分達は住む世界が違うんです。絶対に分かり合えない。」

「そんな事ありません!私がこの子を救ってみせます!!」

「さっきから思っていたのだけど……アナタのその声で言われるとすごくモヤモヤするわ。なぜかしら?」


人形から笑顔が消える。

もう危険だ。


「あなたをふぁくとたむに連れて帰ります。」

「何を言ってるのです!!人形は兄さんを…………。それにその子はもうヴィジランテに手を出してしまった。彼等はそれを許さない。」

「連れてく?ゆるさない?やっぱりアナタたちはじゃまをするのね?」


しまった!


人形は斧を構え直す。


「じゃまをするならみんな殺さないと。」


クソッ!ヴィジランテの増援はまだか!?

せめて杏珠さんだけでも……。


右手に銃を取り出す。


「私を殺してあなたの気が済むならそうして。でも少しでも私達に興味があるならお願い!皆んなが幸せになる方法を考えよう?」

「それならアナタを殺すわ。だってみんなが幸せになる方法なんてないもの。」

「杏珠さん!!早く逃げて下さい!!!もう何を言っても無駄です!」

「嫌です!!!」


この頑固者ー!!!


人形は杏珠さんの方へと徐に歩き出す。


こうなったらやるしかない。

少女を撃つのは正直気が引けるが仕方が無い。迷ってる暇はもう無いのだ。

あれは少女の皮を被った化け物。自分に言い聞かせる。


杏珠さんがこちらを見てなくて良かった。

もし人形を撃つのがバレたら自身を盾にしてまで守ろうとするだろう。

そういう人だ。杏珠さんは。


後で怒られようが殴られようが絶縁されようが全て受け入れる。

今杏珠さんを守る為なら!


パァァァァン!


再び雨が降り出しそうな湿った空気に乾いた音が響いた。

同時に人形の左手からは血が流れ出す。


何だ!?まだ自分は撃ってない!


「ザマァ見やがれ!クソ人形が!」


声の方向を見ると、意識を失っているヴィジランテのリーダーの懐から銃を抜き取って構えている男。さっき乱闘を起こしていた1人だ。


「あら……これは……。」

「大変!!大丈夫!!?」


ブゥォォオン!


駆け寄ろうとした杏珠さんを斧で振り払う人形。


「杏珠さん気を付けて!」

「大人しくして!手当をしてあげるから。」

「そんな事言ってアナタも信用ならないわ。それより……。」


人形が自身を撃った男に向き直る。


「うっ……!」


怯える男。


「来るなら来やがれ!撃ち殺してやる!!」

「お願いします!止めて下さい!!」

「さっきからアンタは何で殺人鬼の肩を持つんだ!?」

「それは……。」

「ソイツは下界の人間だ。下界の奴がこの街で問題を起こせば殺されても文句は言えない。()してやソイツは街の住人を何人も殺している!」

「でも相手は子供ですし……。」

「歳は関係無い!!」

「ほら……ウチがみんなを殺せばなかよくあの世に行けるじゃない。今かいけつしてあげるから……。」

「コイツ!!」


現場は混乱している。


どうしたら?

動く事も出来無い自分に何が出来る!?


しかし目的の定まらない銃の照準も床を向いてしまっている。


自分にも姐さんの様な決断力があれば…………。


「何これ!!?どーゆー状況???」


この声は!

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