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Episode 116

人形だ…………!!


このリボンは間違いなくあの1部。

格好が情報そのままではないか!


まるで只の客であるかの様にツカツカと店の中に入って来る人形。

彼女以外時間が止まったかの様に動かず、誰も何も言葉を発しなかった。


何故ここに居るのだ?

昨日一昨日と人形が犯行に及んだのは深夜。

今日はまだ陽も落ちていない。


まるでここに居る全員が白昼夢でも見ているかの様な気持ちだっただろう。


人形は不気味な笑顔を携えながら、中に居る男達を物色する様に見渡す。

やがては何故か自分の方へと歩み寄って来る。


「アナタかしら……?」


普通に可愛らしい少女の声だ。何の変哲も無い。

しかしその声は自分の背筋に恐ろしい程の寒気を走らせる。


ヴィジランテも完全に固まっている。

そして自分も人生で2度目の動きたくても身体が動かないと言う状況を味わっていた。


人形は斧を構える動作を始める。それでも身体は動かない。


杏珠さんは!?杏珠さんは何処だ??安全な場所に居るのか!!?


こんな状況でも他人の心配だ。

自分の性格はつくづく損だと感じる。


動かない首にもどかしさを感じながらも横目で杏珠さんを捜す。

彼女は自分の正面、人形の背後の方に居た。

青褪めた表情をしている。

しかし自分と目が合った瞬間に何かに気付いた様な……そして思い切り空気を吸い込む様な動作をして何かを叫んだ。


最初に感じたのは音ではなく、ビリビリと伝わる空気の振動。

まるで柔らかい空気砲でも浴びた様な衝撃波に近い。

その力強く響く声は、自分の身体を縛っていた"何か"を吹き飛ばした。


「ディアンさん!!!避けて!!!!!!」


今まで飛んでいた感覚が戻り、それと同時に途轍(とてつ)もない殺気が自分を襲う。

本能的に攻撃の意思と箇所を感じ取り、首と身体を捻って回避を試みた。


ブゥォォオン!!


耳元で何かが高速で掠めて行く音。

その物体は耳の先にある横髪を水平に刈り取る。

回避行動に体勢を崩しながらも、しっかりと人形だけは視線の中に捉えていた。


「あら?今のをよけるの?アナタ強いでしょ?」


斧を振り切る動作も終わらない内に、人形は不気味な笑顔を崩さないまま次の言葉を発した。


コイツは相当ヤバイ!

本能がそう警告している。


ピィィィィィィィィィ!!!


杏珠さんの叫びにヴィジランテも我に返ったのか警告音を発した。


「人形だ!!!捕まえろ!!!」


ヴィジランテが一斉に人形に飛び掛かる。


「街の住人を殺った奴だ!オレ達も行くぞ!!!」

「「「おう!!!」」」


元々血の気も多い客達も人形へ向けて突撃した。


「じゃまするの?ウチ……アナタたちきらい。」


今度は横一閃に斧を振ると近くにあったテーブルを粉々に破壊する。

その破片は周りの人間に突き刺さり、彼等の動きを止めた。


「痛ぇ!!!」

「怯むな!!相手は小さな女の子だ!!!」

「……うるさい虫みたい。」


次々に飛び掛かろうとする者達に、人形は恐ろしく速い1撃で近くの物を破壊し、その度に破片は彼等に降り注ぐ。


「クソッ!コイツ人間じゃねぇ!!!」


数秒の内に制圧されてしまった。


「あぁ……店が……。」


店主が嘆くがそれどころではない。

人形に最も近かったヴィジランテの3人には、大きな破片が刺さり全員床に倒れ込んでいる。

生きてはいるだろうが戦闘不能だろう。


そして人形は自分の方へと向き直る。


何だ!!何なんだこれは!!!

何故自分に向かって来るのだ???


あまりの出来事に隠し持っている銃を出す事も忘れてその場に佇む。


「今殺してあげるから。」


可愛らしい顔に似合わないセリフを笑顔で吐きつつ、人形が次の1撃の動作に移る。


今度こそやられる!!


人形の持つ斧は自分の首へと目掛けて動き出していた。


ピィィィィィィィィィ!!!


警告音!?


その音を聞いて恐怖の呪縛から身体が開放された。

上体を反らし、またしても間一髪で人形の攻撃を避ける。


ブゥォォオン!!


今度は鼻先を掠める刃先。

この小さな身体でその大物を振り回す力は尋常ではない。


「ヴィジランテを……舐めるなよ…………!?」


ヴィジランテの1人が最後の力を振り絞り、2回目の警告音を発してくれた。

時間を置かずに放つ2回目は救援を呼ぶ為の物。

3人では対処出来無い状況に遭遇した場合に使用される。

例えば時に10人前後を引き連れて行動する事もあるドルギーズに遭遇した場合、3人ではどうにもならない。

正に今がその状況だ。


「あらまた……ざんねん。」


人形は笑いながら悔しがる。

ヴィジランテの事は気にも留めていない様子だ。


「クソッ!!何故自分を狙う!?」


情けない格好になりつつ、声まで震えてしまう。


「う~ん……だってアナタ……シカリウスでしょ?」


シカリウスだって!!?何て事だ…………。

やはり人形の狙いは兄さんか!


「ここにいるって言われたし、聞かされていた背の大きさだし。」


確かに自分と兄さんの身長は同じくらいだ。

だからってそれだけの理由で襲うのか!!?


「まぁアナタが誰でもいいわ。だってけっきょくは殺しちゃうから。」


今度は全身に寒気が走る。

自分でも信じられなかった。

人形と自分で体格差は人間と大型熊程の差があるだろう。

しかし恐怖しているのは自分の方だ。

この得体の知れない小さな生物に恐怖している。


「じゃおとなしく死んで?」


3撃目が来る!

落ち着け。今は以前の2回とは違い、まだ心に余裕がある。

それに人形は首を落とす事に拘っている。

次も狙うのは必ず…………。


!!!


邪魔の入らなくなった3撃目は予想以上の速さで自分を襲う。


ブゥォォオン!!!


1瞬自分の首が繋がっているか不安になったが、1歩退いた事により辛うじて喉仏の皮が切れただけで済んだ。


「本当にしぶといのね。」


切傷からは薄っすらと血が流れる。


「うわ!!」


しかし避ける事に必死で体勢を崩してしまった自分は、そのまま床に尻餅を搗いてしまう。

空かさず人形は上から振り下ろす動作に入った。


「おわりだわ。」


しまった!今度こそ避ける手立てが無い!


周りを見ても助けに入ろうなんて奴は居なかった。

負傷し(うずくま)っている者、我先に逃げた者、只呆然と状況を見てる者。

所詮はこんな物だ。鬼棲街と言うのは。


兄さん……姐さん……すみません。


もう神に懺悔をする余裕も無さそうだ。


人形の斧は重力の力も加わり、自分目掛けて加速を始める。


せめて杏珠さんの無事だけでも祈ろう……。


そう覚悟を決め目を閉じたその時。


「止めて!!!!!!!」


またも柔らかい衝音が自分を包み込む。


グシャ…………。


そして斧が床に刺さる鈍い音。

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