Episode 115
「丁度良い時間となりました。この先の酒場が並んでいる場所に行きましょう。」
「先程言っていた場所ですね?行きましょー!でも私ヴィジランテさん達ってもっと怖い方々を想像してしまっていましたが、実際は真面目なお巡りさんみたいですね!反省です……。」
「いえ普段は警察の様な職務をしてますが、実際ルールを破った者に対しての慈悲は一切ありませんので、杏珠さんの想像も間違ってはいないと思います。」
「そ……そうなんですね…………。粗相のない様にしなければ……。」
時刻は16時となった。
昼間から営業している店も多いが、この時間にもなると道にはみ出す様に椅子が並べられ、人々がその椅子や店内でも酒を飲んでいる。
「ここはこの街で唯一認可のある酒場が軒を連ねる場所です。ヴィジランテも常に巡回してますし、夜でも人が多いのでアンブラやドルギースも近寄りたがりません。それに外で酒を飲めるのは一定の収入がある人達だけです。この街で金があると言う事は、その人は安定していて犯罪を犯す可能性が低いので、まだ安全な人達が集まってる筈なのですが…………。」
ガッシャァァァァァン!!!
「オラァ!!!」
「ぶっ殺す!!!!」
「やっちまえ!」
「この野郎!!!」
「お前等ァ!!喧嘩するなら外でやりやがれ!!! 」
右の店では大乱闘が起こっている。
「ま……まぁ喧嘩は酒場の華と言いますか……アハ……アハハ…………。」
映画等でお馴染みのシーンだ。
西部劇なんかだと大体酒場で喧嘩になる。
パリィィィィン!!
バコォォォォォォン!!
食器やら椅子やらが飛び交っている。
「ちょ!危なくないですかディアンさん!私達も巻き込まれてしまいます!!」
乱闘が通りにまで波及し始め、こちらにも人が流れて来ている。
「流石にヤバイですね。落ち着く迄一旦退きましょうか……。」
ピィィィィィィィィィ!!!
その時甲高いホイッスルの様な音が木霊した。
「うわ!!!今度は何でしょうか???」
「ふぅ……。来ましたか。取りあえず一安心です。」
その音に殴り合っていた人達は手を引っ込め、椅子を振り回していた者もそれを投げ捨てる。
乱闘は急激に沈静化しつつあった。中には一目散に逃げ出す者も数名。
あれ!?今……気のせいか……?
「今の音何ですか?」
「今のはヴィジランテによる警告音です。ほら!あそこです!」
通りの奥から警棒で武装した3人組が姿を表す。
"VIGILANTE"の文字の入った防弾ベストを着た2人と、先頭のリーダーの腰には拳銃が備わっている。
ヴィジランテスリーマンセルの形だ。幹部1人に補佐が2人。
「乱闘を止めろ!!!これ以上この場所で騒ぐ様なら武力行使する!!!」
その雄叫びに近い声に乱闘は一気に収束した。
暴れていた者達はその場で手を挙げている。
「全く……この忙しい時に善くもまぁ毎日何処かで暴れてくれるよな、ここの住人は……。」
リーダーの男がボヤいた。
「……あれっ?ガルディアンじゃないか!?こんな所で何してる?」
脇の路地から別の3人組も合流して来た。
「あぁちょいと仕事でな。」
「ふ~ん。」
こっちのリーダーが杏珠さんをチラリと確認するが興味は無さそうだ。
「それより逃げた奴を見たか?」
「2~3人そこの路地に逃げたぞ。」
「そうか。サンキュー。おい!そっちの班は逃げた奴を追い掛けてくれ。アンブラの可能性がある。班長はセーフティを解除しておいた方が良い。無理はするな。ヤバそうなら仲間を待て。」
「あぁ分かった!」
1チームが逃走者の追跡を始め、辺りは完全に静けさを取り戻す。
「ちょっと付き合えガルディアン。」
そう言うとソイツは乱闘のあった店へと入る。
「何だよ!?」
自分と杏珠さんも続けて店に入った。
店は散乱していて座る場所も儘ならないので自然と立ち話になる
「で?お前の仕事とは何だ?ガルディアン。まさか何か口実にそっちの娘とデートでもしてるんじゃないだろうな?」
「とんでもない!自分達は人形事件の聞き込みに来たんだ。こちらの方はふぁくとたむの杏珠さんと言って、今日の捜査を手伝ってくれている。」
「初めまして!よろしくお願いします!!!」
「…………こんな若い娘がシカリウスのパートナーだと?」
怪訝そうな顔を見せる。
その顔にも杏珠さんは臆すること無く笑顔で返した。
「お前は兄さんを知っていたっけか?」
「いや……面識は無い。しかし話は良く聞いている。何せソイツが戻って来てからヒロさんは常に心ここにあらずって感じだからな。」
あの頃姐さんや兄さんと一緒にヴィジランテを盛り上げたメンバーは誰だったっけ?
自分とヒロ、それにアドミンやジョヴィアル、ヤンクも居たな。他にもまだまだ居た筈だがもう死んでしまった者達や、ヴィジランテから抜けてしまった者達も居る。
「とにかく何か因縁があるんだろ?ヒロさんと。」
「ヒロが一方的に嫌っているだけだけどな。まぁヒロも心中複雑なんだよ色々と……。それよりお前等は後を追わなくて良いのか?」
「良いんだ。実はこの班は例の人形出没への警戒担当だしな。だから寧ろお前が知っている事に興味がある。」
「自分達が知っている事などもうヴィジランテは知っているだろう?何せついさっき人形は単独犯ではないと知ったばかりだからな。しかし……この場で聞き込みをする雰囲気では無くなってしまったよ。」
我に返った騒ぎを起こしていた者達や、周りの飲み屋の客達も滅茶苦茶になった店の修復を手伝っている。
「暇なら片付けるのを少し手伝ってくれ。こんなのもヴィジランテの仕事だ。」
そう言って3人も散らかった椅子やテーブルを直し始める。
「いや暇ではないが……。」
「ディアンさん!お手伝いしましょう!」
「杏珠さんが良いなら……。」
自分達もそれに参加した。
30分位手伝っただろうか?
気付けば外は陽が落ち始めていた。
「杏珠さん。そろそろ自分達は帰らないと。」
「そうですか?まだ完全には片付いて無いですが……。」
「いや後はこちらでやる。すまなかったな手伝わせて。」
「お安い御用だ。手伝える事があったらいつでも言ってくれ。」
「感謝する。」
そう会話を交わし、帰り支度を始めた頃……。
カランカラン。
直したばかりの入口のドアの鈴が鳴る。
ドクン……。
その瞬間に店は異様な空気に包まれた。
突然の出来事に修復作業をしていた者達もその手を止め、ヴィジランテも呆気に取られた表情で皆訪問者に注目する。
自分もその姿を目視した瞬間に誰だかすぐに勘付いた。
ドクン……ドクン……。
ヒラヒラした装飾をあしらった黒いドレス。
端正な顔立ちにブロンドヘアーの小さな少女。
何より手にはその身長に釣り合わない大きく長い斧。
ポケットに入っていたリボンを取り出す。
ドクンッ!!
更に心臓が大きく鼓動した。