Episode 113
セナテの集会所を後にして次の目的地へと向かう。
「でも当たり前の事ですが、私の知らない事がこの街にはまだまだ沢山ありますね!」
「セナテやドルギースの事ですか?兄さんは何も?」
「シカさんはこの街についてはあまり話してくれなくて……。」
「それならば歩きながら簡単に説明しましょう。」
自分の口から話して良い物か分からないが……。
「まずこの街の力関係は大きく分けて4つの勢力に別れています。1つは姐さんと兄さんの作った最大勢力のヴィジランテ。実質この街を支配していると言っても過言ではありません。」
「えぇ!!?ちょっと待って下さい!ミディアさんとシカさんが作ったんですか???」
「あれ?知りませんでしたか?もう今はお2人共関わってはいませんが。」
「全然知りませんでした!!!」
マズったかな……敢えて話してなかったのか…………。
「まぁその話は追々と言う事で……。ヴィジランテは治安維持や住人の管理ももちろんですが、街の外との外交も行う政府的存在です。彼等無くして今のこの街は成り立ちません。」
「凄い方々なのですね!そう言えば今日アルさんと言う方にお会いしました!!」
「アルって……ジョヴィアルですか!?」
「あっそうです!」
兄さんの所に訪問していたのがジョヴィアルだとすると、やはり兄さんは事件を知っていると言う事になる。
しかし何故ジョヴィアルなんだ?
あのアホ兄さんに変な事吹き込んでないよな?
「アルさんが何か???」
「いえ……大丈夫です。それより続きをお話します。」
今はそんな事気にしてても仕方が無い。
「次に先程の年長者達が集まる組織セナテです。街を動かせる程の実権はありませんが、住人の中には彼等の言う事なら従う者がいます。なのでヴィジランテも彼等とは上手い具合に関係を保っている様です。」
「成る程です!」
「それから話に上がったドルギース。これは分かりやすく言えば少年ギャングですね。メンバー全てがフォセイクンキッズと呼ばれる10代以下で構成されているが故に怖い物知らずで、仲間以外の言う事は聞きません。鬼棲街の主だった犯罪の半分以上は彼等に依って引き起こされています。なのでヴィジランテとは敵対関係にありますね。しかし身寄りの無い子供にとっては、自身が売り物になるかドルギースに入るかの2択しかありません。弱肉強食のこの街で子供達が生き延びるには、それもまた必要な組織でもあると思っています。」
「何か……アニメの中の話を聞いている様です。」
「残念ながら現実の話です。そして最後の勢力。これは勢力と言って良いのか微妙な所ですが、ヴィジランテでも実態を掴み切れない鬼棲街の闇の住人。彼等を総称してアンブラと呼んでいます。陽の当たらない場所でしか活動しない為そう呼ばれ始めました。それに彼等の殆どが外部から鬼棲街にビジネスの為に入っています。質の悪い犯罪は彼等に依るもので、アンブラはこの街の癌だと言われています。」
「よりアニメっぽくなってきました!」
「ははは……。」
VigilanteにSenate、Forsaken Kidsに依るDroogies。そしてUmbra。
確かに物語で言えば良い感じに役者は整っている。
もしこの世界が物語とするならば、主人公は兄さんが適役だろう。
ヒロインは……姐さんか杏珠さんか……。
自分としては杏珠さんになって貰えれば…………なーんてアホな事考えるのは止めよう。
目的地は事件の現場となった場所。
一昨日はイースト・エンドで起こり、昨日はイースト・フロントに程近いエクスチェンジ・ディストリクトで起こっている。
つまりは犯人は移動している。それは獲物を探しているから?
益々殺し屋かハンターである可能性が高まった。
取りあえずヴィジランテの集会所からも近いエクスチェンジの現場へと足を運んだ。
イースト・エンドも調べたいが杏珠さんと2人では無理だろう。
現場は5人が昨夜殺されたとは思えない程綺麗に片付いていた。
そこは流石ヴィジランテと言った所か。
「これでは調べても何も出なさそうですね。」
「ディアンさん。何があったんですか???」
そう言えば……ここまで一緒に来たが事件の詳細を話してなかった。
「まさか……実は人形の幽霊と言うのが…………。」
「いえいえ!ではそれもお話ししましょう。」
また徐々に青褪めていく杏珠さんに出来るだけ柔らかく、そして直接的な表現はなるべく避けて事の詳細を話した。
「つまりはその人形の様なドレスを着た女の子が実在するかを探しているんですね?」
「そうです。しかしそれで良くセナテとの話し合いで会話に付いて来れましたね……。」
「いえそこはノリで……w」
杏珠さんらしいな。
「さぁ他に行きましょう。」
「待って下さい。まだここで何もしてませんよ?」
「もうヴィジランテが清掃を行っています。どうせ何も出ないですよ。」
「ディアンさん?どーせって最初から諦めてしまうよりも、やってみなくちゃ分からない!ですよ!!」
これまたポジティブな意見だ。
しかしそうかもな。今は少しの証拠でも良いから欲しい。
「そうですね!少しくらい探してみましょう!」
「そうしましょう!!」
現場の捜査を開始するがやはりそう簡単に何か出て来る訳ではない。
オマケに地面は湿っていて気持ち悪い。
「何も出ませんねぇ……。」
「出る確率の方が少ないですから、切りの良い所でここからは退きましょうか。」
「そうですねぇ……雨も降り続いていましたからもう流されてるかもですしね…………。」
雨?流された?
「そうですよ!杏珠さん流石です!!」
「ふぇ!!?」
偶に核心を突いた事を言い出すから侮れない。
雨はいつから降っていた?犯行時も降っていた筈だ。
だとしたら!
「どうしたんですディアンさん!?」
「証拠が残ってるかもしれない場所があります。杏珠さんのお陰で気付きました。こっちです。」
そう言って自分は路地の脇に設置してある排水溝を開けた。
鬼棲街の人間は気にする事なく道端にゴミを捨てる。
そのせいで雨の日は排水溝が良く詰まっているのだ。
「何かありそうですか?」
「これは……何だと思います?」
ゴミに紛れて引っ掛かっているヒラヒラした紐を見付けた。
汚れてはいるが生地はしっかりしていてまだ新しい。
「う~ん……リボンの様に見えますが……。」
「リボン……人形……フリフリ……ドレス……。」
「確かに西洋ドレスのお人形さんは、首元にリボンを飾ってある事が多いですね。」
やはりそうだ。
この鬼棲街には似合わないリボンが偶々現場に落ちていたなんて事があるだろうか?いや無い。
これは人形の幽霊が"実在する"証拠ではないか?
「杏珠さん収穫です。これで自分達は幽霊を追う必要は無くなりました。」
「や……やりました!ゆ……幽霊なんて居るワケ無いですもんね!アハハ……。」
実在するなら見付けられる!
しかもそんな目立つ格好をしていれば尚更だ。