Episode 10
音楽でも流そうとラジオを付け、適当に周波数をイジる。すると聞こえてきたのは、聞き覚えのあるお笑い芸人コンビの声と、相手は……アイドルだろうか?可愛らしい声。
他に大した番組も無いだろうとそのまま流していると、中々この娘が面白い。第1線級の芸人相手に引けを取らず、ボケとツッコミの応酬をしている。
「それでーりかっちょ!今日は告知があって来たんじゃないか~い?」
「ちょっと待ってぇ!!りかっちょってソレ某お菓子みたいになっちゃってるぅ!!!いやりかっちょも可愛いらしい呼び名ですよ?でも私の愛称はリカッシュですから!!」
「そんでスカッシュさんは何の告知で来たのかな?」
「そうです!私はスカッシュ!!って違ぁ~う!!それ完全に別のやつぅ!何でしたっけ??いや知ってますよ!知ってます!あの……ほら……オリンピックとかの競技の!!!」
「へぇ~スカッシュってオリンピック競技になったんですね~知らなかったなぁ!物知りですね~。」
「おやおや??これは~もしかして?もしかすると!?公共の電波にのせて偽情報を流してしまったってやつですかな?www」
「大丈夫です!りかっぺさんが怪電波なのは、リスナーの皆さん分かってると思いますので。」
「うわぁ~!それ悲しみあるぅ!それでいてカトちゃんペみたいな愛称になってしまっているぅ!」
「そんな事より、りかっち!告知のコの字もまだ出てきてないんだけど?」
「うわぁ~しまったぁ!まだ何も言ってない!でもりかっちも気になるぅ!すんごい普通のやつ出てきたけどまぁいいか!いやダメか!まぁいいか!w」
「お時間どんどん無くなりますよ~?りかコングさん??」
「うわわわわ!!!時間がない!?でも今度は強そうな愛称になっちゃってるから!!!」
「ボケは全部拾ってくタイプみたいですね~!いやぁ芸人の鏡です!」
「いや私芸人じゃないですから!!今日はアーティストとして来ています!!!」
「ねぇリカちゃんリカちゃん?コ ク チ!」
「あぁ!!!しまった!!!」
「はいあと5秒で~す。」
「うわ!!!うわ!!!そういうパティーン???私$♪×¥●&%#の>@#+発売のデビューシングルで@*+◇※▲∴÷▽♪>?+聞いてくださ~い!!!」
「は~い早口で何言ってるのか全然聞き取れませんでした~。」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
漫才を繰り広げた後に曲が流れる。先程のハイテンショントークの時とは打って変わって、透き通ったとても綺麗な歌声をしている。
それよりも気になったのは曲の後にパーソナリティが言っていた言葉……。
「今日の放送はゲストさん所属のレコードレーベルでもある、スペタコロレコードの提供でお送りしております。」
スペタコログループは芸能事務所とレコード会社の2社あり、俳優関係と音楽関係の業務を行っている。
どちらもあのマッテオの春鳥興業が持株会社だ。カリナもスペタコロ所属だったはずだ。
カイから鏑木会系の芸能事務所が譲渡されるという話も聞いたし、そっち方面で力を入れていくつもりなのか?
まぁどうだって俺には関係ない。また適当に周波数をイジり、ビルボードチャートを流してるチャンネルに落ち着く。
目的地まで後1時間ほどだ。歌に合わせ鼻歌交じりに車を飛ばす。
ICを降りた先は、この時間にはほとんど車も通らない海沿いの田舎町。
本来なら用事など全くないであろうこの町に来るのは訳がある。
最寄りのICから20分ほど車を走らせた工場。そこに言われた通りに乗り付ける。
看板には"有限会社 木村金属"の文字。
「おい!音楽がうるせぇぞ!何時だと思っていやがる!ここは東京じゃねぇんだぞ?」
中から口の悪い作業着の男が姿を表す。
「それに……丸帽から依頼を受けた覚えはねぇんだけどなぁ……。」
「こりゃあ今回の変装だ。」
「んなこたぁ分かっとる!皮肉だよ!んで今回の"おまけ"とやらは?」
「リアーハッチのトコにあるバッグに入ってる。」
「まぁもう死んでいるなら問題ない。しかしあんたらも羽振りがいいねぇ!車一台簡単に潰しちまうんだから。」
「この車の用意も、改造も、全部料金に上乗せしてある。金を持ってるのは俺を雇った奴らさ。」
「世知辛いねぇ。どの世界でも現場の人間が、1番割に合わない事をしてんだよなぁ。」
「いいから早く見積もってくれ!この車自体は新しいから、結構パーツ取り出来るだろ?」
「言っても軽だからなぁ……。まぁ期待せんでくれ。それに一晩しか時間がねぇからな。」
「そうか。じゃあ俺はいつもの所で寝てていいか?」
「あぁいいぞ!素人に横に居られても邪魔だしな!」
「したら朝に起こしてくれ。」
「気楽そうでいいな。」
「…………仕事……変わってみるか?」
「……いや遠慮するわ。」
工場の上の事務所のあるフロアには、労働者用の仮眠室がある。今は本業の仕事が減り、従業員も居なくなったこの会社で、利用する者は居ないみたいだが。
持ってきた普段着に着替える。この後はあの制服じゃあ逆に目立つからな。
ベッドに横になり、早速仮眠を取る。いつでもすぐに寝れるのが俺の特技。休める時に休む、そういう習性がついてるからだ。
少し夢を見た。
その中でエドアルドはまだ生きていた。マッテオと仲良く肩を組み、笑いながら酒を飲み交わしていた。
きっと互いに憎しみ合っていたワケでもないし、上手く和解出来たんだろうと。
俺はその光景を傍から見ていて、あぁこういうのって何かいいなぁ……と微笑ましく感じていた。