表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/146

Episode 107

「アイツどういうつもりだ!?」


俺達は付近を急いで捜索する。


「ちょっと待ってよ!この街で迷子になったら中々見付からないし、一旦落ち着こうよー!」


それは分かってる。

彼方此方(あちこち)に路地が計画性も無く張り巡らされ、土地勘の無い者が紛れ込めばここは迷宮へと早変わりする。


「だがアイツは中国政府の人間だぞ!?見失いましたで済む相手じゃあない。それにもう日没まで時間が無い!早く見付けないと!」


本当は中国政府とかどうでも良いが、見付けないと俺がミディアに殺される。


「大丈夫だって!お腹空いたら帰ってくるんじゃない?」


やはりアホだ……コイツは。


「お前なぁ……犬や猫じゃあないんだぞ?」

「でももう走りたくないよー。休もうよー。」


俺だって嫌だよ。


「そんな事言って、お前だってこんな失態ヒロにバレたら怒られるだろ?」

「えー大丈夫だよー。鬼棲街の中で行方不明なんて珍しい事じゃないし、ヒロ君だってこの街で誰が死のうが気にしないと思うけどね。ヒロ君が嫌うのは下界の人間が面倒を起こす事だよ。」


能天気だ……。

寧ろコイツ等始めからそのつもりだったんじゃあないだろうな?


「きっとアイツは何かを仕出かすぞ?」

「えぇ!?何でだい?」

「俺が思うにアイツは誰かを探している。ソイツは恐らくあの餓鬼共の中に居るんだろう。」

「そうなの?調査じゃなくて?」

「街に入ってから1回だって調査してる素振りを見せたか?寧ろ心ここにあらずって雰囲気だったぞ。」

「へぇー。」


聞いておいて無関心かよ!


「考えてみろ。何でアイツは1人で来たんだ?政府の仕事ならこんな危ない街に1人で派遣なんてされないだろ。きっとこれはアイツ個人の依頼だ。」

「ちょっと待って!!!」


アルは急に立ち止まる。


「僕達はミディアから公的な仕事だからって協力してるんだよ?鬼棲街やボラカイが中国政府と良い関係を保てる様にって!」

「何だいきなり……。」

「もしあの人個人の依頼なら僕達は協力する理由が無い。」


そう来たか……。

つか元々協力など殆どしてなかったけどな!


「中国政府に恩を売れないなら僕達には利点は無いし、あの人が勝手に死んだって責められる道理も無い。と言う訳で、僕はこの件から下りさせて貰うよ!」

「待て待て!面倒を起こされると困るんだろ?」

「あんな素人1人じゃどっかで身包み剥がされて殺されるのがオチじゃない?そんなのは騒動じゃなくて"日常"だよこの街では。」


確かにそうなるとコイツ等にとっては骨折り損の仕事にしかならないな……。

しかし俺にとっては殺される事は大問題だ。主に俺の命の為に……。


「じゃ悪いけど僕は帰るよ!まったねーシカリウスー!」


今はコイツの手でさえも借りたい状況だ。


「アル!!」

「ん?何だい?説得しても無駄だよ!」

「俺が個人的にお前に協力を依頼したい!」

「え?何でさ!嫌だよ!もう疲れたし。」

「報酬ならちゃんと出す!」

「お金には困ってないから嫌ですー!」

「いや……かどやの水羊羹でどうだ?」


その提案にピタッと足を止めるアル。


「どうだ?お前等は手に入れるのは難しいだろうが、俺なら明日にでも手に入るぞ。」


かどやとは日本全国にある有名和菓子店。ここ六本木にも店舗があり、鬼棲街の連中にも人気がある。

だが鬼棲街の人間は基本的に外に出ないので、外部からの物を手に入れるのは一苦労だ。

それにコイツは甘い物に目が無い……筈だが。


「何を言ってるんだいシカリウス?」


真面目な顔で振り返る。


流石に10年も経てば好みは変わるか……?


「水羊羹は夏の期間しか販売してない。今を逃すと次手に入れられるのはいつになるかな?」

「…………。」


効いてるのか?呆れてるのか?


「20個買って来てやる。」

「…………。」


駄目か……?


「30個だよ!30個じゃなきゃ手伝わないよ!」


よし!やっぱりアホだ。

変わってなくて安心した。


「商談成立だな。」

「明日だよ!?絶対だからね!!?」

「安心しろ。男に二言は無い。」

「よーし!!それじゃサッサと探しに行こう!」


浮かれてスキップまで披露しているアルを苦笑いしつつ見守る。


幹部がこんなんで良いのかヴィジランテ!


「つか何処に行くんだ?宛はあるのかよ?」

「え?無いけど?」


おい!!!


「じゃあ何処に向かってるんだお前は?」

「何となくこっち。野生の勘ってヤツ?」


お前から野生らしさを感じた事は1度たりとも無いが……。

ん?ちょっと待てよ?もしかして…………。


俺は30分程前のアルと老人の会話を思い出した。


『最近"あの子達"をイースト・エンドの方で見掛けたって話を聞いたけど大丈夫なんかい?』

『流石年寄りは噂が広まるのが早いね!でも大丈夫爺ちゃん!ヴィジランテはちゃーんと仕事してるよ!』

『でもあそこは"連中"のテリトリーじゃろ?ヴィジランテでも手が出せない。そんな所で何をしとるのか……。』

『心配しないで!何をしててもこの街の治安は僕が守って見せるから!!』


あの会話の中で餓鬼共はイースト・エンドに居ると。そういう風に聞こえた筈だ。

それに劉は反応した。だって自分の目的がそこにある可能性があるからだ。


「おい!イースト・エンドだ!!劉はそこに向かった!」

「え?何で分かるの?」


えぇい!アホな奴に一々説明するのは面倒い!


「兎に角東側に急ぐぞ!間も無く陽が落ちる!」

「ちょっとー!また走るのー!?勘弁してよー。」

「付いて来れないなら水羊羹の話は無しだ!」

「それずるいよー!待ってー!!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ