Episode 106
「どう調査は?若者もちょこちょこ居るでしょ?」
コイツは白々しい。
「いえボラカイでも話したのですが、未成年の調査が目的なので。」
先頭のアルはその言葉に立ち止まる。
「やっぱり。あなたは"彼等"が目的なんだね。シカリウスは知ってたのかい?」
「まぁ……そうだと思ってはいたが。」
「じゃ教えてあげなきゃ!彼等の調査なんて"不可能"だよって。」
「…………。」
だってミディアが断れないって言うから。
「どうしてですか?」
「あなたが言っているのはこの街の所謂少年ギャングの調査って事になるよね?」
「…………それも含めた未成年の調査です。」
「だから無理なんだよ。彼等に近付くのは。僕達の言葉は通じない。あなたがしようとしているのは牙剥き出しの野犬の群れに飛び込んで行く様なモンだよ。それに僕達ヴィジランテでさえ居場所を掴みにくいのに、こんな短い時間で見付かる筈が無い。」
劉は押し黙ってしまう。
「とにかく彼等が目的なら僕達は協力は出来無い。やりたく無いと言うより現実的に協力不可能だと思って貰いたい。」
当然の言い分だ。鬼棲街には鬼棲街の理がある。
だが分かってない外部の人間はそれをいとも容易く壊そうとする。
だからここの人間は外の奴等を嫌う。
「しかし何が何でも……。」
「よう!ジョヴィアルじゃねーか!」
突然大男から話し掛けられる。
「何してやがんだ変な連中連れて?」
「チッ!嫌な奴と会ったな。何でも無いよ!ヴィジランテの仕事さ!」
「おいおいお前……最初の部分は聞こえない様に言うモンだぜ?」
大男は4人の取り巻きを従えてる。
「見た感じ下界の奴等だな。いつからヴィジランテは下界の犬になったんだ?」
「なーに。あんた達弱者が虐められない様に仲を取り持つのもヴィジランテの仕事だよ!」
「誰が弱者だって!?」
男達は各々に武器を取り出す。
これはヤバイ状況なんじゃあないか?
「あれれー?ヴィジランテに手を出すのかい?良いのかなぁ?"公務執行妨害"で懲罰棟行きになるよ?」
「お前じゃねぇ!そっちの下界の偉そうな奴を渡して貰おう。スーツなんて着やがって!舐めてやがる。」
「この人は僕のお客さんだよ。それに手を出すって事はヴィジランテに手を出すのと同じ事になるけど?」
「オレ達も下界の人間を排除する権利を持っている。お前こそ邪魔をするな!」
「僕達を敵に回す気なんだね?」
「下界の人間を連れて来るくらい腑抜けちまったお前等など知ったこっちゃない。それに元々オレ達はお前等に守って貰おうなんざ考えてねぇ。そっちが勝手にヴィジランテを名乗ってるだけだ。」
「チッ!話が通じない人達だ。悪いけどシカリウス……ってシカリウス!?ちょっ!!!」
空気を切り裂く音と共に大男が後ろに倒れる。
「お前等面倒臭いなぁ。」
「コ……コイツ撃ちやがった!!」
俺の放った弾丸は大男を1撃でノックアウトさせた。
「何で銃を持ってんだ!?おいジョヴィアル!コイツもヴィジランテなのか?」
「ちょっとちょっと!!何やってんのシカリウス!?いくらこの人達がウザいからって!」
「お前等の仲違いに一々付き合ってられるか!!それに彼は"俺の"客だ。ヴィジランテのじゃあない。だから俺は俺のやり方で守らせて貰う。」
「だからって撃つ事無かったじゃない!?ヴィジランテも一般人は基本的に撃たない。ヒロ君に何て説明すれば…………。」
「安心しろ。俺が撃ったのはゴム弾。ソイツは気を失ってるだけだ。だが相当痛いぞ?他の奴等も同じ目に遭いたくなければ退いて貰おうか。」
俺は銃を仕舞うこと無く他の4人へと向ける。
「お願いだからもうやめてよー!今日の仕事で君が騒動を起こすと僕がヒロ君から怒られるんだから!」
「じゃあ文句は直接俺に言いに来いとヒロに言っとけ。」
本当に来られても困るが……。
「そんな事言える訳無いじゃんかー!あんた達も素直に退いた方が良い。このオジさんは暴れると手が付けられないから!」
オジさんって…………。
「クソッ!」
2人掛かりで大男を担ぎ、連中が去って行く。
「ふぅ……全く!もう少し穏やかに出来ないモンかねぇ?」
「どの道あの状況じゃあ乱闘になってただろ?俺がサッサと解決してやっただけだ。」
「僕とシカリウスならもっと穏便に鎮圧出来たさ!それにいくらゴム弾だったとは言えすぐ銃が出るのは褒められた事じゃないよ?」
「今日の朝に存分に汗を掻いたからな。これ以上の運動は御免被りたい。それに乱闘になったら"俺の"依頼人も安全じゃあなかっただろ?」
5人の凶器を持った男達相手に何が"穏便"だ。何処からそんな自信が出て来るのか知りたいね。
俺の記憶の中には強い相手にアホな事言ってピーピー泣かされているアルしか居ない。
「と言うか……ねぇシカリウス?その"君の"依頼人は何処に行ったんだい???」
あ……れ……?
劉が居ない……?