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Episode 104

昨夜からシトシトと降り続いた雨が止んだ昼下がり、完成しつつあるふぁくとたむのオフィスのソファーに腰掛けている俺とミディア。


「鬼棲街の調査だと?」


そしてミディアは新たな仕事の依頼を持って来たのであった。


「そうなんだヨ。仕事内容はナビゲート兼ボディーガード。しかも急な依頼で開始は1時間後。おかしな話だけど、中国政府外交官直々の依頼なんだこれが。」

「…………。」


今日は朝からこのビルの模様替えを行なっていた。

初仕事の報酬が意外にも多かったからだ。


雨のせいで高湿度だった訳もあり汗を存分に掻いた俺は、ここいらでシャワーでも浴びてゆっくりしたい所なのだが……。


「ウチの皆で手伝ってあげたよネ?」


確かにボラカイの従業員総出で手伝ってくれた。

テーブルやソファなどの大型家具は、彼等が居なければ運び込めなかっただろう。


「頼むヨ!こういうトコからの依頼は断りにくいんだヨ。それに報酬もキッチリ出るからネ?」

「…………仕方無いな。」

「流石!ありがとネ!」

「しかし外交官が何の用だ?」

「さぁ……不法滞在の中国人も多いからその調査じゃない?もしくは只のパフォーマンスかもネ。政府側に仕事してますよーって。」

「態々鬼棲街を調査するか?公式には存在してない街だぞ?」

「ワタシもお偉いさんの考えてる事なんて分からないヨ。」

「それにヴィジランテは許可してんのか?」

「アイツラも政府関係者とはイザコザを起こしたくないだろうからネ。調査は2~3時間の話だし、一応ヴィジランテからも1人案内が付く予定だヨ。」

「げっ!アイツ等からも1人来るのか?俺は止めていいか……?」

「ユージーン?そういう逃げ腰なのは止めなヨ。オマエも今はまたこの街の住人なんだから。」

「…………すみません。」


相変わらず母親の様だ。


「そうそう忘れてたこれ。」

「何だ?」


ミディアの手の中には銀色で筒状の物が乗っている。


「イヤーカフだヨ。オマエの耳見苦しいからネ。丁度良い物を見付けて来てあげたヨ。」


どうやら耳に被せるタイプのアクセサリーらしい。

左耳の欠損部分に嵌めるとピッタリと収まった。


「うん!似合ってるネ!これでワタシもアンジュもその醜い物を見なくて済むヨ。」

「あぁ。サンキュー!」


正直助かった。自分でもどうしようかと考えていた所だ。


「じゃ30分後にウチに来てヨ。ワタシも詳しい事を知らされてないから、詳細はクライアントと直接確認してネ。」

「丸投げかよ!」

「話し合いに同席はするけど、本来ワタシ達は只の仲介役だからネ。頼んだヨ!」


拒否権も無しか……。


「あっそれとアンジュも連れて来てネ?オマエが仕事してる間ワタシ達は優雅なお茶会でもしてるから。」


チクショウ。


「じゃ後で!」

「…………。」


ミディアは有無を言わさずこの場を去った。


アンジュは今シャワーを浴びている。

女の化粧や支度って30分で終わるのか……?


ハァ……やれやれだ。


今日も自然と溜息が漏れる。


その後準備に半泣きのアンジュを更に駆り立て、何とか30分でボラカイへと到着する事が出来た。

良く良く考えればアンジュは別に俺が連れて来なくても、ボラカイから迎えを送れば良い話だったと気付き申し訳無くなる。


「今日はよろしくお願いします。」

「こちらが今日のクライアントの劉博文(リウブォウェン)さんだヨ。」

「ども……です。」


来たのは劉と呼ばれた男唯1人。

こういうのには調査隊みたいなのが組まれるんじゃあないのか?


「愛想の無いヤツでごめんなさいネ。でも腕は確かですので。それに鬼棲街にも詳しいです。」

「いえお構い無く。あの街を安全に回れれば他には何も要求しませんので。」

「そう言って頂けるとありがたいです。何せあの街に関わる人間は素行があまりよろしく無いので……。」


ミディアが俺を睨む。

お前もだろ!


「それから街の住人からも1人ナビゲーターが付きます。彼とは街の入り口で2時半に待ち合わせの予定です。」

「分かりました。お世話になります。」

「なあ?ソイツは誰なんだ?俺の知ってる奴か?」

「そういう私情は慎めヨ。誰だってオマエには関係無いだろ?」


酷い言われ様だ。

この前の依頼主への俺の態度が気に入らなかったらしく、今日は妙に当たりが強い。


「チッ!まぁ良い。それでアンタ……。」


ミディアが鬼の形相だ。


「えぇ……っと、あなたの目的は何ですか?俺の役目は?」

「実は今回極秘の調査でして……。街に居る未成年を調べる必要があるのです。勿論我が国出身の者達に絞りたいのですが。」

「未成年ねぇ…………。つかそれならミディア分かるんじゃあないのか?」

「う~ん…………。」


ミディアが落ち込んだ様に頬杖を突く。


「どうした?」

「いや……この間アドミンと話していてショックな事があってネ。ワタシ達の管理能力は力不足なのかもしれないって……。」


俺はそういった類の管理仕事はした事無いから分からんが、アドミンは人の心を弄ぶからなぁ。


「この問題は少し繊細な背景がありまして、自分の目で確かめたいのですが……。」

「ですが劉さん。あの街に居る子供達は少し特殊でして……。」

「それについても承知しております。その上でお願いしたいのですが?」


本当に分かっているのかこのおっさんは?

もし"餓鬼共"の調査なら準備が不十分だ。


「分かりました。ワタシ共としても街の詳しい状況は気になる事です。協力は惜しみません。」


おいおい。まさか無料でとか言わないよな?


「ありがとうございます。では早速向かっても?」

「はい。丁度良い頃合いですネ!行きましょう。じゃ頼んだヨ!」


協力を惜しまないって言っておきながら、やっぱり丸投げじゃあないかよ!!


「よろしくネ!!」


今度お前のオフィスの1番高い酒飲んでやるから覚悟しとけよ!?


声に出来ない反抗の気持ちを胸に仕舞い込み、俺と劉は鬼棲街へと向かった。

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