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Episode 102

「やはり当たり……ですね?」

「オセロットって……確か絶滅危惧種の??そうだヨ!丁度先日都内でオセロットの目撃情報がネットに流れていたネ!」

「はいそうです。一昔前ペットとしての需要と、毛並みの美しさから毛皮用に乱獲され激減しています。なので現在はワシントン条約で野生の捕獲、飼育や取引は禁止されてます。もちろんここ日本でも。」


何かややこしい話になって来た。


「それを何故あなた方が所有してるのですか?失礼ですが、見た所絶滅危惧種保護団体や、繁殖研究機関関係者でも無い様にお見受けします。」


確かに公的機関の者なら真っ先に名刺の1つでも渡して来るだろう。


「そして一般の方がオセロットを手に入れるのは非常に難しい。でも人工繁殖などの個体が手に入る可能性も僅かですがあるので私は聞きたいのです。この子は合法的に手に入れたのですか?そして所有の目的は何ですか?返答によっては私達ふぁくとたむは全力で引き渡しを拒否します!」


ふぁくとたむって勿論俺も含んでいるよな……?


「待って待って!アンジュまで。チョット落ち着いてヨ!ネ?」

「いいえ。もしこのオセロットちゃんが法律に従って飼われてないなら、私は引き渡しには応じません。そしてこの件を通報させて頂きます!」

「アンジュ聞いて。ここでは綺麗事ではやってけない事も沢山あるんだヨ。もちろん犯罪絡みの依頼だって沢山関わる事になる。それに一々反発してたら……。」

「ミディアさん。申し訳ないですが、私は意見を変えるつもりはありません。例えばもしこちらの方が毛皮ブローカーであると仮定したら、このオセロットちゃんは殺されてしまうんですよ!?寧ろ関わってしまった以上、見過ごす訳にはいきません!」

「でもネ!ここにはここのルールがあってネ。互いの素性には干渉しないって……。」

「ミディアさんも良く見て下さいよ。この美しい顔立ちに綺麗な毛並み……。私はこの子が不幸な結末を迎えることは断じて許せません!!」

「ハァ……チョットユージーンも何か言ってヨ!相棒なんだろ?」

「意外だろうが、アンジュはこうなると何を言っても無駄だぞ。」

「いや頑固なのは分かってたけどここまでとはネ。」

「コラー!誰が頑固や!w え?頑固ですか私?」


頑固者は自分では気付かないんだよな……。


「面白いお嬢さんですね。」

「ごめんなさい。ややこしくしてしまって。」

「いえ……事実を隠して依頼を出したのは私共に非があります。余計な詮索をされずに穏便に済ませようとした事が裏目に出ましたね。それにしてもとてもお優しい方だと思います。自分とは関係の無い動物にまでこんな真剣になっていらっしゃる。それにお嬢さんが仰っている事もご(もっと)もです。証拠もありませんし、納得して頂けるかは分かりませんが、何故私の旦那様がオセロットを所有しているか。それをご説明致します。」


随分と物分りの良い爺さんだな。

さっき俺が詰め寄った時も表情1つ変えなかったし。

コイツが旦那様と呼ぶ本当の依頼主と言い、何者なんだ?


ディアンがコーヒーを用意し、全員テーブルに着いて話を聞く。


「まず私の旦那様、名前は控えさせて貰えればと思いますがとある財閥の中心に居られた方で御座います。現在は引退されておりますが、当時は革新的な経営戦略を展開し、その手腕でグループを更に躍進させました。」

「聞いた事あるネ。それって…………まぁ言わないでおくかネ。」

「ありがとうございます。そして奥様とも仲睦まじく幸せな家庭も築かれておりましたが、不幸にも子宝には恵まれず、とても寂しい思いをされておりました。その代わりと言っては何ですが、奥様は猫がお好きでして、古今東西様々なネコ科の動物を取り寄せ、屋敷で飼育なさっておりました。勿論合法的にで御座います。オセロットも当時はペットとして取引されており、私共も個体数の低下の一因になってしまったのは申し訳無く思っておりますが、旦那様と奥様は雄と雌の2匹のオセロットをご購入されまして、そちらも屋敷内で飼育されておりました。」


話は長くなりそうだ。年寄りと女は長話が好きだな。

俺としては追加料金を貰えればそれで良いのだが……。


アンジュを横目で見やる。とても真剣な顔だ。

ハァ……これは付き合うしか無い。


「人工飼育下では滅多に繁殖を行わないと言われていたオセロットですが、その2匹の間には何と3匹の子供が生まれたのです。旦那様も奥様も大変ご喜びになりました。しかし飼育環境に因るのか、2匹が障害を持って生まれて来たせいなのか、母親は育児をする事が無かったのです。」

「うわぁ……どうなってしまうんでしょう……。」


今日もとても豊かに喜怒哀楽を表情に浮かべるアンジュは、まるで絵本を読み聞かせられてる子供の様だ。


仕事っつー事忘れてるな。


「そこで奥様はご自身でオセロットの子供を育てる事にしたのです。ですが障害を持った2匹は獣医に診せても良くはならず、残念ながら産後1週間程で亡くなってしまいました。奥様は残った1匹をそれはそれは我が子の様に愛情を注いでお育てになり、勿論旦那様も同じ様に愛情を注がれました。そして月日が流れ、その子供は立派に成長し現在に至ります。」


丁度コーヒーを1杯飲み終えたくらいで話もひと段落ついた様だ。


「じゃもしかしてこのオセロットちゃんがその……?」

「はい。旦那様と奥様の子供です。」

「所有している経緯は分かりました。ですが何故この子がこの街に?」

「そうですね。では最後までお話し致します。実は先月その奥様が亡くなられました。」

「えぇ!?急展開!!!」

「ご病気などは無く、天寿を全うされた様です。ですがやはり晩年は殆ど床に就いている状態でして、旦那様もご高齢で飼っている猫達の世話も儘ならないと、惜しみながらも知人や信用出来る方々に猫達を引き取って頂きました。しかし最後まで手放せなかったのが自分達の子供でもあるそのオセロットです。」

「それは手放せないですよ!!」


さっきまで所有している事に疑問を持っていたアンジュだが、今は完全に感情移入してしまっている。


「私も協力させて貰い何とか世話も続けていこうと誓ったのですが、奥様が亡くなる際に、法律に従い飼育していた為屋敷の中でしか生きて来れなかったその子に、1度も自然を見せてやれなかったのが心残りだと……。その言葉に旦那様はその子自身が平均寿命も近い事もあり、元々オセロットの生息地である南米の知人を頼り、最後に大自然の中で過ごさせてあげようと言う事になったのです。」

「そうですか……。後は察しが付きますネ。輸送中に何かトラブルでしょうか?」

「その通りです。屋敷は神奈川県にあるのですが、そこから高速道路でチャーター機のある成田に向かう途中、この六本木の上の首都高で渋滞に巻き込まれましてね。その時急にその子が暴れ始めたので、私が(なだ)めにケージを開けた所一目散に逃げられてしまいました。元々身体能力の優れた種なので首都高の高架から飛び降りるのも訳なかった様です。」

「では本当に偶然この街に逃げ込んだワケですネ?鬼棲街は袋小路ですから、逃げ込んだこの子が混乱して抜け出せなくなるのも頷けます。」

「しかし何故突然暴れ出したのか……。初めての車移動と言う点もありましたが、それならば走り出した時点でパニックを起こしても良さそうなものですが。ともかく車が苦手ならば、この様に眠らせて成田まで運ぶしかないでしょうね……。」

「私…………。」

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