Episode 100
「それでウチに仕事を集りに来た……と?」
「そうです!仕事を恵んで下さい!」
ミディアに頭を下げて頼み込む俺。
俺達はボラカイのオフィスへと突撃訪問していた。
「ご迷惑だったでしょうか?」
「いやアンジュは良いんだヨ。しかしこのバカは……。」
「良いじゃあないか!今まで通り仕事を紹介してくれよ。」
「いやワタシが文句言いたいのはネ、『2人で出来る仕事をくれ』って部分だヨ。オマエはアンジュを養ってやる位の甲斐性は無いのかネ?ユージーン?」
「うぅ……それを言われると…………。」
「違うんです!私がコンビでやりましょうって言ったんです。」
「コンビ???」
「そうです!!私とシカさんはコンビを組んだんです!!!最強コンビです!!!」
「ユージーン!?オマエまたアンジュを誑かして!!!」
「いや……俺は何も…………。」
「大丈夫ですミディアさん!私達が組めば出来ない事は何も無いですから!!!最強コンビです!!!」
「…………。」
「…………。」
「あれ!?何か白けてるぅ!!私だけ!?盛り上がってるの私だけ!!?悲しいかよ……。」
「ハァ……。それでアンジュはどんな事するつもりなんだヨ。」
「もちろん何でもやりますよ!!!"万事屋"ってのはどうでしょう?」
あれ?これは…………。デジャヴか…………?
『それでユージーンはここを出て何をするつもりなんだヨ。』
『勿論何でもやるさ。"何でも屋"ってのはどうだ?』
『ハァ?そういう中途半端なのが1番危ないんだけどネ。』
『色々やってく内に何か定まるだろ。』
『全く……楽観的にも程があるヨ。』
『まぁ何とかなるんじゃあないか?つか仕事あったら紹介してくれよ。顔広いだろ?ミディアは。』
『…………。』
10年前。俺とミディアが交わした会話を今はアンジュが繰り返してる。
「万事屋?それは何でも取り扱うって事かネ?」
「そうです!!実は……私の大好きなマンガの主人公達がやってるのが万事屋なんですよ!w もう私そのマンガのだぁっっっいファンで!!!!!」
いつも以上に目がキラキラしている。
「つまりは"何でも屋"って事だよネ?」
「そうなりますかね~。」
ミディアが複雑な表情で俺を見つめる。
分かってる……分かってるぞ。
お前が何を言いたいか。
俺も最初の頃こそ何でもやっていたが、結局は金になり、俺の能力も活かせる"殺し屋"に落ち着いてしまった。
最近も偶にはミディアからの紹介でそれ以外の仕事もしていたが……。
「アンジュ……考えてくれ。俺達は専門知識も無く、只"何でもやります"って看板を掲げるって事はだ。結局来るのは殆ど危険で、他には頼めないから来る依頼ばかりなんだぞ?」
「何とかなりますよぉ!危険な事はなるべくやらない様にすれば良いんです!!」
ヤバイ……キラキラが止まらない。
完全にアンジュの妄想の中で事は進んでいる。
「クックックック!いやぁ面白いヨ!アンタラ2人共能天気で似た者同士だネ!」
「え?本当ですかー!?やったぁー!!!」
いや褒められてないぞ……。
「分かった!アンジュがそうしたいならワタシも協力するヨ!」
「よしよしよしよし!!」
「良いのか?」
「まぁ単価は安くなるけど、ウチには簡単な仕事も入って来るからネ。それを紹介してあげるヨ。例えば…………。」
ミディアはPCで何やらカタカタと探し物を始めた様だ。
「楽しみですねシカさん!」
全く思わないのだが……。
「これ良いんじゃないかネ。えぇーっと……逃げた飼い猫の捜索で、その猫は運悪く鬼棲街に迷い込んでしまったみたいだヨ。」
PCのディスプレイをこちらに向けて説明を始める。
「鬼棲街の中だと一般の業者では立ち入れないからネ。ウチに来たんだろう。今日入ったばかりのホヤホヤの案件で報酬は10万円。必要経費は全額相手持ち。それに……ワォ!捕獲用の麻酔薬まで支給されるヨ。初仕事しては破格の条件じゃない?」
「ペットの捕獲ですかー!何か万事屋っぽくて良いですね!w」
猫の捕獲に麻酔薬支給?怪し過ぎるだろ……。
それに報酬も高いんじゃあないか?
「それ……裏があるんじゃあないだろうな?」
「そりゃウチに来る仕事だからネ。多少は覚悟して貰わなきゃいけないけど、まさか猫の捕獲で命の危険は無いと思うけど。」
「シカさん!是非やりましょう!!」
ダメだ……。
アンジュは今日1番の笑顔で"オラ、ワクワクすっぞ"状態だ。
「しかしこんな明らかにヤバそうな依頼でミディアは良いのかよ?アンジュを危険な目には遭わせたくないんだろ?」
「もちろん!でもそれはちゃんとユージーンが守るんだよネ?アンジュが怪我でもしようもんならオマエを殺すヨ?」
マジか……。
こっちも今日1番の笑顔だ。
その笑顔の奥の凍て付く様な表情に身体中から寒気が走る。
「じゃこの依頼はアナタ達に任せるヨ。所で先方に遂行者の名前を報告しきゃなんだけど、どーする?ユージーンの名前で良いかネ?」
「そうですよ!!折角なのでやっぱりコンビ名を決めましょう!!!」
「コンビ名ねぇ……さっき言ってた万事屋じゃダメなの?」
「う~ん…………流石に丸パクリなのもどうかと思いましてw」
「でもマンガの話だよネ?気にする事無いんじゃない?」
「そうなんですが……。好き過ぎて私なんかが使うのは恐れ多いですw」
「律儀なんだか良く分からないけど……。とにかく違う名前が良いんだネ?ユージーンは黙ってるけど何か無いの?」
やっぱり俺に来たか。
「アンジュの名前もピッタリなのをパッと決めたし、今回も良いの無いかネ?」
「シカさぁん……お願いします!」
急に言われてもなぁ。
「Factotum……とか?」
「おぉ!!語呂が何か良いですね!どんな意味なんですかー?」
「ラテン語由来で、まぁ万事屋みたいな意味だ。」
「万事屋!!!ピッタリですぅ!!!」
「ユージーン……それはビミョーに違うんじゃないかネ?」
「そういう意味も含んでるから大丈夫だろ。」
「そうですよ!大丈夫ですよ!こーゆーのは勢いも大事ですからねw いや良いですよ!ふぁくとたむ!!私とシカさんのコンビ名はそれにしましょー!!!」
「そうだネ……まぁ鬼棲街の連中には分かりやすくて良いかもネ。それにしてもユージーンは名付けの才能あるんじゃない?」
「本当ですよ!!シカさんの考える名前は何か響きが良いですよね!!!」
そうか?いつも只の思い付きなんだが……。
「じゃ早速先方に依頼受託のメッセージを送るからネ。悪いけどアンジュ、書類に間違いがないか確認してここにさっきのコンビ名で名前書いて貰える?」
「あ!はぁーい!!」
アンジュが契約の確認を始める。
「ヒロから何か言って来たか?その……俺の事で。」
俺はミディアに聞き辛い質問をした。
しかしあそこに住むにあたって1番気になる事を。