Episode 0
梅雨も真っ只中の6月下旬。ベタつきを感じる湿気は、気温の割に不快指数を上昇させる。
特に普段から厚着の俺は、冷房も効いていないこの部屋では、こめかみから絶え間なく出る汗を抑えきれずにいる。
しかし目下の問題は、暑さとは別のところにある。
俺は今、目の前の光景を必死に理解しようと、脳をフル回転させている。
それなりに長くやってきてはいる仕事だが、こんな場違いなのは初めてだ。
キョトンとこちらを見つめる"それ"を見て、余計に頭が混乱する。
これが今回のターゲット!?間違いじゃあないのか???
そう。俺が銃を向けている相手は……。
身長は150cmあるかないかの小柄な佇まい。
薄い水色をしたメイド服。
白いオーバーニーソックス。
長い黒髪を2つに分けたツインテール。
おまけに頭には猫耳、スカートからは尻尾が生えている。
まるで2次元から飛び出したかような少女がそこに立っていた。
「嘘だろ……?」
「いや間違いない。」
電話口で確認する。
「今回の依頼は…………。」
呆然としながらも照準を外さない俺に、なぜかその娘は屈託のない微笑みを返す。
「その娘の処分だ。」
この時、俺にとって最初で最後の、最悪で最高の夏が始まりを迎えた――――――